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雪柳 あうこ
2024年10月5日 17:34
夕焼けはこの世のすべての赤を吸うんだって(飢えているのだと 誰かのささやき)だからあんなに赤いんだって傾く陽に照らされて あの子が笑う赤い彼岸花の川べりを あの子と手をつないで帰れば小さな灯のように揺れる花の 白夕焼けにもともと赤いはずの花が身の色を手渡したのなら秋色とは想いと覚悟で生まれる円い白さを指すのだと知る夕方赤い彼岸花の川べりであの子とお別れ ばいばい
2024年9月6日 12:30
レモンから、酸っぱいのがなくなればいいのに。口をとがらせて言うと、崖の上のレモンの樹の横に立つ、年の離れた姉は笑った。姉とレモンの樹は背の高さはほとんど同じで、わたしは時々、どちらがどちらかわからなくなる。どちらからも柑橘の良い香りがしていたし、どちらもいつだって瑞々しかった。レモンの樹は、育ち切ると手入れが要らなくなるんだって。秋の初め、祖母から収穫を頼まれた姉は、樹の高いところからぷつん、
2024年5月12日 12:11
風薫る季節になると、ふと思い出す人がいる。薫さんという。色の白い、大きな両目が少し離れた造作で、愛くるしい笑顔の朗らかな人だった。五月の生まれだと言っていた。真面目で、高校ではいつも教室の前方の席を希望して座っていた。歯並びがよく、いつもはきはきと喋った。爽やかで好感の持てる人だと、誰もが言う。けれど毎年五月だけ、彼女の印象は豹変する。連休明けに、大人っぽくも初々しい教育実習生たちが高校へと授
2024年3月17日 20:26
朧月よく見れば 半分光は輪郭を溶かし実は半分であることをさりげなく誤魔化しながら夜毎ふくらむ 花を誘う もう半分はどこへやったの?欠けたの? 亡くしたの?それともこれから造るの?朧月よく見れば 半分夜毎ふくらむ花のひとひらよく見れば 月・・・・・・見上げた月が,ちょうど半月の朧月でした。思わずシャッターを切りました。月に誘われコブシも咲き出し、すっかり春
2024年1月21日 20:58
雪化粧をした枝に積もる冷たい白粉を 集めたら蕾に 籠めておきましょうあたたかい朝白い光のような雪が咲くでしょうから・・・・・・春先に咲くユキヤナギの花が、もう咲きかけていたのに触発されました。今年もぼちぼち、不定期更新で始動いたします。よろしくお願いします。小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 からお題をお借りしました。いつもありがとうございます。
2023年11月26日 11:27
詩と暮らすことにしたのは、数年前の春からです。その春、わたしは陽気に当てられぐったりとしていました。そんな時、窓からふと、ひとひらの詩が飛び込んできたのでした。ひらひら、ひら、り。窓の内側に吹き込んできた詩を、手のひらに収めました。薄桃色の詩は、見た目の美しさとは裏腹に、少し乾いていました。わたしは硝子の容器に水を張り、詩を浮かべてみたのでした。すると、詩は楽しそうにくるくると硝子の中で回りま
2023年10月1日 20:08
月めくり、夢をかけ替える朝通う道は明るい来月、次の月こそと願って、ページを はらり月めくり、今を過去にする夜辿り着いた部屋は暗い今月、ようやく終われたとうそぶいて、ため息 くたり月めぐり、満ち欠けやがて名月黄金色の夜明けは近い満月、見送って手を振ると滴って 月光 とろり・・・・・先日は明るい月夜でしたね。小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 の企画「月めくり」から書き
2023年9月25日 14:13
首元まで詰まっていた 夏がつるん と抜けて行ってしまったのでわたしのからだは空っぽになってやたら 風を通すようになった行きつ戻りつしていても行ってしまったら 戻ってこない夏は 脱いでしまったのだわたしという 皮をうつろう季節はいつもすぐ 肌の下にある*******************今年の残暑は厳しかったなぁと思いながら書きました。ようやくの秋ですね。素敵
2023年6月9日 08:30
地上42階のあの部屋ではよほど強い風が吹かない限り 雨音はほとんど生まれない窓の向こうの直線たちは時折つるつると走るだけいくら曇り空が号泣しても 声は霞の果て 聞こえない地上3階のこの部屋ではぱらばらぱらりと雨は鳴く目の前の公園の木が広げた緑の葉に受け止められて直線は終着点に安堵して断末魔か、最期の吐息か声を上げて、四方に散る窓に 葉に 地に 誰かに 何かに出会う
2023年4月2日 16:21
赤青鉛筆で日記を書く。赤で下書きし、青でなぞれば、少し黒っぽい紫色の一日が仕上がる。「今日は楽しかった」、そういうことにしておきたい、あかいことば。「今日は楽しかった」、辿りながら少しはみ出してしまう、あおいことば。赤いわたしは青い私に塗り込められて、陽炎になる。不器用さのせいで重なり合えないはらいの先は、二つの色に分たれたまま、互いの影を見つめて震えている。赤青鉛筆を擱けば、少し黒っ
2023年3月19日 08:48
野原に電灯をつけるそこだけあかるい光になる遠くからもよくわかる春の合図に心の中で手を振る電車の中遥かな土手の菜の花・・・・・・いよいよあたたかくなってきました。あちこち花ざかりですね。素敵なお写真をお借りしました。ありがとうございます。
2023年2月6日 06:30
長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前風呂に入れれば、その湯が服を着せれば、その衣がおもたい、――おもたい、と呻くように呟いていた五体満足に生きていたら気にすることもないものたちの、重みを亡くなった後故人の服を捨てようと集めてまとめて袋に入れれば一枚二枚では感じなかった衣の重みがずっしりと袋を持ち上げる指に引きちぎれんばかりに、食い込むいつだって身軽でいたいけれど人生は
2022年12月4日 16:05
大きければ良いいうものではないけれどクリスマスツリーはやっぱり大きいものが、いい大きければ大きいほど心を奪われるからその木の下で鮮やかに輝く世界に満ちるたくさんの不思議が本当のものなのだと思わせてくれるから子どもたちと共に箱の中で眠る幹を取り出してモール、スター、オーナメント、リボンに鈴、虹色のライト飾り付けよう抱えきれない期待と共に大きければ良いというもの
2022年11月14日 13:20
秋は心中を決意した 後悔はないのただ私はもう、手遅れそんな言葉を残して紅葉は真っ赤に燃え落ちた 遺言が伝わると夜でも色がわかるほど黄色く盛る炎となって公孫樹は無言で後を追った 見事なまでに 秋は全焼 間に合わなかったわたしもなりたかった手遅れなくらいの激しさに闇を貫けるほどの明るさに すっかり命をなくした梢では十月を留守にしていた神様が知らぬ間の皆の心変わ