あいりす♢

一次創作ファンタジー小説、または詩を書いてます

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記事一覧

白い女の人

 俺は、視える人らしい。  というのが分かったのは、つい最近のことだ。港でコンテナの運搬や搬出作業をしている俺は休憩時間、海が見える二階の食堂で昼食をとっていた…

あいりす♢
1か月前
3

紳士な蜘蛛のお話

 車を運転していると、フロントガラスに虫がいることに気が付いた。  どうせ走っている内にどこかに行くんだろうとか思っていたが、どうやらその虫が車内にいると分かっ…

あいりす♢
3か月前
5

日本妖怪「河童の落語」

「さぁさぁ皆様、寄ってらっしゃい聞いてらっしゃい。河童の落語のお時間ですよぉ」 「いやはや、皆様集まって頂きありがとうございます」 「わたくし、河童はですね、人間…

あいりす♢
7か月前
3

さよならクッキング

飛行機の窓から あなたに手が届くのかと思って 泡立て器で混ぜて メレンゲを作って 雷雲で遊んだ そんなことしたって どうにもならないことは分かってるけれども これが…

あいりす♢
8か月前
6

一宵の舞

 俺が雅楽舞踏を始めたきっかけは、こんな些細なことからだった。 「なぁ、お前ん家金持ちなんだろ?」  今思えば失礼な言い方だったと思う。小学生男子が言うことなんてこ…

あいりす♢
8か月前
12

朝のコーヒー

 昨日の内に乱雑に閉めたカーテンから朝日が差し込んできて目が覚める。遮光の意味もしっかり閉めなければこうも眩しい休日の寝室は、いつも以上に静かな気がした。  布…

あいりす♢
9か月前
8

幸運渡し

「ねぇ、見てよ〜、ユミキ」 「え、何?」  たった今「ユミキ」と呼ばれた私は、彼氏へ視線を向ける。  するとそこには、困った顔をした彼氏がいて、私にスマホ画面を見せた。 …

あいりす♢
10か月前
3

七夕嫌いだった私が願い事を書いた日

 七夕祭りなんて、嫌いだ。  街や店が七夕祭りに向けてすっかり模様替えをしている中、私は心の中でどんよりとそう考えた。  七夕祭りというか、誕生日もクリスマスも…

あいりす♢
11か月前
6

春と秋の山

 かつて炭鉱で栄えていた町はすっかり村になってしまった頃、残された水力発電所のそばには、一本の桜が変わらず春を愛でていた。  そんなある日の厳しい冬に、珍しく雷…

5

トゥルース言葉

 八木(やつき)レンは、昔から正直な男だった。  体が大きな人には平気で「太ってる」と言い、声の小さい人には「聞こえない」と大きな声で言ってしまうものだから、学校でも…

3

ゾウの殺人

 今日の依頼は、ここからは遠い国からだった。  見渡す限りのサバンナ地帯。隣にいる助手(ただの付きまとってるやつ)はすでに限界を示していた。 「先生〜、まだですか…

3

話屋の笠地蔵

 初めましての方は初めまして。私はまだまだ駆け出しの話屋でしてね? まだまだ拙いのですが、一つお話をさせて頂きます。  こちらまで足を運んで私めのお話を聞きに来…

4

幽霊バス

 今日も、空っぽの席を運ぶ。  ここは、大半山が占める田舎の町だ。昔は炭鉱で栄えた大きな町だったようだが、今では廃れて人口も減り、次第に若い人は出て行った。  誰…

1

嫉妬の味

 嫉妬をしない人間なんていないらしい。  だったら私は人間ではないのか。そう考えたが答えはない。  後から生まれた弟と妹は、手先が器用で世渡り上手だった。けれども…

3

生き地獄死に地獄

「そんなことも出来ないの」  そんな言葉、もう何万回も聞いてきた。  リボン結びも掃除機の使い方も包丁も。全てのことを押し付けて、ユメカの母はほとんどの日々を留守に…

1

炎の夢

 炎の夢を、見たことがある。  それは、まるで火事の渦中かのように前も後ろも炎で、逃げ場がないのに怖くない、と初めて見た時からなぜかそう直感していた。  あまり…

6
白い女の人

白い女の人

 俺は、視える人らしい。
 というのが分かったのは、つい最近のことだ。港でコンテナの運搬や搬出作業をしている俺は休憩時間、海が見える二階の食堂で昼食をとっていた。そこに先輩がやって来て談笑をしていたのだが、ふと見やった先に白い人が座り込んでいたことに気がついた。髪の長い女の人のように見えて、コンテナだらけのここから海でも眺めてるんすかねと言ってみたら「お前も視える人間か」と言われて判明したのだ。

