つゆ

2021年6月7日〜8月2日まで毎日一粒童話を書きました。『黒い犬と一緒につくったおは…

つゆ

2021年6月7日〜8月2日まで毎日一粒童話を書きました。『黒い犬と一緒につくったおはなし』として、マガジンにまとめてあります。犬と、珈琲と、物語と、雨が好き。保育士。

マガジン

  • 黒い犬と一緒につくったおはなし

    2021年6月7日から8月2日の57日間、毎日書いたおはなしです。 大好きな、黒い犬と一緒につくりました。

記事一覧

黒い犬のおまけのはなし

とうとう、さいごの日をむかえることができました。 毎日一粒の童話を書こうと決めたのは、2021年6月6日のこと。 その少し前から、大好きな家族である、黒い犬は、ご飯を…

つゆ
3年前
22

はじまりとおわりのおはなし

ある朝、おばあさんは、小さな子どもの泣き声で、目を覚ましました。 おばあさんは、布団から出て、めがねをかけました。 泣き声はどうやら、おばあさんと一緒に住んでい…

つゆ
3年前
5

ひまわりの花

夏の朝、ひまわりの花が咲きましたよ。 ひまわりは、ぐーんと、背のびして、あたりを見回しました。 この小さな庭に、ひまわりの種を植えてくれた、あのおばあさんは、ど…

つゆ
3年前
1

青いハンカチ

お父さんと、海沿いを走る、電車に乗った。 かたん ことん かたん ことん 窓の外には、大きな海が見える。 (どこかで見た景色だなあ。) ぼんやりと、見ていたら、…

つゆ
3年前
2

やっほう鬼と巫女

ある山の奥に、『やっほうの橋』という、橋がありました。 深い谷川にかかる橋でしたが、渡るとちゅうで、 「やっほう」 と、声が聞こえても、決して、こたえてはいけな…

つゆ
3年前
5

まいごのみかた

ぼくは、お母さんと、ショッピングセンターに、買い物にきた。 野菜売り場で、枝豆をかごに入れたとき、ぼくの保育園のお友だちのお母さんが、話しかけてきたんだ。 お母…

つゆ
3年前
3

パンパンカパン屋さん

パンパカパンパン パンパカパン パカ パンパカパンパン パンパカパン パンパカパン パパンパパン パン パーン 山の中に、高々とファンファーレが、鳴りひびきまし…

つゆ
3年前
1

台風男

「クーン…」 はじめは、小さなこえで、ないていた、犬のアオの声が、だんだん大きくなってきます。 「ワン!」 そして、寝たふりをしている、こう君のほっぺたを、ぺろ…

つゆ
3年前
2

カラスの子 夏の朝

いつも見ているだけだった、ケヤキの木の、いちばん高い枝にとまると、世界は、おおきく、ひろがって見えました。 カラスの子は、ふかく、いきをすって、「カア!」と、な…

つゆ
3年前
9

光が照らす場所

「ここの、あさがおは、とくべつに、きれいね。」 この畑道をとおる人は、みな、そう思う。 ほかにも、たくさん、あさがおは、咲いているのにね。 どうして、ここの、あ…

つゆ
3年前
1

空と風 2021年7月23日

2021年7月23日 風 誕生日おめでとう✨ 風くん、20才のお誕生日おめでとう💖 HAPPY BIRTHDAY♪KAZE 風さーん、おめでとうございまーす! 「そうか、今日、オレの誕生…

つゆ
3年前

風鈴

『ちりん、ちりりーーーん』 どこかから、風鈴の音がして、しめったような、なつかしいにおいがした。 玄関を入ると、奥の方まで、土間が続いている。 (たしか、あっち…

つゆ
3年前
2

いちばんすきな、のりものは?

