ちょこちょこちょこ……。
夏休みや冬休みは、母方の実家がある田舎へ行くのがうちの家の決まりごとだった。
毎回、必ず祖母は駅まで迎えに来てくれた。
たいていは電車(おばあちゃんは汽車と呼んでいた)を下りるとすぐ懐かしい祖母の顔が見えた。
祖母の姿がないことは本当に稀なことだった。まだ来ていないと不安になり、駅の待合室や駅の周りを見渡して探す。
「あ、来た来た! おばあちゃん。おばあちゃぁーーん!」
久しぶりの田舎の景色の中に小さくおばあちゃんの姿を見つけると、わたしたちは手を振って大声で呼んだ。
祖母は小柄な割には、かなりの速足だった。
擬音にすると、ちょこちょこちょこちょこ……といった感じで歩いてくる。
どんどん近づいてくる。
「おばあちゃぁーーん!! 来たよ~!」
ちょこちょこちょこちょこ……。
わたし達も祖母が歩いてくる方へ向かって歩き出す。
しかし、傍まで来た祖母はすぐ近くに来ても、やっぱり小さいのだった。
たいていは祖母の方が先に到着して待合室で待っていた。
その頃は改札口に機械の改札機なんて無くて、立っている駅員さんに切符を渡す方法だ。
わたし達が到着すると、駅員さんが教えてくれたことがあった。
「このお婆さんは2時間も前からあんた達を待ってたよ~」
何だかわたしは感動してしまって、ちょっと涙目になった。
祖母は到着時間を知っている。
知っているから早く来てしまうのだ。
祖母は少し恥ずかしそうにしていた。
一緒にご飯を食べると祖母はよく言った。
「みんなで食べるご飯は美味しい。一人で食べてもちっとも美味しくない」
たいていは二週間位いて、山に行ったり、海に行ったり、ご馳走が沢山並んだ食卓を囲んで、大人は大人で話に花を咲かせ、子どもは子どもで集まって遊んだ。
田舎から都会へ帰る日となり、電車に乗り込む私たちに祖母はいつも買ってきた駅弁を手渡した。
お別れの時は悲し気になるものだが、それは祖母が年をとるごと濃くなり、だんだんと涙がにじむようになった気がする。
そして、また来る日を楽しみにしてくれた。
何十年も昔の話だ。
先日、街で買い物をしていたら、ふと視界の端にあの頃の祖母とそっくりな歩き方をしている人を見付けた。
ちょっと笑いそうになってみて目をやったところ、
鏡に映った自分だった。
ちょこちょこちょこちょこ……。
あの頃の祖母の年齢に達するまでにはまだ早く、ギョッとした。
でも、やっぱり少し笑ってしまった。
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