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向暑はるの日常 2022年

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2022年の日常です。
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2022年2月の記事一覧

春を感じた

春を感じた

毛布を丁寧に3枚重ね合わせて、向暑はるはその中に包まれていたはずだ。

寝る前は。

朝起きると、1枚は足の下に、1枚は頭の上に、最後の一枚はベットの下に落ちていた。

どうやら春がきたらしい。

毛布がないと夜を過ごせない季節は、どうやら今年も乗り越えた。

それでも朝はまだ肌寒くて、落ちていた毛布を拾って身体に巻いた後、二度寝についた。

暖かくなっても毛布は気持ちが良いのでまだ当分は離さない

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何かが足りないと思える時間が一番幸せ

何かが足りないと思える時間が一番幸せ

倦怠期に入ったカップルは口を揃えてこう言う。

片想いの時期が一番幸せだったと。

足りないものが満たされた時から、情熱や自尊心というのはどこかに置いてきてしまう。

付き合うことに情熱を注いでたあの頃の彼らはもういない。

ゴールをもっと先で考えてれば、今でも彼らは仲良く過ごしているのかもしれない。

ドーム規模の会場でライブができたあのミュージシャンは、

その頃から彼の書く新譜が暇潰しのよう

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正義も視点を変えれば悪となる

正義も視点を変えれば悪となる

ヒーローが敵を倒した。

街全体が歓喜に包まれ、ヒーローは正義となり、倒された者は悪となる。

漫画やアニメの基本的な構成である。

これを見ている第三者はこのヒーローに憧れ、その正義こそが正しいと思いこむ。

ではここに、ある設定を追加しよう。

ヒーローが倒した敵の名前はテキ。

幼少期からテキの容姿は醜いと周囲から罵倒され、テキは自分を塞ぎ込んでしまうようになる。

そんなテキを救ってくれた

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背中を押されても頑張れない

背中を押されても頑張れない

応援することを、背中を押すと言う。

でも向暑はるは背中を押されることは好きじゃない。

だって貧弱なこの身体が、みんなに背中なんて押されてしまったらコケてしまう。

それに、目の前の道が平坦とは言えない疎らな道だとしたら、背中を押されてもその勢いで逃げ出してしまう。

だったら、一緒に横に立って手を引っ張ってくれるような応援があったっていい。

手を引っ張ってくれるもの。

向暑はるにとってそれ

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オールドレンズにまた恋をした

オールドレンズにまた恋をした

向暑はるは急いでいる。

2年も待たせたくせに急いでいる。

早く取りに来てと言われなければ、死ぬまで気づかずに過ごしていたかもしれない。

全く覚えていなかったのに、それが自分の物だと自覚した瞬間、急に愛が芽生えて会いたくなる。

待たせた相手が”人”じゃなくて良かったと思う。

2年前に修理に出していたカメラのレンズがそのまま放置されているらしい。

高校の時の後輩が働いているカメラ屋に、修理

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変化の中で生きるエンドロール

変化の中で生きるエンドロール

結局、帰りも家の近くまで送ってもらってしまった。

気づけば0時を回っていて、いつもの向暑はるなら夢を見ている時間である。

まだ心の中はふわふわとしていて、頭の中にはずっとソラニンが流れている。

ここまで送ってもらった彼に感謝の意を込めて、コンビニのカフェオレを奢った。

メガサイズはやりすぎたかもしれない。

自分の分も買って、コンビニの前で一息つくことにした。

カフェオレを口につけて、顎

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住み慣れた部屋はもう誰かのものになっていた

住み慣れた部屋はもう誰かのものになっていた

とりあえず大学を車で一周した。

見た目も雰囲気も何も変わっていなかった。

でももうこの”中”に入ることはないだろうし、ここの住人ではないことの現実を突きつけられた気がした。

たった4年間。だけど4年間。

時間の隙間を埋めてくれる場所だったと改めて知る。

正門を通ったけど、そこは何も感じなかった。