 ゆうた君は、園庭にねころんで、空を見ていました。 保育園のお外遊びの時間は、おしまい。もも組のおともだちは、お部屋に入って、お着がえをしたり、トイレに行ったり…

つゆ
3年前
2

おじいさんのスイカ

夏がきました。 早起きのセミが、お日様よりも早く、わいわいと鳴いています。 畑では、おじいさんが、うで組をして、立っていました。 「よし、よし、よし。」 おじい…

つゆ
3年前
8

白い夏

ずっと、だまって、生きている、カメがいた。 「おはようございます、いいお天気ですね。」 魚や、鳥たちがはなしかけると、にっこりと、しずかに、わらいかける。 たい…

つゆ
3年前

クモの子のはなし

 太陽が高くのぼり、木の下には、くっきりと、黒いかげが出ている、お昼前のことでした。 クモの子が、サササッと、音も無く、家に帰ってきました。 クモのおばあさんが…

つゆ
3年前
2

黒い犬のおまけのはなし

とうとう、さいごの日をむかえることができました。

毎日一粒の童話を書こうと決めたのは、2021年6月6日のこと。

その少し前から、大好きな家族である、黒い犬は、ご飯を食べず、お散歩にも行かれなくなって、ただ、寝そべっていました。

声をかけると、その黒い瞳を向けてくれるけれども、すぐに、目をそらして、ハアハアと荒い息をするばかり。

わたしは、ただただ、おろおろしました。そして、なんども黒い犬

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はじまりとおわりのおはなし

はじまりとおわりのおはなし

ある朝、おばあさんは、小さな子どもの泣き声で、目を覚ましました。

おばあさんは、布団から出て、めがねをかけました。

泣き声はどうやら、おばあさんと一緒に住んでいる、黒い犬の方から聞こえてきます。

おばあさんが行ってみると、寝そべっている、黒い犬の頭をなでながら、ちいさな女の子が泣いていました。

どこの子だろう? そばに行って、おばあさんは、おどろきました。

それは、ちいさな子どものときの

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ひまわりの花

ひまわりの花

夏の朝、ひまわりの花が咲きましたよ。

ひまわりは、ぐーんと、背のびして、あたりを見回しました。

この小さな庭に、ひまわりの種を植えてくれた、あのおばあさんは、どこかしら?

それから、おばあさんの隣で、いつも優しく笑っていた、あの黒い犬は、どこかしら?

ひっそりとした庭には、だれの姿もありません。

ひまわりは、ひらりと飛んできたチョウに、聞きました。

「このうちの、おばあさんは、どこかし

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青いハンカチ

お父さんと、海沿いを走る、電車に乗った。

かたん ことん かたん ことん

窓の外には、大きな海が見える。

(どこかで見た景色だなあ。)

ぼんやりと、見ていたら、思い出した。

これは、小さい時に、はじめて買ってもらった、ハンカチと同じ景色。

どこかで落として、なくしてしまったけれど、あの、青いハンカチ。

(こんなところに、いたのか。ひさしぶり。)

青い海に、白い船の刺繍がしてあるハン

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やっほう鬼と巫女

ある山の奥に、『やっほうの橋』という、橋がありました。

深い谷川にかかる橋でしたが、渡るとちゅうで、

「やっほう」

と、声が聞こえても、決して、こたえてはいけない、と、言われておりました。その声の主は、鬼であるから、こたえれば、とってくわれてしまう、と、村の人々は、たいそう恐れているのでした。