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紳士な蜘蛛のお話

紳士な蜘蛛のお話

 車を運転していると、フロントガラスに虫がいることに気が付いた。
 どうせ走っている内にどこかに行くんだろうとか思っていたが、どうやらその虫が車内にいると分かって少し驚いた。どこからか隙間を縫って入って来たんだろう。
 そいつはドライブレコーダーから糸を垂らしている蜘蛛だった。虫も蜘蛛もそんなに苦手ではないので、つまみ出して追い出してやろうと思ったが外が雨だったので、せっかく雨宿りしているのに可哀

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日本妖怪「河童の落語」

日本妖怪「河童の落語」

「さぁさぁ皆様、寄ってらっしゃい聞いてらっしゃい。河童の落語のお時間ですよぉ」

「いやはや、皆様集まって頂きありがとうございます」

「わたくし、河童はですね、人間たちの……」

「落語、というものを真似てこのような催しを開かせて頂きました」

「本場の落語とは少々ズレがあるかと思いますが」

「皆様にも落語の良さが伝わればと思い、河童界初めての落語を始めさせて頂きたいと思います」

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さよならクッキング

さよならクッキング

飛行機の窓から
あなたに手が届くのかと思って
泡立て器で混ぜて
メレンゲを作って
雷雲で遊んだ

そんなことしたって
どうにもならないことは分かってるけれども
これが最初で最後の
僕の悪足掻きって笑ってくれよ

電車の窓から
あなたに手を振るんだと思って
オーブンの光で焼いて
焼き立てケーキを作って
夕陽色で描いた

そんなことしたって
どうにもならないことは分かってるけれども
これが本当の

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一宵の舞

一宵の舞

 俺が雅楽舞踏を始めたきっかけは、こんな些細なことからだった。
「なぁ、お前ん家金持ちなんだろ?」
 今思えば失礼な言い方だったと思う。小学生男子が言うことなんてこんなレベルだったかもしれないが、当時の俺は友達の家に遊びに行きたいがために振った突拍子もない質問だった。
「そうだけど、オレん家には来ない方がいい」
 この頃から仲良かった友達のマコトが、俺の言わんとしていたことが分かったのかそう返され

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朝のコーヒー

朝のコーヒー

 昨日の内に乱雑に閉めたカーテンから朝日が差し込んできて目が覚める。遮光の意味もしっかり閉めなければこうも眩しい休日の寝室は、いつも以上に静かな気がした。
 布団から出るにはまだ寒くて、手身近にある服を引っ張ってその場で着替えると、そろそろ起きなくてはと脳が覚醒してきてずるりとベットから転がり落ちる。
 ひやりとしたフローリングの床に足の裏まで目が覚めて、はっきりとしてきた聴覚は外でさえずるヒヨド

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幸運渡し

幸運渡し

「ねぇ、見てよ〜、ユミキ」
「え、何?」
 たった今「ユミキ」と呼ばれた私は、彼氏へ視線を向ける。
 するとそこには、困った顔をした彼氏がいて、私にスマホ画面を見せた。
 その画面に映るのはスマホアプリのガチャ結果。彼氏に影響されて始めたそのアプリのガチャ結果は、正直に言うと悪い。先程課金したというのにこの有様なら、爆死というやつだろう。
「最悪っ、レア一つも出ないなんて」
 今日はツイてないなぁ

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七夕嫌いだった私が願い事を書いた日

七夕嫌いだった私が願い事を書いた日

 七夕祭りなんて、嫌いだ。
 街や店が七夕祭りに向けてすっかり模様替えをしている中、私は心の中でどんよりとそう考えた。
 七夕祭りというか、誕生日もクリスマスもみんな嫌いだった。
 いつも人とは違うことを好んだ私は、子どもの頃から浮いていて。変わった子なんて言われるくらいだったが、私に付き合える友達も彼氏もいたことがないまま二十歳も過ぎて。
 なぜなぜ質問が多い私は親からもそれとなくあしら

