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ドラマ・シネマローグ

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日本のドラマ・映画を中心に感想と思ったこと考えたこと。
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#邦画

映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画「土を喰らう十二ヵ月」、水上勉「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」~滋味深く生きること

映画『土を喰らう十二ヵ月』を観た。

作家のツトム(沢田研二さん)は、愛犬の "さんしょ" と信州の山奥にある山荘で暮らしている。
ツトムは季節ごとの山の恵みを享受し、小さな畑を耕し、子供の頃口減らしに出された京都の禅寺でおぼえた精進料理を自ら作り、喰う。

映画の中では四季折々の山の風景が映し出され、季節の移り変わりを表す二十四節気を示す構成は、まだ雪深い立春から始まり、啓蟄、清明、立夏、芒種、

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映画「怪物」〜人は、見たいものだけを、見たいように見ている

映画「怪物」〜人は、見たいものだけを、見たいように見ている

ずっと観たかった映画「怪物」
実は、昨年の一時帰国の際に飛行機の中で観ることが出来たのだけど、途中何度か機内アナウンスが入り画面が中断したりで集中出来なかったこともあり、観終わったあとも混沌として感想がまとまらず…。
今こちらの国ではやっと上映が始まりもう一度観たので、今頃だけど感想を書こうと思う。

あらすじについては、note内でも沢山の感想記事があるので割愛する。

まず2度観た最初の感想は

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小説・映画「こちらあみ子」今村夏子~無垢な歪さと世界の軋み

小説・映画「こちらあみ子」今村夏子~無垢な歪さと世界の軋み

今村夏子さんのデビュー作である「こちらあみ子」を読み終わり、何と表現したらいいのか…言葉に出来ないような感情が次々と湧き上がってきた。

これは映像の方も観てみたいと思い、急いで映画の方も観た。
あみ子役の大沢一菜ちゃんの目力のある表情がすごく良い。これが初めての演技とは思えないくらい自然にあみ子になりきっていた。「誰も知らない」でデビュー時の柳楽優弥くんを彷彿とさせた。
父役の井浦新さんが舞台挨

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映画「ツユクサ」~ありふれた日常の小さな奇跡

映画「ツユクサ」~ありふれた日常の小さな奇跡

小林聡美さん主演の映画「ツユクサ」を観た。

海辺の町でつつましく暮らす五十嵐芙美(小林聡美さん)はある日、運転中に落ちてきた隕石と衝突する。
冒頭からこんな事件が起きると、非日常を描いてゆくのかと思うけれど、物語は終始、田舎町の平凡な日常の中で進んでゆく。

芙美の年の離れた親友である航平(斎藤汰鷹くん)の将来の夢は、天文学者になることで、「隕石が人間に当たる確率は1億分の1なんだよ!」と芙美に

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映画「花束みたいな恋をした」~あの頃の風景

映画「花束みたいな恋をした」~あの頃の風景

遅ればせながら、映画「花束みたいな恋をした」を観た。

この作品は坂元裕二さん脚本にしては、サブカル好きのカップルを主人公にしながらも、拗らせずに素直というかマイルドで、これはこれでスッと心に入ってきた。
"これって自分たちのことですか?" と思った人も多いんじゃないか、というような、普遍的なラブストーリーだと思った。

ところで、学生時代の恋愛がそのままスムーズに結婚へと成就したカップルというの

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映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

映画「すばらしき世界」〜厳しくも優しくこの世は美しい

西川美和監督作品『すばらしき世界』を遅ればせながら視聴した。
今回も一人の人間の多面性と人生に深く切り込んだ脚本が素晴らしかった。

役所広司さん演じる三上は、旭川刑務所での13年の刑期を終え出所し東京へ向かう。
人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上は、今度こそもう二度とムショには戻らないと誓い悪戦苦闘しながら社会復帰を目指すが、元ヤクザの前科者である三上が堅気の世界で生きる術を見つけることはそう

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三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

三浦春馬 映画「アイネクライネナハトムジーク」~小さな夜、ささやかな幸せ

『アイネクライネナハトムジーク』は、春馬くんが旅立ってから何度も観た。
ずっと感想を書こうとしていたけれど、もう春馬くんの新しい作品はないのだと思うと、残された一つ一つの作品を惜しみながら噛みしめるように、その感想を丁寧に書いてゆきたいという気持ちが強くなった。

◇ ◇ ◇

この作品の主役は春馬くんだけれど群像劇なので、一人だけ突出するでもなく、これまで春馬くんが演じた中でも一、二を争うくらい

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