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谷本真由美 『世界がバカにする 日本人』 : 失われた 日本人の美徳

書評:谷本真由美『世界がバカにする日本人』(ワニブックスPLUS新書)

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

相応の年齢に達した日本人ならば、当然知っていて然るべき格言だが、「自画自賛」が大好きな、イマドキの無教養な日本人ならば、当然、この言葉を知らないか、知っていても意味を理解できていないのであろう。
私は何も「教養」自慢したいわけではない。大切なのは知識ではなく、「自画自賛」「自慢話」はみっともない、と感じる感性と知性の有無なのである。

そして、そんな当たり前の感性と知性のある人ならば、昨今の「日本はすごい!」ブームは、同じ日本人のやっていることとして、恥ずかしくて仕方がないはずだ。
本書の著者も、そんな感情に駆られて、やや強過ぎるようにも思えるタイトルを選択したようだが、内容はいたって良識的である。
だが、過激性や新奇性ばかりを求めてしまうような頭の悪い読者には、本書はやや物足りなく感じられるかもしれない。彼らの場合、子供舌ならぬ「子供頭」なので、良識的意見というものの重みを味読することができないのだ。

しかし、そんな読者がいればこそ、今の日本では、

 『世界は日本が大スキ!』(和田政宗・青林堂)

などという、およそ正気を疑うようなタイトルの本が、恥ずかしげもなく刊行されるのである。

こういう本の読者層は、当然のことながら、美醜のあざなえる日本の歴史だって「自賛」することしか考えないから、日本の恥ずべき歴史について必要な反省をする気もなく、逆に、すべき反省する人をマゾヒスト呼ばわりし、そんな歴史認識は「自虐史観」だ、などと大騒ぎしたりしたりもした。
だが、現実はその逆で、彼らの好きな日本の歴史は、正しく「自賛史観」でしかない。彼らは、自分で描いた絵(歴史)を自賛・自慰しているにすぎない、まことに哀れな人たちなのである。

「武士は食わねど高楊枝」という言葉があるが、自身に自信とプライドがあるならば、「自画自賛」や「自慢話」の垂れ流しといった「評価乞食」にはならないだろう。内実があれば、黙っていても、いずれ人は評価をしてくれるであろうし、またそれを信じることもできるのだ。
「貧すれば鈍する」と言うが、経済が行き詰まってくると、人の心まで貧しくなり、「自画自賛」「自慢話」を始めるというのは、まことにまことに嘆かわしい醜態である。

よその国のことならいざしらず、これが同じ日本国民のことだと思うと、いやでも面伏にならざるを得ない。

初出:2018年12月3日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)
再録:2018年12月3日「アレクセイの花園
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)

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