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【詩】蛍

都会の真ん中で放たれる蛍の群れを
誘われて、見たことがある
ビルの屋上に広がる庭園で

 (いつのことやら、夢のようだけれども)

人の都合で育てられ
人の都合で死んでいく蛍たちが
黄色い求愛を披露する
あえかな光の、たしかなアイデンティティ

闇に眩しく輝くネオンほど
美しいとは思えないけれど
交尾を全うするためだけに
尾を引く光はきれいだった

ほ、ほ、ほーたるこい

朝になればただの虫と間違えられて
打ち捨てられる都会の蛍に
生まれ変わる夢を見た、夜

 (それは、小さな願いだったかもしれない)

誰かの都合で生まれ落ちて
貴方の都合で死ぬとしても
飛ぶ理由は明確に知らない
それでも行くべき方向へと

必死に夜闇をもがく姿は
全く美しくなどなくても
ゆぅらりと、欲に正直な軌跡が
少しはきれいに見えると いい

ほ、ほ、ほーたるこい

目が覚めたら、朝の道端で命尽きた
小さな虫たちの骸を探そう
蛍として生きたはずの命を

 (夢は夢、けれども、夢)

生まれ変われるのならば
あえかで、たしかなものに
愛し欲し生きることに
ためらわず飛ぶものに


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蛍の季節にはちょっと遅れてしまいましたが……過去作にもささやかな光を当ててやりたいと思い、本格的な夏の前にあげてみました。

本作は、2021年4~6月の日本現代詩人会の投稿欄で入選となったものです。

本作は、以下の詩集に収録しています。もし興味を持っていただけるようでしたら、詩集もお手に取っていただけましたら幸いです。

素敵なお写真をお借りしました。ありがとうございました。


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