米央東京(よねおときお)/大葉粒(おおはつぶ)

子どもの頃の思い出や最近のこともエッセイとして書いていこうかと思います。 どこかにわた…

米央東京(よねおときお)/大葉粒(おおはつぶ)

子どもの頃の思い出や最近のこともエッセイとして書いていこうかと思います。 どこかにわたしの何かが残っているのもいいかと思って。 もし宜しければ、小説もどうぞ。

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【小説】ごわさん(14)

『時』の憑依  事件

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300
    • むかぁし、昔……経理は狂犬だった

      その昔、会社の経理課は怖かった。 今はそうでもない気がする。 髪を振り乱してキーボードを打ちまくり、奇声を上げて封筒に書類を入れていた女性が、そのソフトを使うようになってからは優し気に微笑みながら同僚へ手作りクッキーを配っている……といったCMが最近流れているが、本当にひと昔前の経理課はどこでも恐ろしかった。 友人のMちゃんには経理課……と言えば思い出す顔がある。 ショートカットで細身。その女性はいつも怒っていた。 笑顔を見たことはなかったし、朗らかに周りと会話する場面に

      • ちょこちょこちょこ……。

        夏休みや冬休みは、母方の実家がある田舎へ行くのがうちの家の決まりごとだった。 毎回、必ず祖母は駅まで迎えに来てくれた。 たいていは電車(おばあちゃんは汽車と呼んでいた)を下りるとすぐ懐かしい祖母の顔が見えた。 祖母の姿がないことは本当に稀なことだった。まだ来ていないと不安になり、駅の待合室や駅の周りを見渡して探す。 「あ、来た来た! おばあちゃん。おばあちゃぁーーん!」 久しぶりの田舎の景色の中に小さくおばあちゃんの姿を見つけると、わたしたちは手を振って大声で呼んだ

        • シンクの神事

          暫く一緒に暮らしていた姪っ子が出て行った。 子どもが無い身の無駄な責任感なのか、柄にもなく、これを機会に教えてやらねば……と要らぬ苦言を発したこともあったな、と思う。 自分の人生で得たしょうもない統計学を通して、よりよい人生を歩んで欲しい、などといつも考えていた。 逆の立場なら分かる。 分かる訳はないんだ。 同じような年の頃、わたしだって分からなかったのだから。 料理も本当はいろいろ教えたかったが、ヤツの機嫌の良さげな時、余裕のありそうな時……などと顔色をみているうちに

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        • 小説 ごわさん
          25本
          ¥300

        記事

          すまぬが、生きるわ。

          骨折で入院していた。 テレビも最近はあまり面白くないし、もともとわたしは小さなスマホ画面を見るのがあまり好きではない。 日常の疲労と物憂げさに流されて、存在価値がレンガ化してしまっている本を2、3冊持ってきて貰うように家族へお願いした。 未読のものは本屋のカバーをかけたままなのでそれらをお願いしたのだが、頼まれた方も気が動転していたらしく、カバーの無い、かなり昔に読み終えた古い本を数冊持ってきてくれた。 手に取って、ちょっとギョッとした。 持ってきてくれた人間はあまり

          スグルさんの一日

          他の国だとどうなのだろう。 この国は古い企業が非常識なクレーマーの育成を行い続けていると思う。 そして、社会のいじめられっ子は会社のいじめっ子に。 オモテ・ウラ・オモテ・ウラ……と立ち位置や表情を変える。 わたしはいつもマイムマイムのフォークダンスを思い浮かべる。 自らの掌を打ち、両隣りの他人の掌を打ち、集団は開いたり閉じたりして回転している。 チャッチャチャララ、チャッチャチャララ、チャッチャチャララ、チャララ♪~ ……クレームの対応はしんどい。 会社の先輩の

          父の差し入れ

          壁際で時限爆弾が鳴っている。 『勝っち、勝っち、勝っち、勝っち……』 その通りだ。 鳴っているのは時計。わたし達は時間に勝てない。 わたしの人生がゲームオーバーと表示されるのは数十年後かもしれないし、十分後かもしれない。 急がなくても、いつか命は尽きる。 父の葬儀は初めて体験する様々な決め事や段取りなど戸惑うことばかりだったが、そんなことより人の言動や想いが色濃く感じて、その方が数倍疲れた。 父は肝臓を患い、長く入退院が繰り替えされてからのことだった。 いつかそうな