その村には、古い神社があって、山の向こうの村から修行に来ている、まだ年の若い巫女がおりました。

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まいごのみかた

ぼくは、お母さんと、ショッピングセンターに、買い物にきた。

野菜売り場で、枝豆をかごに入れたとき、ぼくの保育園のお友だちのお母さんが、話しかけてきたんだ。

お母さんたちは、おしゃべりを始めた。

ぼくは、しばらく、トウモロコシのひげを眺めたり、一番大きいスイカを探したり、パックの中のミニトマトの数を、かぞえたりしていた。

やっぱり、話は長そうだ。ぼくは、お母さんに言った。

「ねえ、お菓子見

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パンパンカパン屋さん

パンパカパンパン パンパカパン

パカ パンパカパンパン パンパカパン

パンパカパン パパンパパン パン パーン

山の中に、高々とファンファーレが、鳴りひびきました。

「みなさま、ほんじつ、『パンパカパン屋』山の中店が、開店でございまーす!!」

先頭で、ラッパを吹くのは、ウサギさん。

ウサギのこどもたちが、旗をふったり、ちらしをくばっています。

「へえ、山の三本杉に、パン屋ができたそう

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台風男

「クーン…」

はじめは、小さなこえで、ないていた、犬のアオの声が、だんだん大きくなってきます。

「ワン!」

そして、寝たふりをしている、こう君のほっぺたを、ぺろりとなめました。こう君はがまんできずに、布団にごろごろと転がりながら、げらげらと笑いました。

「わかったよ、おしっこに行きたいんだろう、いこう。」

こう君とアオは、外に出ました。

「みーん、みんみんみん…」

「ホーホケキョ!」

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カラスの子 夏の朝

カラスの子 夏の朝

いつも見ているだけだった、ケヤキの木の、いちばん高い枝にとまると、世界は、おおきく、ひろがって見えました。

カラスの子は、ふかく、いきをすって、「カア!」と、ないてみました。

「カア」

「カア、カア」

どこからか、仲間の声がかえってきます。

夏の朝は、にぎやかです。

鳥や、虫や、木や、草や、生き物たちの、いのちの振動で、カラスの子の止まっている枝も、さわさわと、ふるえています。

”ブ

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光が照らす場所

「ここの、あさがおは、とくべつに、きれいね。」

この畑道をとおる人は、みな、そう思う。

ほかにも、たくさん、あさがおは、咲いているのにね。

どうして、ここの、あさがおは、こんなに美しい色をしているのでしょう。

あさがおが咲いているのは、畑の東側の、木立のすきまから、朝いちばんに、お日様が当たる場所。

お日様がのぼり始めた、まだ、空が白い時間にね、ひんやりと、しめった空気の中で、この朝顔に

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空と風 2021年7月23日

2021年7月23日

風 誕生日おめでとう✨

風くん、20才のお誕生日おめでとう💖

HAPPY BIRTHDAY♪KAZE

風さーん、おめでとうございまーす!

「そうか、今日、オレの誕生日かあ。」

LINEに流れてくるお祝いメッセージが、自分ではなく、よその人へのメッセージなのではないか、と思う。実感がわかない。

家族はどこかに出かけて、だれもいないようだ。

テーブルの上には、

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風鈴

『ちりん、ちりりーーーん』

どこかから、風鈴の音がして、しめったような、なつかしいにおいがした。

玄関を入ると、奥の方まで、土間が続いている。

(たしか、あっちにいくと、おだいどころ。)

「ようきたね、なっちゃん。ほれ、おあがり。」

おじいちゃんによばれて、なっちゃんは、座敷にあがろうとした。おじいちゃんのいる座敷は、土間よりも高いところにあって、その間にある、板の間にのぼり、それから座

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いちばんすきな、のりものは?

 ゆうた君は、園庭にねころんで、空を見ていました。

保育園のお外遊びの時間は、おしまい。もも組のおともだちは、お部屋に入って、お着がえをしたり、トイレに行ったり、給食のじゅんびをしています。

ゆうた君は、さっきまで「いやだ―、もっとあそぶ!」って、泣いていたのに、ずいぶんと、しずかです。

もも組の先生が、ゆうた君のそばにいって、声をかけました。 

「ゆうた君、なにが見える?」

「ひこうき

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おじいさんのスイカ

夏がきました。

早起きのセミが、お日様よりも早く、わいわいと鳴いています。

畑では、おじいさんが、うで組をして、立っていました。

「よし、よし、よし。」

おじいさんの畑には、ナス、ピーマン、トマト、キュウリ、トウモロコシ、夏の野菜たちが、いろとりどりに、そだっています。

「よし、よし、よし。」

おじいさんは、うで組をはずすと、うねの間をあるいて、野菜たちに声をかけて回ります。

「こり

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白い夏

ずっと、だまって、生きている、カメがいた。

「おはようございます、いいお天気ですね。」

魚や、鳥たちがはなしかけると、にっこりと、しずかに、わらいかける。

たいていは、しあわせそうに。

ときおり、くもった顔をして。

カメは、そこに、いた。

カメは、ずっと長い間、地球の声をきいていた。

あるお祭りの、前の日のこと。

カメは、むっくりと、顔をあげた。

そして、『を――――――――――

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クモの子のはなし

 太陽が高くのぼり、木の下には、くっきりと、黒いかげが出ている、お昼前のことでした。

クモの子が、サササッと、音も無く、家に帰ってきました。

クモのおばあさんが、気づいて声をかけました。

「おや、おかえり。もう学校は終わったのかい?」

返事は、ありません。

おばあさんは、ハンモックからおりると、だまって、クモの子に、おやつをおいてやりました。

しばらくすると、クモの子が出てきて、おやつ

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