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小雨の中、走る理由

その日は雨が降っていた。

 
夕方、私が送迎から戻ってくるとお客様が来ていた。

どうしよう、と思った。
お客様の車の停車位置の関係で
送迎車を狭い場所からバックしないと駐車できなかった。

 
玄関からキョロキョロ中を覗くが
たまたま職員が見当たらない。

 
再びどうしよう、と思ったら
お客様がもうすぐ帰ることが分かった。
玄関に近づいてきたのだ。

 
私はハザードをつけ 
停車し
車の外で立っていた。

その時だった。

 
「真咲さん!」

 
後ろからリーダーが走ってきた。
リーダーも送迎に行っていて
遠方の駐車場に車を停めたところだった。

 
私が駐車ができなくて困っているように見えたのだろう。
きっとリーダーは
私の代わりに駐車しようとして
慌てて走ってきたのだ。

 
雨の中、カサもささずに。

 
私が大丈夫そうだと伝えた。
ちょうどお客様が帰るところだった。

 
「そっか、俺、駐車できないと思って……。」

 
リーダーは恥ずかしそうに笑った。
勘違いして走ってきたことを恥ずかしそうに笑った。

 
 
私はその笑顔を見ながら
本当にリーダーはいい人だなぁと思った。

 
リーダーが好きだと思った。

 
リーダーはバックオーライをしてくれた。
その日はいつもと駐車位置が違くて
私がバックを手こずっていたから。

 
もしもリーダーが独身ならば
きっと惚れていた。

そんな風にいつも思う。

世の中にこんなに優しい人がいるなんて。

 
私は職場では
遠慮して一言が言えない。
不安で本音が言えない。

そんな時もある。

 
だけどリーダーはいつも
サッと手を伸ばしてくれる。

私に気づいてくれる。

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