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福祉の仕事

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2022年11月の記事一覧

最後の手紙

最後の手紙

今度利用者が退所することになった。
退所日に利用者はもう施設に来ない。正確には、来れない。

 
退所をする利用者は
退所発表前にしばらく休むか、休みがちなケースも多い。

 
その利用者もしばらく休んでおり
もうすでに何人かから、何回か尋ねられていたくらいだから
誰一人驚いたり、泣いたりはしなかった。

 
私自身も退所予定は数ヶ月前に聞いていたため
涙は出なかった。

最初、退所予定を聞いた時

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有給をとった日

有給をとった日

ある日、私は有給をとった。
予定があったからだ。

 
その日の仕事は特に何もない予定だった。
作業や散歩くらいならば
私一人いなくてもなんとかなるだろう。

そう思っていた。

だが有給届が受理された後
その日はみんなで外出することになった。
場所は遊園地だ。

 
うわぁぁぁ行きたかった。

 
私はうなだれた。

 
遊園地は楽しいに決まってる。
私もみんなと遊園地行きたかった。

だが

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助手席の利用者

助手席の利用者

利用者と同僚と公園に行った帰り
私はエンジンを入れた後
ドライブとパーキングを間違えた。

バックしようとしてうっかり前進し
慌てて切り替えた。

 
「なんでバックとパーキング間違えるんだよ?勉強不足だな(笑)」

助手席に乗った利用者が言う。

 
「勉強のし直しだな(笑)」

なおも利用者は言う。

 
施設の駐車場は狭い。
私はそろそろバックしながら
窓から後ろを確認した。

「バックモニ

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同僚の死と涙

同僚の死と涙

私は障害者福祉施設で学生の頃に三週間実習をしていた。

 
その施設は本当にアットホームであたたかくて
私はそこで就職したかったが
新卒をとらない施設で有名なところだった。

だから私がそこで内定をとれたのは
施設長に気に入られたからというのもあるだろうが
実習担当であり、主任でもあり、実質施設を仕切っていたAさんの存在が大きかったと思う。

 
Aさんは実習の時によく話を聞いてくれた、あたたかく

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出発10分後に販売中止になった理由

出発10分後に販売中止になった理由

今から数ヶ月前のことだ。

ある学校の文化祭の販売申し込みの案内が来た。
その学校は有名な学校でとても大きい。
そこで販売できたら売上はかなりいくだろう。

 
申し込みをしたら無事当選し
私の職場は販売に行けることになった。
申し込み多数の場合、抽選となる。

 
普段の販売イベントに比べたら
来客者の年齢層は下がり
多分10~20代の人が多いだろう。

 
だから私達職員と利用者は
若者が好き

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パン屋さんの場所

パン屋さんの場所

同僚Aさんが出張パン屋さんでパンを買ってきた。
住所は〇市だった。

 
〇市は私とAさんがかつて働いていた施設がある場所で
同僚Bさんが住んでいる場所でもある。

 
「なんてパン屋さんですか?」

私とBさんが飛びつく。
私達は全員パンが好きで
パン屋さん巡りをしている。

 
「名前が…×××だって。」

「…知らないなぁ~。」

首をかしげた。
その住所は知っていたが
パン屋の存在は知らな

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ヒッチハイクの方に声をかけられた日

ヒッチハイクの方に声をかけられた日

利用者とスタンドに行き
送迎車を洗車した。

私の職場は毎月大掃除の時間があり
その時間に洗車に行く。

 
その利用者と洗車機を利用するのは初めてだった。
洗車している間
多弁な利用者が黙ってボーッと見ていた。

 
洗車した後は利用者と水滴を拭いた。
驚いたことに
丁寧に丁寧に水滴を拭いていた。
普段の作業はもっと雑なので驚いた。

ワイパーを上げて拭いたり
扉を開けて内側を拭いたりしていた。

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同じ話を伝えた時の反応の違い

同じ話を伝えた時の反応の違い

ポスティング作業をする前日
配るチラシを重ねて折って
ポストに入れやすくする。

量はたくさんあり
それは一日かかる。

 
その日の作業中
それまで真面目にやっていたある利用者が
片っ端からグシャグシャにしたり、破りだした。

以前も一度だけあったが
今回は破る量が多い。

 
私はリーダーに言おうとしたが
リーダーは外出中だったので
新施設長に事情を説明した。

「それで、その利用者は仕事の意

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優しい人が休みたい時に気兼ねなく休めるように

優しい人が休みたい時に気兼ねなく休めるように

明日はポスティング作業だ。

ポスティング作業担当の私は前日のうちに割り振りをする。

 
とはいっても
どのエリアを誰がやるかは大体決まっている。
休みが出た場合ややむを得ずできない人がいる場合に
私は調整する役目だ。

だから私は
ある程度好きな配布場所を選べる立場でもある。

 
私はシフト表を見た。
休みの職員を確認する。

…リーダーだ。
リーダーが休みだ。

私は、ガーン、となった。

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お互いに頑張りましょう

お互いに頑張りましょう

夕方、職場に訪問者が来た。

 
それは他施設の職員と利用者だった。
その職員は、私の前の職場時代の同僚だ。

 
以前もパンを売りに来て
再びまた立ち寄ってくれたみたいだ。

 
もう辺りは真っ暗だというのに
見ればたくさんの売れ残りがあった。
食品の場合、売れ残りは大変だろう。

 
二回目の訪問販売ということもあり
私以外の職員は誰も買わなかった。

 
向こうの利用者は
先日、私がイベント

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生きる希望と絶望

生きる希望と絶望

その日は利用者とお昼を買いに行く日だった。

私が一緒に行く利用者は最近毎日不穏で
その日も朝から不穏で
私はリーダーから落ち着いたら買いに行くように言われた。

 
次々に他の利用者と職員が買いに出掛け
それから30分くらい経った後に
その利用者はスッと行く準備を始めた。
ようやく気持ちが落ち着き
行く気になったようだった。

 
その利用者はトラブルメーカーだから
時間ギリギリまで外で時間を潰

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スピッツを語りすぎた

スピッツを語りすぎた

11月を迎えた頃
私はスピッツのパーカーを着て仕事をしていた。

「あら?ハロウィン?」

送迎をしたら
保護者に尋ねられた。
確かにお化けや月のモチーフ、紫色の生地がハロウィンっぽかった。

 
実際は気温の問題だった。
薄手のパーカーな為、気温がある程度ないと着れなかったのでその日に着ただけだった。

「これはスピッツのパーカーなんです。“紫の夜を超えて”という曲をモチーフにしていまして、その

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退職と転職と

退職と転職と

前の職場でまた一人
職員が退職したと聞いた。

 
「ともかさんがいなくなってからは残った人でどうにかする。」

直属上司はそう言っていたけど
私がいなくなってから結局
退職は相次いでいるし
人の出入りは激しい。
 
前の職場の利用者や保護者に再会すると
現状に満足とは言えない状況のようだった。

 
出る杭は打たれる。

それは前の職場でよく分かった。
施設をよりよくしようと思った人ばかり疎まれ

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アイロンビーズと仕事

アイロンビーズと仕事

職場でアイロンビーズを使った作業をやっていて
利用者が作品を作る傍ら
私は色分けをしている。

これがなかなかに楽しい。

 
バラバラに入っているアイロンビーズを
同じ色ごとにケースにしまうのだ。

 
何かを作ったり、書いたりすることは好きだが
仕事となると
私はこうした色分けの方が好きだった。
正解が決まっている工程。
カラフルで見ていてウキウキする。

最近のお気に入りの作業だった。

 

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