向暑はるの家は正反対にあったから、正門を潜って大学に行くことは一度もなかった。

今考える

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ただのドライブ、されどドライブ

ただのドライブ、されどドライブ

コンビニの駐車場に「わ」と書かれたナンバープレートが見えたので、すぐにこれが彼の車だと分かった。

やっぱり今日はこの言葉に縁があるらしい。

同時にコンビニの目の前で一服している彼が見えたので、大きく手を振った。

よく考えれば、彼と二人きりで会うというのは初めてな気がした。

友達になったきっかけが特殊な故に。

大学3年生の時、バイトの友達と焼肉に行く約束をしていた。

だけど、その友達は別

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5年目の”別れた日”

5年目の”別れた日”

バレンタインの日に彼女と久しぶりに会った。

受験もひと段落して、やっと幸せなキャンパスライフと二人の時間を過ごせると思っていた。

先に受験を終えた彼女は、既に髪を茶髪に染めていて、東京へ物件探しに行ってきた直後だったらしい。

手作りのクッキーとお土産をもらった。

地元の小さなレストランで食事をして、卒業旅行の予定を立てようと思っていた。

食事が運ばれてきて、いただきますとご飯を口に入れよ

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思い出には青色のフィルターがかかっている

思い出には青色のフィルターがかかっている

机も椅子もないただ人が密集している教室。

酸素は薄いけど、窓ガラスは湿気で水滴ができていた。

ギターとベースの音の余韻が残っている中、マイクに向かって話し始めた。

そんな高校3年生の文化祭。

できれば人前で話したくないし、むしろ人前で話すことが苦手だから”音”に頼って言葉と気持ちをそこにぶつけていた。

それにMCで時間を稼ぐならその分”音”を鳴らしていたかった。

それでも目の前にマイク

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女の子の日と言っていた

女の子の日と言っていた

スーパーの一際目立つスペースに、”ひな祭り”のあれこれが並んでいた。

流石に早すぎんか。

と、向暑はる以上にせっかちな店の様子を目の当たりにして、特に意味もなく自分が焦ってきた。

でもいつの間にか、ひな祭りもとっくに過ぎてしまって、その後にやってくる素敵な春を待ち侘びるのだろう。

毎年そんな感じな気がする。

安売りコーナーに移ったら買ってあげよう。

向暑はるにとっては、ひな祭りなんてそ

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本気で力抜いていこう

本気で力抜いていこう

本気:真面目な気持ち。真剣な気持ち。また、そのさま。

つまり、本気とは命を削ってまで無理をすることではない。

もっと言えば、本気でやれと上司から言われた向暑はるの仕事は、わざわざ寝る時間を削ってまでやることではない。

こうして達観した後、帰宅準備を始めて、向暑はるは定時で帰った。

会社にさえ迷惑をかけなければ、別に怒られるのは後回しでもいい。

本気で無理をしてしまうから、勝手に疲れて、勝

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長く続けると”意味”を求められる

長く続けると”意味”を求められる

特別好きなわけでもないけど、人生の中で一瞬だけ心の拠り所になった音楽はたくさんある。

あるバンドが解散すると知った後、その心の拠り所になった彼らの音楽を聴きながら勝手に感傷に浸る。

そしてそのバンドが好きになる。

もう解散してしまったのに。

そんなことを1年で数回経験する。

去年は確か3回だった気がする。

そしてもう一度好きになった挙句、結局行き着くのは、”なぜ解散したのか”。

バン

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不幸のせい、いや不幸のおかげ

不幸のせい、いや不幸のおかげ

父親が入院を繰り返すようになってから、向暑はると両親の距離間は近くなった。

”不幸のおかげ”なんてことにはしたくはないし、言いたくはないけど、因果関係は間違いなくある。

それに入院と言ってもセンシティブな話ではないので、読者も安心して読んで欲しい。

昨年のクリスマスに父親が入院した。

そんなこと知らずに横浜のクリスマスを楽しんでいた向暑はるを思い返すと、

自分や身内の不幸はいつ襲ってくる

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