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バツ4かバツ5……らしいよ、と噂されていた課長の話

2~3年ごとに職場の模様替えで上司が変わる。

若い頃、その度ごとに上司のあだ名をつけていた。

湯上り仙台太郎とか、水で薄めたサンタクロースとか、瀬戸内海海軍幕僚長とか。(すみません……)

ガラ系の携帯を見る度に思い出す課長がいる。
その課長はとにかく女づきあいが派手らしく、配属される前からバツ4だ、いやいやバツ5らしいよ……だという噂があった。

バツ4かバツ5か、そして本当にそんなに離婚歴があるのかどうかは分からない。
なのに、部署内の共通認識とされていた。恐ろしいことだ。
一戸建てに一人暮らしらしく、よくその家の紹介をしてくれた。

「庭にな、白いバラが咲いてんねん」
「わー素敵、アメリカの墓地みたいですね!」

土日祝だと上が居ないので気を抜き、ビニールのスポーツバックで出社するラフな感じの課長だった。

ある日のこと、風邪なのか、大きなマスクで顔を覆って座っていた。
ハンコを貰いに席まで行くと、机のど真ん中に真っ二つに折られた携帯(当時、まだガラ系)が置かれていた。展示物的、まるで皆んなへ見せびらかすように置かれている。

「どうしたんスか? 課長! まっぷたつじゃないですか?!」
「うん……折れてん。」

 肩を落とし幾分しょげ気味だ。

「はー、大変ですね」
「見て、●●君(わたしの名前)」
「はい?」……私は忙しいので、内心早く席に戻りたい。
「……携帯折れたらな……電話はかかってくるけど、誰からかかってきたか分からへんねんで……」
「そうスか、困りましたね。早くショップに行かないと!」

ハンコさえ貰えれば、こちらは走るように席に戻る。

なんでわざわざ突っ込まれるような携帯を机の上に置き、見せびらかすようなことをするのか。
話のタネをわざわざ自ら提供する自虐的なところがあった。

ガラ系の携帯が折れると着信は可、表示は不可だそうだ。

その課長につけたあだ名は忘れた。
真っ二つのガラ系としょんぼり肩を落とした姿だけ覚えている。

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