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詩など

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自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
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記事一覧

【掌編】風薫れば【散文詩】#シロクマ文芸部

【掌編】風薫れば【散文詩】#シロクマ文芸部

風薫る季節になると、ふと思い出す人がいる。薫さんという。色の白い、大きな両目が少し離れた造作で、愛くるしい笑顔の朗らかな人だった。五月の生まれだと言っていた。真面目で、高校ではいつも教室の前方の席を希望して座っていた。歯並びがよく、いつもはきはきと喋った。

爽やかで好感の持てる人だと、誰もが言う。けれど毎年五月だけ、彼女の印象は豹変する。連休明けに、大人っぽくも初々しい教育実習生たちが高校へと授

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【詩】半月  (#シロクマ文芸部参加作品)

【詩】半月  (#シロクマ文芸部参加作品)

朧月
よく見れば 半分

光は輪郭を溶かし
実は半分であることを
さりげなく誤魔化しながら
夜毎ふくらむ 花を誘う 

もう半分はどこへやったの?
欠けたの? 亡くしたの?
それとも
これから造るの?

朧月
よく見れば 半分

夜毎ふくらむ花のひとひら
よく見れば 月

・・・・・・
見上げた月が,ちょうど半月の朧月でした。
思わずシャッターを切りました。
月に誘われコブシも咲き出し、すっかり春

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【掌編】かみかくし【散文詩】

【掌編】かみかくし【散文詩】

閏年、四年に一度だけの二月二十九日。その日にだけ訪れることのできる小さな島で待っています。
爪月の端、時のあわいから届いた小さな手紙には、流れる水のような文字でそう書かれていました。岬まで迎えを寄越しますと書かれた文章を、わたしは何度も何度も指で辿って、その日その時を心待ちにしていたのです。

ずいぶん前からあなたとその日に会おうとを決めていて、わたしはそれだけを覚えていました。けれど、織姫と牽牛

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【詩】ユキヤナギ

【詩】ユキヤナギ

雪化粧をした枝に積もる
冷たい白粉を 集めたら

蕾に 籠めておきましょう

あたたかい朝
白い光のような雪が
咲くでしょうから

・・・・・・

春先に咲くユキヤナギの花が、もう咲きかけていたのに触発されました。
今年もぼちぼち、不定期更新で始動いたします。よろしくお願いします。

小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 からお題をお借りしました。いつもありがとうございます。

【掌編】詩と暮らす【散文詩】

【掌編】詩と暮らす【散文詩】

詩と暮らすことにしたのは、数年前の春からです。

その春、わたしは陽気に当てられぐったりとしていました。そんな時、窓からふと、ひとひらの詩が飛び込んできたのでした。ひらひら、ひら、り。窓の内側に吹き込んできた詩を、手のひらに収めました。薄桃色の詩は、見た目の美しさとは裏腹に、少し乾いていました。わたしは硝子の容器に水を張り、詩を浮かべてみたのでした。すると、詩は楽しそうにくるくると硝子の中で回りま

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【詩】月めくり、月めぐり

【詩】月めくり、月めぐり

月めくり、夢をかけ替える朝
通う道は明るい
来月、次の月こそと
願って、ページを はらり

月めくり、今を過去にする夜
辿り着いた部屋は暗い
今月、ようやく終われたと
うそぶいて、ため息 くたり

月めぐり、満ち欠けやがて名月
黄金色の夜明けは近い
満月、見送って手を振ると
滴って 月光 とろり

・・・・・
先日は明るい月夜でしたね。
小牧幸助さんの #シロクマ文芸部  の企画「月めくり」から書き

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【詩】うつろう

【詩】うつろう

首元まで詰まっていた 夏が
つるん と抜けて
行ってしまったので

わたしのからだは
空っぽになって
やたら 風を通すようになった

行きつ戻りつしていても
行ってしまったら 戻ってこない

夏は 脱いでしまったのだ
わたしという 皮を

うつろう季節はいつも
すぐ 肌の下にある

*******************
今年の残暑は厳しかったなぁと思いながら書きました。ようやくの秋ですね。
素敵

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【詩】蛍

【詩】蛍

都会の真ん中で放たれる蛍の群れを
誘われて、見たことがある
ビルの屋上に広がる庭園で

 (いつのことやら、夢のようだけれども)

