詩:この場所を知っている

がれきの粉をねったあめだよ
白いのとか赤いのとか 
雑草の色だとかはげたシールの色だとか
とにかくゆかいな色のあめだよ
乾いたおしっこの味もするよ
洗ってない茶碗の味もするよ
畳のくさったにおいもするよ
口に入れるのおいやかい
じゃあ紙芝居はいかが
ゆかいな話をしてあげるよ

がれきの(この場所)を練った飴だよ
(来たことがある)白いのとか赤い(茫然の島)の雑草の色だとかはげた(鏡の粉)だとかとにかく愉快な色の(歪んだ空)だよ 乾いたおしっこの味もする(気の遠くなる島)のくさったにおいも(知っている)紙芝

(がれきの(こな場所)をねった(に来たことがある)よ
この場所を知っている
ここに来られたことが(も)ある(よ

母のお経が聞こえてくる
お経にもサビがあるのだ
私に向けられている
午前6時の、踊るように空を叩くように、数珠が鳴る、私に向けられている

父に髪を引っ張られている
学校に行くと言って図書館を浮浪する
私を引きづり出している
引きづられる、ランドセルの赤と、この血が麻痺するまでむしられている

弟は上手くやっているらしい
音楽の話、ユニコーンを一緒に聞いたりした
運動靴が汚れている
給食の時間に吐いたと言った、次の日もランドセルを背負っていた

女にならなくてはならなかった

お経が聞こえてくる
父と話さなくなった
弟は私につきまとっている
録画したお笑いを一緒に見た

近親相姦はダメだぞと言った
父がそんなことを言った
お経が聞こえてくる
弟の帰りが遅くなり

帰ってこなくなった
東京の大学に行って、仕事をして、嫁様をもらったらしい
上手くやっているらしい
心を病んだらしい、私のせいだと思った
世界はだいたい私のせいでできていたから、私のせいで私はこんななんだ

この場所を知っている
あの日のあと、あの揺れのあと、
たくさんのヒビがあった、変化と、父と話すようになった
たくさんの瓦礫が、汚染が、母のお経が聞こえてくる、私のせいではない
これは、私のせいではない

この場所を知っている
舐めると酸が込みあげてくる場所だ
私が逃げた場所だ
ずっと目を背けている場所だ
紙芝居のように現実感が無く、
茫然と前に立ってるだけの場所だ

母から電話がくる
かわりねぇかい?
かわりね、そっちは?
だいじょうぶだぁ、みんな元気でやってっから
お姉ちゃんは?
だいじょうぶ、だいじょうぶだぁ
今年は帰るよ、おちついたらね、顔見に行くよ
はあいはい
じゃあまたね
はあい、はい、はあい

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