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福祉の仕事

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仕事中に気づいた発見や喜びを書いています。
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2022年7月の記事一覧

最後の会話

最後の会話

私が一人でパソコンをしていると
前施設長が部屋に入ってきた。
そして私に言った。

 
「真咲さんが働き出して早々に施設長が変わってごめんなさいね。」

 
意外な言葉に驚いた。
新施設長はもともと副施設長みたいな存在だったし
私はその人の方がより信頼しているし
大した問題は今のところない。

 
まだ前施設長は休みに入っていないし
役職はおりても
態度や言動は変わりないし
しきっているし
今はま

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苛々苛々する姿さえかわいい

苛々苛々する姿さえかわいい

某利用者は一日を通して不機嫌だった。

 
おそらくそれは暑さや湿度の高さや便秘や週の最後の登所日ということもあったのだろう。
 
物を蹴ったり、地団駄をしたり、声を荒げたりした。
また、作業や活動の拒否も激しい。

 
もともと場面切り替えが苦手で怒りがちだが
その日は特に機嫌が悪く
誰が対応しても一日どうにもならなかった。

 
その利用者はついに苛立ちがピークに達した。

 
「イライライラ

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約三年ぶりに元相方と話した日

約三年ぶりに元相方と話した日

仕事の件で元職場に電話した。
電話に出たのは、私の相方とでも言うべき同僚だった。

 
「はい、△△のAです。」

「〇〇の真咲と申しますが」
 
「お世話になっております。」

「Aさん、お久しぶり!ともかです。」

「気づいてたよ(笑)」

 
ほんの少しの時間だが
笑いながら話した。

 
退職してから約二年の年月だが
そんな時間を感じさせないくらい
自然体な時間だった。

 
私の悩みや愚

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朝一で言われたこと②

朝一で言われたこと②

利用者に顔を噛まれた日
私は連絡帳に状況を書いた。

 
保護者は連絡帳を見てからすぐに施設に電話をくれた。

 
「申し訳ありません。傷はどんな感じですか?」
「一日も早く治ることを願っています。冷やしていただいて、もしひどいようでしたら通院お願いします。申し訳ありません。」

 
そんな風に言っていた。

 
その利用者に噛まれるのは私は初めてではなくて
私以外もよく噛まれていて
だけど保護者

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朝一で言われたこと①

朝一で言われたこと①

利用者が私を抱きしめ
激しく何度もキスをした。

 
いつものことだ。

 
親しみを感じた職員に
彼女は行う。

 
抵抗したり、止めると逆効果で
更に腕の力が強くなったり
下手したら噛まれてしまう。

だからある程度好きにさせる。
そう、いつもしている。

 
だが
その日はキスの後に痛みが走った。

 
「痛いっ!」

 
頬に激痛が走る。
どうやらマスク越しに私の頬を噛んだらしい。

 