人の都合で育てられ
人の都合で死んでいく蛍たちが
黄色い求愛を披露する
あえかな光の、たしかなアイデンティティ

闇に眩しく輝くネオンほど
美しいとは思えないけれど
交尾を全うするためだけに
尾を引く光はきれいだった

ほ、ほ、ほーたるこい

朝になればただの虫と間違

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【詩】雨音

【詩】雨音

地上42階のあの部屋では
よほど強い風が吹かない限り 
雨音はほとんど生まれない
窓の向こうの直線たちは
時折つるつると走るだけ
いくら曇り空が号泣しても 
声は霞の果て 聞こえない

地上3階のこの部屋では
ぱらばらぱらりと雨は鳴く
目の前の公園の木が広げた
緑の葉に受け止められて
直線は終着点に安堵して
断末魔か、最期の吐息か
声を上げて、四方に散る

窓に 葉に 地に 誰かに 何かに
出会う

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【掌編】夕暮れ日記【散文詩】

赤青鉛筆で日記を書く。赤で下書きし、青でなぞれば、少し黒っぽい紫色の一日が仕上がる。

「今日は楽しかった」、そういうことにしておきたい、あかいことば。「今日は楽しかった」、辿りながら少しはみ出してしまう、あおいことば。

赤いわたしは青い私に塗り込められて、陽炎になる。不器用さのせいで重なり合えないはらいの先は、二つの色に分たれたまま、互いの影を見つめて震えている。

赤青鉛筆を擱けば、少し黒っ

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【詩】菜の花

【詩】菜の花

野原に
電灯を
つける

そこだけ
あかるい
光になる

遠くからも
よくわかる
春の合図に

心の中で
手を振る
電車の中

遥かな
土手の
菜の花

・・・・・・
いよいよあたたかくなってきました。あちこち花ざかりですね。
素敵なお写真をお借りしました。ありがとうございます。

【詩】おもたい

【詩】おもたい

長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前
風呂に入れれば、その湯が
服を着せれば、その衣が
おもたい、――おもたい、と
呻くように呟いていた
五体満足に生きていたら
気にすることもないものたちの、重みを

亡くなった後
故人の服を捨てようと
集めてまとめて袋に入れれば
一枚二枚では感じなかった
衣の重みがずっしりと
袋を持ち上げる指に
引きちぎれんばかりに、食い込む

いつだって身軽でいたい
けれど人生は

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【詩】その木の下で

【詩】その木の下で

大きければ良い
いうものではないけれど
クリスマスツリーはやっぱり
大きいものが、いい

大きければ大きいほど
心を奪われるから
その木の下で鮮やかに輝く
世界に満ちるたくさんの不思議が
本当のものなのだと
思わせてくれるから

子どもたちと共に
箱の中で眠る幹を取り出して
モール、スター、オーナメント、リボンに鈴、
虹色のライト
飾り付けよう
抱えきれない期待と共に

大きければ良い
というもの

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【詩】梢の神鳴

【詩】梢の神鳴

秋は心中を決意した

後悔はないの
ただ私はもう、手遅れ
そんな言葉を残して
紅葉は真っ赤に燃え落ちた

遺言が伝わると
夜でも色がわかるほど
黄色く盛る炎となって
公孫樹は無言で後を追った

見事なまでに 秋は全焼

間に合わなかった
わたしもなりたかった
手遅れなくらいの激しさに
闇を貫けるほどの明るさに

すっかり命をなくした梢では
十月を留守にしていた神様が
知らぬ間の皆の心変わ

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