          回る女

          彼女、Aとの初対面は新しい職場だった。 その時一緒に配属されたのは私を入れて4名。 彼女の変人っぷりは初見ですぐに気付いた。 朝の八時半、集合場所は勤務先のビル前。 Aは1月の北風ピープー吹く中で、薄いナイロン製の花柄スカートをはためかせて立っていた。 コートなどは見当たらない。さらにうねるロングヘアはつい先程、湯舟からザブッと出てきたばかりのようで、今にも水滴を垂らしそうだった。 こ、凍るんちゃうか?! わたしは新しい上司や同僚よりも彼女に釘付けとなり、マジか!マジか

          4階から靴下を釣る

          小学生の頃だ。 マンションに住む近所の友人Yちゃんの家で遊んでいた時、ベランダで洗濯物を干していたYちゃんのお母さんが、 「あ……」 と、声を上げた。 ベランダの手すりに手を置き、前のめりになって下をのぞき込んでいる。 何事だろう? 私達もベランダに出て上から覗いてみた。 どうやら、靴下を下に落としてしまったようだ。Yちゃんの家はマンションの4階。 先に吊るされ干されている白い靴下の相方が、2階の落下物防止用の屋根の上に小さく見えた。 「落ちたねー」 と、残念がる

          いったい、今、店は?!

          昔から、東急ハンズの入り口で待ち合わせをすることが多かった。 そこから近い店を予約していることが多いから、というのもあるし、相手が(又は自分が)遅れた時などに罪悪感を感じないですむ、というのもある。 あまりにも遅れた時、例えば待ち合わせが駅の改札だったら、罪悪感から最初の一杯ぐらい奢ることになってしまうが、東急ハンズの時にはならない。 老若男女問わず、割と好きな場所なのではないだろうか。 自分の好きな階が必ずどこかにある。 周りに飲食店が多いこともあって、ホストのお兄ち

          ヨロシクおじさんと永遠の看護師

          入院していた時、怪談というよりはいたずらに近い夢を見た。 今のようなコロナ病棟とは違うからか、その病室では穏やかで静かな時間が流れていた。 昼間、向かいの病室から何度も聞こえる声があった。 「ヨ・ロ・シ・ク~! ヨ・ロ・シ・ク~!」 一字一字をくっきり&ゆっくり、割と大きな声だ。 障害を持った方なのか、痴呆の方なのかは分からないが、声の主は五十を越えていそうだった。 同じ言葉とその声が午前中だけでも約20回は聞こえた。 彼の発声は毎日、元気で明るい。 私は暫くの間

          ガチッ……チャッ?

          全人類の数パーセント存在すると言われている貴族階級ではないので、電車に乗る。 電車の中ではよく変な目に合う。 平日の昼間、軽く睡魔に襲われそうになりながら座っていると、 「……ガチッ……チャッ。……ガチッ……チャッ」 ……という聞いたこともない音が隣りの席から聞こえてきた。声ではない。 なんだ? この音。 あまりに不思議な音を発している横の席を見ると老婆が口の中を何かモゴモゴさせている。 「……ガチッ……チャッ。……ガチッ……チャッ。……ガチッ」 ガムを噛むよ

          それ、主食なん?!

          私の母は派手ではないが、舅、姑の介護をきちんとこなしてきた。 働き者で明るく、友達も多い善人だ。 だが振り返るとやはり風変わりなところがあるように思う。 特に思い出すのはお弁当だ。 中学、高校と計6年間、母の愛情たっぷりの手作り弁当を食べてきたが、その愛情たっぷり加減はご飯の詰め方にも現れていた。 小柄なくせに怪力の母は箱寿司になるんじゃないかと思うぐらいぎゅうぎゅうにご飯を詰めた。 ご飯が温かい時はまだ良いのだが、食べる頃には冷えて硬くなってしまう。 中学と言えば食

          【小説】ごわさん(25)

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          【小説】ごわさん(25)

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          【小説】ごわさん(24)

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          【小説】ごわさん(23)

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