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日本語を失いゆく我々のために|感想文@『東京都同情塔』/九段理江
「「嫁」という呼び名をやめて「パートナー」と呼びましょう」
10年程前、そんな主張をネットで見かけた。
奇特な人だ、としかその時は思わなかったけれど、いつのまにやら「嫁」という言葉は市民権を失いつつある。
私も使うのが何となく憚られ、「パートナー」とは言わないまでも「妻」だの「奥さん」だのと言っている。
当方、北陸の田舎住まいだが会社の同僚も似たようなものだ。この感覚は都会だけでなく日本全土に広
賢者タイムにおける賢者性が小説に与える影響について―若しくは、酷く局地的な村上春樹考―
飲み会をした。先週のことだ。
取引先との飲み会だが、お互いの会社の20代後半~40代前半の中堅職員で集まった、仕事とプライベートの中間みたいな会。
当日集まったのは男性5人、女性3人。まあまあ和気藹々と飲み会は進んだところで、男の中の一人が最近引っ越しをしたという話になった。
「会社に近くなったから自転車で通うようになったんですけど、電車乗らなくなったら本読まなくなっちゃいましたね」
そう言う彼
濃密な成長、その時|『ペンギン・ハイウェイ』/森見登美彦
圧倒的成長の話をしたい。
誰が言い出したかは知らないが、一昔前に求人広告(と言うよりそのパロディ)でちょこちょこ見かけたこのワード。異様に語呂が良く、漂うブラック企業臭から局地的に流行っていた、ような気がする。
「圧倒的成長を謳う企業に入ったので、圧倒的成長しました!」という体験談を聞いたことは残念ながらないけれど、人は確かに圧倒的成長をする瞬間がある、と思う。
成長とは年齢に伴う一次曲線ではな
【小説感想】『同志少女よ、敵を撃て』/逢坂冬馬~戦争に身を投じた少女の「敵」とは~【大ネタバレ】
※注意:本感想文は読了した方向けです。あらすじの記載もなければ人物紹介もなく、1スクロールするとラストシーンのネタバレがあります。
2022年度本屋大賞受賞。
第11回アガサ・クリスティ賞を史上初の満点受賞。
第166回直木賞候補作にして第9回高校生直木賞受賞。
華々しく彩られた本書の受賞歴である。
これが兵士の勲章なら昇進していてもおかしくない。
その人気ぶりはすさまじく、私が住んでいる町
【読書感想文】『ヤクザときどきピアノ』/鈴木智彦~極道の生き様を描き続けた手が鍵盤をたたく時~
新しい趣味を始めたいけれど躊躇している、そういう人は結構多いのではないかと思う。
始めたい気持ちはあるのに、一歩踏み出せない理由は何なのか。
時間がない、環境がない、歳を取りすぎた、周りに知られたら恥ずかしいetc…、それらしい理由を挙げればいくらでも出てくる。
そういう人は、この本を読めば今までの自分と決別できるかもしれない。
これは、自分が今まで見たことない景色を見る勇気を与えてくれるエッ
"平成の目指した多様性"は生きやすさを産んだのか|【読書感想文】『死にがいを求めて生きてるの/朝井リョウ』
※ネタバレを含みます
平成。
今思えば不思議な時代だった。
ノストラダムスでも潰せなかった時代だ。
生きがい。
この小説の大きなテーマである。
作中で主人公の堀北雄介は言う。
人間には三種類いる。一つ目は、生きがいがあってそれが自分以外の他者や社会に向いている人間。二つ目は、生きがいが自己実現に向いている人間。そして三つめが、生きがいのない人間。
また、この小説では生きがいの裏面である、死に