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また読み直したいものを勝手に放り込んでゆくところです。 勝手に入れますが、御容赦ください。
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#自由詩

【詩】る、る、る

【詩】る、る、る

彼の唯一の関心は素数である。
る、る、る、と私が歌ったところで全く意味はない(それでも絞りだした悲鳴が歌なのだけれど)

私はあの日あの日あの日幕張付近で京成線の踏切を渋滞する車の後部座席から眺めており――遮断機がひどく疎ましかった――風景から色彩がどんどん失われていくのを、ただ茫然と見送っていた愚かなカモメであった。だから?

もう笑うべきなのだ。ろくに弾けなかったギターの、錆びた一弦だけを使え

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詩:反骨々格

外骨格、と言って、
おれ、マジ、はんこつしんしかないから、
と、若い男たちが地べたをずらずら、
している。
酒に飲まれて?
ぴくぴくと横たわっている者もいる。
すえた空気をマスクごしに吸い込む、
人だかりの駅です。

こころ、に隆起したポリープに、
ときどきは星あかりなどと言う、
あなたたちが好きだよ。
ここは楽しいキャンプ場です。
ごちゃり、わたしの心が酔狂しています。
前世紀のレスラーが、

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おきよ

おきよ

事務机の引き出しを開けると
そこには丘陵みたいなものがあり
頂きの白っぽい通信塔から
ヒトの鼻の嗅球に
オカラみたいなものを放射する

丘陵みたいなものに立つと
向こうに海みたいなものが見えて
輪っかのある惑星みたいなものが
半分くらい沈みかけていて
惑星みたいなものに立つ建物には
おきよという事務員がいる

望遠鏡で覗いてみると
おきよは黒い腕ぬきを外し
経理の仕事を放っぽり投げて
向井のチ

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未来の詩人がお通りだ! 【詩】

未来の詩人がお通りだ! 【詩】

あいつら
いろんな格好してやって来る

エッサ ホイサ

鉢巻したり、軍服着たり、全身にLEDつけたり

エッサ ホイサ エッサ ホイサ

ピノキオの鼻つけ、白熊の毛皮着て、ユニコーンの角生やして

ユッサ ホイサ パンダ コッぺパンダ

全身タトゥーの龍さん寅さん
コワイお姉さん 頬っぺた蟲だらけ

びよーん

日が昇ってきたね
あああたたかい
小洒落たイングリッシュガーデンで
のびやかにお茶し

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暗渠

暗渠

山の斜面の家と家の間の、曲がりくねった歩道の裏側を下りて来た暗渠は、海岸線の国道脇に立つゴミ収集ステーションの手前でコンクリートの蓋が無くなり、幅狭な水路に変わる。だがすぐにアスファルト道路の裏側を横切り、海辺の家と家の隙間に開口する。流れ落ちる水が引き潮の砂泥に浸み込み、庇の影がその上に落ちる。左右のコンクリートの縁はもう少し続き、庭先の海岸堤防の開口部で終わる。石積み造りの突堤が湾曲しながら海

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二つの塔

二つの塔

頑丈な鉄骨で構築された四角柱の塔が立っている。錆びた梁が上から下までを六つの立方格子に区切り、東側の面を太い配管が真っ直ぐに上行し、頂上で鋭角に折れ曲がって塔の中心を下行すると、やがて漏斗のような物体がそれを受け止める。海辺のセメント工場はとっくに稼働を止め、臓物めいた装置を内部に支え続けた塔も死んでしまった。夜になると、黒々とした塔のシルエットの天辺に紅い灯が二つ、中腹と下部に二つずつ、さながら

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イグアナのご遺徳を偲ぶ

イグアナのご遺徳を偲ぶ

「え~~本日はぁ、天気日頃も良ろしゅう、氏神様のご祭礼により~、これより大節分豆まき大会を開催させていただきます。皆さま万障お繰り合わせのうえ、ご家族お揃いでご参加下さいませ。なお~、お子供衆には~、白玉ぜんざいと福豆菓子をご用意いたしておりますゆえ~、巫女Aのお姉さんとこでみんなでいい子して貰ってね。お父さんお母さん方におかれましてはぁ、巫女Bの売店にてぜんざい太巻きパックを販売いたしております

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オドラデク大いに語る

オドラデク大いに語る

──はじめまして。インタビュアーのジャック・リンドールです。

よろしく、ジャック。

──まさか君がインタビューに応じてくれるとは思わなかったよ。

そう?気軽に呼んでほしいな。

──毎日忙しいようだけれど、何をして暮らしているの?

拡張性有機物伸縮活動の実態調査。調査結果提出時期は繁忙期だね。

──ところで君は生き物なの?

君がそう思うならそうだよ。

──なぜ星の形をしているの?

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氷河 【詩】

氷河 【詩】

風がとても強かった日の
次の次の日の朝は
特製の珈琲を飲むんよ
枯れ枝でつくった珈琲を飲むんよ

それはそれは
苦くて苦くて
甘くて苦くて
とてもひっそりとした味の
枯れ枝でつくった珈琲を飲むんよ

私はこの半島に
もう100年もすんでいる
誰にも会ったことがないよ
風がひゅーひゅー吹くばかり
でもね
この珈琲はとてもあたたかい
吹けば吹くほどあたたかい

氷河の流れる音を聞いたよ
もうすぐ来るの

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詩:この場所を知っている

がれきの粉をねったあめだよ
白いのとか赤いのとか 
雑草の色だとかはげたシールの色だとか
とにかくゆかいな色のあめだよ
乾いたおしっこの味もするよ
洗ってない茶碗の味もするよ
畳のくさったにおいもするよ
口に入れるのおいやかい
じゃあ紙芝居はいかが
ゆかいな話をしてあげるよ

がれきの(この場所)を練った飴だよ
(来たことがある)白いのとか赤い(茫然の島)の雑草の色だとかはげた(鏡の粉)だとかとに

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おみね

おみね

おみねは
慣習的に亭主と呼ばれる者の
妻と呼ばれる者であったが
萱の茂みで尻を出して
 「じざあすだ~いプォさんばでしぃんずバなまあぃ」
 (Patti Smithの「Gloria」参照のこと)
と息むおなごでもあった

シシドバイケンは
慣習的に野伏せりと呼ばれていたのに
亭主と呼ばれる者でもあったが
さらに屋上屋を架すように
ジョニー・B・グッドとも呼ばれていた
にんげんみたいな者たちがお

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ミディアムポエムとは何か ~短くも長くもない自由詩~

ミディアムポエムとは何か ~短くも長くもない自由詩~

1 はじめに先日このようなツイートをした。

ここで提案したミディアムポエムという枠組みを使って、いろいろな人に自由詩を書いて発表してもらい、それを通してネット上に交流の場を生み出すことができたら良いなと考えている。提案者としてハッシュタグ #ミディアムポエムの使い方にルールを設けるつもりはないので 、興味のある人は気軽に使ってみて欲しい。

ミディアムポエムの簡単な紹介は以上で終わりなので、ミディ

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詩:ひこうき雲

飛行物が
水墨画のように
乾いた空の上を走る
ったのだろうか
水墨、ミッジュミの
白い煙が空に滲んだのだろうか
ひこうき雲のまっすぐな線が
はけで撫でたように、ぼんやりと伸ばしたように拡がっている

そのひと筆のまっすぐは
電線、坂のような屋根、空き箱のような屋上の、
罫線やコマ割りやを断ち切って
登場人物たちは、
その中の静物たちは、
知らず知らずに滲まれた、だろうか
あらたに作られた輪郭から

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