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小雨の中、走る理由

小雨の中、走る理由

その日は雨が降っていた。

 
夕方、私が送迎から戻ってくるとお客様が来ていた。

どうしよう、と思った。
お客様の車の停車位置の関係で
送迎車を狭い場所からバックしないと駐車できなかった。

 
玄関からキョロキョロ中を覗くが
たまたま職員が見当たらない。

 
再びどうしよう、と思ったら
お客様がもうすぐ帰ることが分かった。
玄関に近づいてきたのだ。

 
私はハザードをつけ 
停車し
車の外

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いたいのいたいのとんでいけ

いたいのいたいのとんでいけ

利用者Aさんがふざけて私の腕に爪を立てた。
薄皮がむけて、皮膚が赤くなる。

 
Aさんは笑う。

まるでネコがじゃれるように
甘えて私を抱きしめて
かと思えば爪を立てて笑う。

 
その様子を見た利用者Bさんは
私の腕を無言で撫でた。
何度も何度も繰り返し撫でた。

そしてその腕をポイッとした。

おそらく「いたいのいたいのとんでいけ」だろう。

 
Bさんは再び何度も腕を撫でる。

優しいなぁ

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石焼き芋屋さんと仕事

石焼き芋屋さんと仕事

送迎をしていると石焼き芋屋さんの声が聞こえた。

「い~しやーきいもっ おいも~♪」

元祖焼き芋屋さんというか
道路を走る焼き芋屋さんの声は久々に聞いた。

 
今はコンビニやスーパーで焼き芋が買えるし
焼き芋屋さんの屋台がどこかに停まっている。
道を走る焼き芋屋さんを見たのはいつぶりだろうか。少なくとも令和になってから見るのは初めてだ。

焼き芋屋さんのフレーズも今風になっていた。

 
前の

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退職後の再会は新しい職場で

退職後の再会は新しい職場で

「こんにちは~!」

夕方、利用者が帰った後に仕事をしていると
玄関の方から声が聞こえた。

 
今日は誰かが来る予定はなかったはずだ。

 
頭に「???」を浮かべながら
同僚が玄関に行った。

 
そこには二人の人が荷物を抱えて待っていた。
そのうち一人は実に見覚えがある。

「Aさん……!」

私は話しかけた。

 
Aさんは今から数年前に
前の職場で同じ事業で働いていた元同僚だ。

あまり

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二年目の面談

二年目の面談

半年に一回の面談の日が来た。
面談の日はいつも嫌な思いをして泣いてしまうから怖い。

 
前の職場は一回も面談はなかったし
勤務年数が上がれば自動的に給料は上がったから楽だった。

「何か困っていることはありますか?」

と、問われ
話している内に泣いてしまう。

 
どれだけ我慢して済ませていたのかをいつもこうして思い知る。

「職員みんながすごすぎて自信が持てないです。」

そう私が言った背景

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クーラーに始まる不満

クーラーに始まる不満

その日は最高気温30度で曇りだった。

「クーラーはいらないわよね。」

と、前施設長は言い
容赦なく消す。

 
その日は湿度が高くムシムシしていたが
私は何も言えなかった。

「クーラーつけてないの?なんで!?」

外から戻ってきたリーダーが声を上げる。
リーダーは外で一時間作業をしていたのだ。

 
私は事情を説明する。

リーダーは速攻で前施設長の下へ行き
許可をもらって、クーラーをつけた

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忘れていた本

忘れていた本

私は退職する時
潔く捨てる物は捨てたし
持ち帰ってきた物に関しては
未だに段ボールに入ったままだ。

 
前の職場は辞めたくないのに辞めるしかなかったから
前の職場の物を見て
いちいち感傷的になりたくなかった。

いっそ全て捨ててもよかったのかもしれない。

 
 
先日
元同僚から私の名前が書かれた本があると聞き
私はへぇ~と思った。

それを置いてきたことは覚えていない。

 
利用者はそれを

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突き飛ばされた日に言われた言葉

突き飛ばされた日に言われた言葉

その日はバタバタしていた。

 
その日のうちにやらなきゃいけない作業が立て込んでいたのもあるし
前施設長の作業配置による動線が悪かったのもある。

「そんな作業やらねぇよ。」

利用者が言う。

 
作業を促すがギャーギャー喚く。

 
前施設長に報告したが
説得するように言われ
再び話す。

 
なんとか作業に取りかかり
ホッとしたのも束の間
5分やったところで作業資材を投げつけた。

「作業

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サービス残業一時間の理由

サービス残業一時間の理由

その日
利用者が不穏な様子だった。

 
物を壊そうとしているのを私が止めたが
止められたのが気に入らなかったのか
結局別の物を二つ壊した。

その様子を見た他の利用者は正義感からそれを咎め
ケンカになった。

 
苛々して物を壊したかと思えば
今度は事の大きさに気づき
ワンワン泣いて反省の言葉を述べた。

 
作業中であり
私はその人をマンツーマンで対応せざるを得なく
他の利用者は見ていられなか

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