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春と秋の山

春と秋の山

 かつて炭鉱で栄えていた町はすっかり村になってしまった頃、残された水力発電所のそばには、一本の桜が変わらず春を愛でていた。
 そんなある日の厳しい冬に、珍しく雷鳴が轟き、高地に位置していた桜に、残酷にも稲妻が落ちた。
 また同じ春がやって来た時にはそれはすっかり焼け焦げたばかりで、これはもうだめかもな、なんて一人の男性が呟いた。
 だが、彼にとってこの場所はかつての青春であり、後世に語るべき歴史の

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トゥルース言葉

トゥルース言葉

 八木(やつき)レンは、昔から正直な男だった。
 体が大きな人には平気で「太ってる」と言い、声の小さい人には「聞こえない」と大きな声で言ってしまうものだから、学校でも度々先生に指摘されていた。
 しかし、レンには悪気はなかった。なぜ、嘘をついてはいけないと言われるのに、人の見た目や性格をはっきりと言ってはいけないのか。分からないととある先生に問いただすと、レンはこう言われたのだ。
「本当のことを言

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ゾウの殺人

ゾウの殺人

 今日の依頼は、ここからは遠い国からだった。

 見渡す限りのサバンナ地帯。隣にいる助手(ただの付きまとってるやつ)はすでに限界を示していた。

「先生〜、まだですか〜?」

 彼女……フォレスターはすでにぐったりとしながら歩いていた。

 それもそのはずだ。ここは日中は五十度を越える程暑い国。

 近くの都市までは飛行機で繋がっているが、そこから半日かけて歩いた村まで行かなくてはいけないので、フ

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話屋の笠地蔵

話屋の笠地蔵

 初めましての方は初めまして。私はまだまだ駆け出しの話屋でしてね? まだまだ拙いのですが、一つお話をさせて頂きます。

 こちらまで足を運んで私めのお話を聞きに来て下さったみなさんに感謝を込めて、精一杯お話をさせて頂きますね……。

 さて、みなさんは日本昔話をご存知でしょうか。日本に暮らしていると、一つや二つは聞いたことがあるかと思いまして。

 川から桃が流れたり、灰をばらまいて花を咲かせたり

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幽霊バス

幽霊バス

 今日も、空っぽの席を運ぶ。
 ここは、大半山が占める田舎の町だ。昔は炭鉱で栄えた大きな町だったようだが、今では廃れて人口も減り、次第に若い人は出て行った。
 誰も通らない交差点で、律儀に信号を待って走る一台のバス……を運転をしているのが僕である。
 高齢者の多くなったこの町では、車と免許を手放したご老人たちが時々バスを利用していた。大体降りる先は病院。あとは、町で唯一のスーパーマーケット。
 そ

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嫉妬の味

 嫉妬をしない人間なんていないらしい。
 だったら私は人間ではないのか。そう考えたが答えはない。
 後から生まれた弟と妹は、手先が器用で世渡り上手だった。けれども私は、嫉妬どころか全力で接した。
 ケンカもあまりしなかった。
 私で失敗したと気付いた母は、子育て方針を変えてくれたのが助かった。私と違って、弟と妹には、肯定感が高くなるように接した。私もそれに見習った。見事に肯定感の高い弟と妹に成長し

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生き地獄死に地獄

生き地獄死に地獄

「そんなことも出来ないの」
 そんな言葉、もう何万回も聞いてきた。
 リボン結びも掃除機の使い方も包丁も。全てのことを押し付けて、ユメカの母はほとんどの日々を留守にした。
 母はユメカを、都合のいい時だけ頭を撫で、都合のいい時だけ使い魔にし、都合のいい時だけサンドバックにした。
 それでも学校には通っていた。それだけがユメカの救いだったが、ある時、母が男を連れ込んだ時にとうとう限界の緒が切れた。

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炎の夢

炎の夢

 炎の夢を、見たことがある。

 それは、まるで火事の渦中かのように前も後ろも炎で、逃げ場がないのに怖くない、と初めて見た時からなぜかそう直感していた。

 あまりにも何度も同じ夢を見るので、だんだん慣れてきた私は、次第にその場で寝転んだり散歩をしたりしていた。

 動けばその通りに炎が私を避け、真っ暗な世界を赤だけが煌々と照らしていた。

 そんなある日だった。炎の夢ばかり見ている私を心配した母

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