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小説 ごわさん

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「ごわさん」って何ですか?!
「ごわさん」とは算盤(そろばん→その昔、計算をする際に用いられていた道具)で、数字を全て一旦、ゼロ…
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#小説

【小説】ごわさん(1)

【小説】ごわさん(1)

納品しそこねた男

辛うじて、男は運転を続けている。
明け方の、まだ群青色に薄く染まる町と同じ顔色の男がハンドルを握っていた。
つい先程、男の心は千切れた。
キャベツ一玉をもぎ裂くような音がきこえた。

『……ルートから外れています』

男は株式会社アマゾン社長、三俣(みまた)ケイスケ。
アマゾンといっても大手通販会社ではない。
安物のエアポンプがあげる泡のような、細々とした経営状況の爬虫類専門、

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【小説】ごわさん(16)

【小説】ごわさん(16)

踊り人の訪れ

地見屋、碇は港の防波堤の突端に腰かけ、空を見ていた。
碇は微動だにしない。
擦り切れたズボンの裾から出たゴボウに似た足を海側へ垂らしていた。
腰さえ浮かせば、そのまま海にすとんと落ちるような、そんな身軽さだった。
突然、踊り人となったあの日から、碇は姿だけを地上に残し、中身は宙に吸い込まれたかに見えた。

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