ガチッ……チャッ?
全人類の数パーセント存在すると言われている貴族階級ではないので、電車に乗る。
電車の中ではよく変な目に合う。
平日の昼間、軽く睡魔に襲われそうになりながら座っていると、
「……ガチッ……チャッ。……ガチッ……チャッ」
……という聞いたこともない音が隣りの席から聞こえてきた。声ではない。
なんだ? この音。
あまりに不思議な音を発している横の席を見ると老婆が口の中を何かモゴモゴさせている。
「……ガチッ……チャッ。……ガチッ……チャッ。……ガチッ」
ガムを噛むような音ではない。
よく分からないまま視線を元に戻すがまた始まる。
「……ガチッ……チャッ。……ガチッ……チャッ」
何なんだ、この音は?
今度は憚ることなく思いっきり見た。
すると老婆はこちらを向いて、どうだと言わんばかりに口の中を見せた。
驚くことに彼女の口腔内では入れ歯がその音に合わせてぐるっと半回転している。その回転がこちら側に見える動きで回っていた。
『ガチッ』は入れ歯が動く時の音、『チャッ』は180度回りきった時の音だ。隣りで注視する私にその反回転を見せ付けつつ、目は半分白目なのがポイント。
呆気にとられて視線を外せない私に対し、暫くそれは続けられた。
あ、あかん……びっくりしてたら向こうの思う壺や……。
その後は視線と姿勢を戻し、無視を決め込んだ。
入れ歯を入れたことが無いから想像だが、もしかしたら、上顎の裏が痒かったのではないだろうか。
そして、大道芸的な感じで『こんなこと出来るのよ私!』と見せびらかしたかったとか?
そうすると、無邪気に驚いてあげれば良かったのだろうか?
……しかし、なんで見せつけてきた?
ありふれた車内も謎に満ちている。
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