かしまし

三人で書いています

かしまし

三人で書いています

記事一覧

初夏の湖に寝そべりて(エッセイ)

ひんやり冷感のボックスシーツは水色。 初夏のベッドにはもはやふかふかのシルエットがなく、ベッドとは思えないくらいまっ平。天井と水平。 まるで湖のようにひんやりで…

かしまし
2日前
5

人は虚構しか共有出来ない(日記)

職場のトイレで失神した。 原因に大したことはなく、自律神経が云々ということらしいのだが、とにかく気がついたらトイレの床で大の字になっていた。 目が覚めた瞬間、凄…

かしまし
10日前
4

積ん読のご紹介(エッセイ)

まだ読んでいない本の紹介をします。 こちらの記事からのインスパイアです。(面白いのでぜひ!) 混沌とした本棚の整理のため&消化への助走のためにも…。 ここ2年くら…

かしまし
2週間前
14

うずまき銀行強盗(ソノサキ商店街シリーズ)

 ねこのて手芸店は、よっぽどのことがない限り店を閉めません。なので銀行強盗に遭遇した時、店長は「困ったね」と思いました。  ねこのて手芸店は商店街の中ほど、時…

かしまし
3週間前
7

影のスケッチ(日記)

自分のデフォルトのイメージやインスタグラムの投稿より、精神衛生の悪さの最大瞬間風速が出ている。でもそんな自分も嫌いでなくいたいのです。 某日 人はオフィスや店舗…

かしまし
4週間前
4

海外旅行キット2(エッセイ)

スーツケース編です。 機内持ち込み編はこちらです。 https://note.com/tsukiatarishobo/n/n9bd09c055f61 【洋服】👕トップス ・Tanaka DaisukeのはねTシャツ👼 かわいい…

かしまし
1か月前
36

海外旅行キット(エッセイ)

最近、トルコへ旅行をした。 これまでの海外旅行はいつも大きめのスーツケースで行っていたし、 今回もツアーだったから特に持ち歩きを心配する必要はなかった。 しかし、…

かしまし
1か月前
40

三つ編みの扉(短編小説)

幼いころ、祖母の三つ編みを覗き込むのが好きだった。 彼女の三つ編みは、彼女が旅してきた国の数に対応していた。 海辺の街の潮風の香りが、本を読み耽った喫茶店のコーヒ…

かしまし
1か月前
5

機内で見る映画の妙(感想)

飛行機で見る映画が複数本全部かぶる人って絶対いないと思う。 ラインナップが独特かつ自分の状態も特殊だから。 自分でも帰ってきてFilmarksをつけていると不思議な気持ち…

かしまし
2か月前
13

SIX来日公演に向けて知っておくと良いかもしれないこと(作品紹介)

英国発ミュージカル『SIX』来日版が、2025年1月に EX THEATER ROPPONGIで上演されます。 トニー賞8部門でノミネート、オリジナル楽曲賞とミュージカル衣装デザイン賞の2…

かしまし
2か月前
10

まつげの砂糖 (短編小説)

気がついたのは、彼が1歳の頃だったように思う。 連日の夜泣きに疲れ果てて、ぼんやりと眠る彼の顔を眺めていた時だった。 つい先ほどまで大粒の涙を流していた瞼に、白く…

かしまし
2か月前
5

ほんじつ うみのひ さかなのひ (短編童話)

あるばん マキ が 目をさますと、 ドアを ぺち ぺち ぺち と ノックする音がきこえた。 きいたことのない ノックの音だ と マキは おもった。 こういうときは…

かしまし
2か月前
8

星座をつなぐ観劇日記(エッセイ)

手を伸ばせばいつでも届く本や映画と違い、ライブパフォーマンスはその時にしか見ることができない。 そんな贅沢なエンタメの享受をさらに特別なものにするのは、自分のカ…

かしまし
3か月前
8

意識の管理職(日記)

このところ、運動習慣を取り戻そうと足掻いている。 現代日本で人並みに働く一般人が、どの段階から「運動習慣があります」と胸を張ることができるようになるのかは分から…

かしまし
3か月前
4

2月のいくつかの記録(日記)

🐙日々かなり忙しめな日々なので、今月は覚えておきたい記憶のツイートスクラップとします。 📕読書(特に印象的だったもの)1.『哀れなるものたち』アラスター・グレイ …

かしまし
3か月前
6

ふいうち(短編小説)

 これまでソファだと思っていたものが、どうやら生きているらしいということに気がついたのは、七日前のことでした。  その夜、サリはいつものように、ソファで寝転び…

かしまし
3か月前
4
初夏の湖に寝そべりて(エッセイ)

初夏の湖に寝そべりて(エッセイ)

ひんやり冷感のボックスシーツは水色。
初夏のベッドにはもはやふかふかのシルエットがなく、ベッドとは思えないくらいまっ平。天井と水平。

まるで湖のようにひんやりでシャリシャリ。
シャリ?銀シャリ?
シャリってあれ語源、仏舎利(ぶっしゃり)ですからね。
さらさらの白い粉にうずまりますよ。

”ひんやりれいかん”って、ともすればヒンヤリ霊感ぽいけど…
お化け屋敷とかで霊感スプレーとか汗拭き霊感シートと

もっとみる
人は虚構しか共有出来ない(日記)

