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話屋の笠地蔵

 初めましての方は初めまして。私はまだまだ駆け出しの話屋でしてね? まだまだ拙いのですが、一つお話をさせて頂きます。

 こちらまで足を運んで私めのお話を聞きに来て下さったみなさんに感謝を込めて、精一杯お話をさせて頂きますね……。

 さて、みなさんは日本昔話をご存知でしょうか。日本に暮らしていると、一つや二つは聞いたことがあるかと思いまして。

 川から桃が流れたり、灰をばらまいて花を咲かせたり……一見すると、嘘みたいな話ばかりですよねぇ? しかし、探してみると、元になった場所や元の話があったりするじゃないですか。

 というと、本当にあった話だってあるのではないか。私はそう思いましてね、調べてみたんですよ、笠地蔵の話をね。

 ええ、貧しい家のおじいさんが、一つも笠が売れなかったとある深い雪の日に、お地蔵さんに笠を全部被せて帰るお話です。その日は、おじいさんが笠を売りに出した時にはすでに雪が降っていましてね、笠をわざわざ買いに来る人なんて、一人もいなかったそうで。なぜならみんな、笠を被って出掛けていたものですから。

 とはいっても、おじいさんの笠も手間がかかっていない訳ではないはずなんです。おじいさんとおばあさんは竹林の土地を持っていましたから、その竹を使った素材で物作りをして生計を立てていたのですから。おじいさんはその笠を、売らなくちゃいけなかったんです。

 なのにその日に限って一つも売れずに日没が迫ってしまい、仕方なく帰ろうとしたところにですよ……いつもとは違う道を通ったんでしょうか。雪が積もって寒そうにしていたお地蔵さんを、見かけたんでしょうなぁ。

 おじいさんはその時に、売り上げのことを忘れたんでしょう。お地蔵さんたちを不憫に思い、売れなかった笠を一つ一つお地蔵さんたちに被せてあげた、と。足りない分は、自分の被っていた布頭巾で補って。

 とここまでが、有名な話ですな。その後、お地蔵さんたちが感謝に思って、金銀財宝、たくさんの食料などを持って来たという話ですが、お地蔵さんが動くなんて、信じられない話だと思いませんか? だから私は、調べたんですよ。本当は「誰が」おじいさんとおばあさんに、恵みをもたらしたのか。

 さすがにこれは作り話かと思ったんですけどね、調べていると、あったんです。お地蔵さんに笠を被せているおじいさんを見かけた、と。

 それは、近くで雪遊びをしていた近所の子どもたちが発見していたそうで。子どもはそんな不思議な人がいるなんてと、親に話したんでしょうねぇ。

 その子どもの親というのが、百姓をやっている小さな田んぼの持ち主でしてね。おじいさんの話に心を打たれたその人は、自分らのためにと蓄えていた米俵を一つ、おじいさんとおばあさんの家に届けたんだそうで。

 しかし、米俵一つではなかったんですよ。というのは、その百姓をやっている奥さんの方が、井戸端会議やら茶会が好きな方でして、心優しい竹林のおじいさんの話を、ある日の茶会に話したそうで。みんなの心にそれはもう染みたらしく、その話を聞いた奥さんの旦那さんが、冬の前に蓄えていた薪をいくらか、おじいさんとおばあさんに届けに行ったんだそうですよ。

 その旦那さんというのが、夏場は木こりをしている信頼の厚い男でしてな、周りには彼を慕う若者がたくさんいたんだそうで。

 その日も、いつもより積もり過ぎた雪を、近所だからという理由で除雪を手伝いながら、竹林のおじいさんの話をしていたんだそうですよ。

 すると、そこの若者たちは大層そのおじいさんの話に感化されまして、彼らは相談をしながら、それぞれ出せる金銀を少しずつ用意して、おじいさんとおばあさんの家へ届けたんだそうで。

 そこからはもう語らなくても分かりますな?

 話はどんどんと広まっていき、とうとう将軍様の耳にまで届きまして。そんな心優しいおじいさんを放っては置けないと、将軍様は部下に言いつけてたくさんの金銀財宝、食料をおじいさんとおばあさんに届けたのだというお話です。

 そういうことで、かの有名な笠地蔵という昔話は、おじいさんの心の優しさから生まれた「実は人の力」であったということでして、それが長い長い年月を経て、笠地蔵さんたちが金銀財宝、たくさんの食料を運んできた、ということになるのでしょうなぁ。

 え、この話は本当のことだったかって?

 やめてくださいよ、お客様。こんな格好の私が、昔話を本気で調べるように見えますか?

 おっと、私の話屋の時間はそろそろ終わるようで……。

 私めの長いお話、聞いて下さって、ありがとうございました。また、どこかの舞台でお会いしましょう。

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