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#1日1編
【短編】『僕が入る墓』(最終章 二)
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僕が入る墓(最終章 二)
一本道を駆け抜ける白いミニバンの強風によって、穂をつけつつある稲の海が激しく波打つ。あたりはすでに暗く、車の向けるハイビームの先に人の気配は一切ない。そこら中が畑に覆われ、まるで畑を中央突破していくようにミラーに映る。平地に伸びる一本道は永遠と続き、ようやく山道を登り始める頃には全員の緊張は絶頂を超えて徐々に薄れつつあった。義父がハンドルを握り、助手席
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十三)
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僕が入る墓(遡及編 十三)
清乃は寝巻きのまま家へと急ぐと、すでに丘の上から天に登る龍のように煙がもくもくと立ちのぼっていた。坂を上がり切ると、家の前には村人たちが大勢集まっていた。そこにはまるで何者かが故意にやったかのように綺麗な円を描いて炎が家を取り囲み闇夜を眩しく照らしていた。
「おとー!おかー!」
清乃はほとばしる炎を前に膝から崩れ落ち、泣きじゃくりながら叫んだ。
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十二)
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僕が入る墓(遡及編 十二)
又三郎は家へ戻ると、畠仕事を忘れてそのまま眠ってしまった。目の前にはまた屋敷の光景があった。今度は人混みが多く屋敷の中は活気に満ちていた。自分はその屋敷に住む地主のようだった。おおよそこの村に来る前の記憶が、その過去を忘れさせまいと必死に語りかけているようだった。
しかし廊下の外から聴こえた叫び声に気を取られ目を離した途端、目の前にいた人間たちは
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十一)
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僕が入る墓(遡及編 十一)
屋敷での食事は、今までに食べたことのないものばかりが卓に並んだ。奈良漬けの瓜に、マグロとヒラメの刺身。小皿には醤油。そして牛鍋が卓を一層賑やかにさせた。清乃はそれらをどう食べて良いのかわからないまま周りを取り囲む女たちの箸の動きを真似た。
一人遅れをとって食事を済ませると、皆が一斉に居間からいなくなった。清乃も寝室に戻り、夫の久保田正孝との枕の間
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 十)
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僕が入る墓(遡及編 十)
清乃は太助とともに久保田家の屋敷まで来るも、自分が予想だにしなかった現実を受け止めきれずにいた。長い廊下を通り過ぎる間、自分には今まで縁のなかった綺麗な衣服を身につけた女性たちからの冷たい視線が清乃の神経をじわりじわりと蝕んでいった。まるで大勢の面前で裸にされているような心地だった。奥の部屋に通され、しばらくの間用意された椅子にじっと座っていると、太助
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 九)
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僕が入る墓(遡及編 九)
「娘を?」
太助は、久保田はんが投げかけた言葉を自分の生ぬるい唾液と共にゆっくりと食道から胃へと流し込むと、そのあまりの腐りように腹痛を起こしそうになった。
「清乃を――、清乃を嫁にもらうっちゅうことですかい?」
「そういうことや」
たしかに清乃はとうに嫁入りしてもおかしくはない歳ではあった。清乃からは何の色恋も見受けられないために、まだ結婚
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 八)
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僕が入る墓(遡及編 八)
「この前、京太郎に畠さ買いてえと話したらしいやないか」
「ああ、けど到底おらにゃ払えねえ量やったです」
太助は恥ずかしそうに久保田はんから目を逸らし軽く口角を上げた。
「あの畠あんたに返そう」
「え? とんでもねえだに――。おら払えねえですよ?」
「わかっとる。あんたからは米も金もいらねえ」
久保田はんは太助の顔をまじまじと見続けた。
【短編】『僕が入る墓』(遡及編 七)
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僕が入る墓(遡及編 七)
太助の中ではすでに何かを失う覚悟はできていた。それは自分の畠かあるいは、他の者の畠か、はたまた久保田はんとの信頼関係かはわからなかった。しかし婆さんから言われた「家族をのことを考えろ」という言葉に対する太助なりの確固たる答えだった。太助にとって親や子だけでなく、友人や村の住人も家族も同然だった。
自分の家族の暮らしを良くしたいという思いのもと、村中