人は虚構しか共有出来ない(日記)

職場のトイレで失神した。
原因に大したことはなく、自律神経が云々ということらしいのだが、とにかく気がついたらトイレの床で大の字になっていた。

目が覚めた瞬間、凄まじい勢いで正常性バイアスが働いた。
およそ15秒ほどで駆け巡らせた思考は次の通りである。

あれ、なんでこの体勢になってるんだっけ。
舌の端っこが痛いな。口内炎か。
えらく眠い気がする。
そうか。眠くなってここで少し寝てたんだ。
思い出

もっとみる
積ん読のご紹介(エッセイ)

積ん読のご紹介(エッセイ)

まだ読んでいない本の紹介をします。

こちらの記事からのインスパイアです。(面白いのでぜひ!)
混沌とした本棚の整理のため&消化への助走のためにも…。
ここ2年くらいの中から何冊かに絞ってご紹介します。

1.『わたしの名は赤』オルハン・パムク

赤色が好きというシンプルな理由でなんとなく手に取ったら、あらすじが面白そうすぎました。
細密画や装飾写本という好きなものが題材な上、トルコ旅行にも行く予

もっとみる
うずまき銀行強盗(ソノサキ商店街シリーズ)

うずまき銀行強盗(ソノサキ商店街シリーズ)

 ねこのて手芸店は、よっぽどのことがない限り店を閉めません。なので銀行強盗に遭遇した時、店長は「困ったね」と思いました。

 ねこのて手芸店は商店街の中ほど、時計塔がそびえる広場に面しています。看板商品はあさつゆのボタン。冷えこむ春の野原でとれた草のつゆに、いちばん乗りの陽ざしが一欠片織りこまれた、とても美しいボタンです。そのほかにも、月のひかりの絹糸や、波のように揺れ続ける布など、ねこの店長​

もっとみる
影のスケッチ(日記)

影のスケッチ(日記)

自分のデフォルトのイメージやインスタグラムの投稿より、精神衛生の悪さの最大瞬間風速が出ている。でもそんな自分も嫌いでなくいたいのです。

某日
人はオフィスや店舗の窓にプリントを貼るとき、外側から見ると裏側やテープが丸見えということに気がつけないものだろうか。部屋の中で俯瞰して見ることができても、実は建物の外側が存在することに気がつけていないかもしれない。怖い話。

某日
生きづらさを感じる方のイ

もっとみる
海外旅行キット2(エッセイ)

海外旅行キット2(エッセイ)

スーツケース編です。
機内持ち込み編はこちらです。
https://note.com/tsukiatarishobo/n/n9bd09c055f61

【洋服】👕トップス
・Tanaka DaisukeのはねTシャツ👼

かわいい洋服を旅先で下ろしたかった!思い出になるので
・プチバトーの白T

機内で着ていたものです。
・ユニクロのYシャツ
すぐ乾きそう&羽織にもなる&最悪捨ててもいいくらい

もっとみる
海外旅行キット(エッセイ)

海外旅行キット(エッセイ)

最近、トルコへ旅行をした。
これまでの海外旅行はいつも大きめのスーツケースで行っていたし、
今回もツアーだったから特に持ち歩きを心配する必要はなかった。
しかし、友人達と来年以降に予定している別の旅行ではトランジットが多く、
「これは最小限の荷物にしないと厳しいね…」という話をしていたので、
今回の旅行ではいつもより少なめの荷物で旅行するチャレンジをしてみた。
機内持ち込みサイズのスーツケースで9

もっとみる
三つ編みの扉(短編小説)

三つ編みの扉(短編小説)

幼いころ、祖母の三つ編みを覗き込むのが好きだった。
彼女の三つ編みは、彼女が旅してきた国の数に対応していた。
海辺の街の潮風の香りが、本を読み耽った喫茶店のコーヒーの香りが、砂漠のねっ風に運ばれてきた砂埃が、彼女の長い髪には編み込まれているのだった。

ある日、ふと夜中に目を覚ますと、どこからか囁き声が聞こえた。
そしてそれはどうやら、祖母の三つ編みの中から聞こえているようだった。
「誰?」
わた

もっとみる
機内で見る映画の妙(感想)

機内で見る映画の妙(感想)

飛行機で見る映画が複数本全部かぶる人って絶対いないと思う。
ラインナップが独特かつ自分の状態も特殊だから。
自分でも帰ってきてFilmarksをつけていると不思議な気持ちになる。
先週ヨーロッパ出張があったので今回の私のメニューをご賞味ください!

落下の解剖学

お洒落なのよタイトル。そして賞もたくさん取っていて気になっていた。
機内って結構、最新の話題作があるので嬉しい。
そして国際線では邦画

もっとみる
SIX来日公演に向けて知っておくと良いかもしれないこと(作品紹介)

SIX来日公演に向けて知っておくと良いかもしれないこと(作品紹介)

英国発ミュージカル『SIX』来日版が、2025年1月に EX THEATER ROPPONGIで上演されます。

トニー賞8部門でノミネート、オリジナル楽曲賞とミュージカル衣装デザイン賞の2部門で受賞を果たしたヒット作。

大好きな作品だけど、「どんなミュージカルか」を一言で説明しようとするとやや難しい。

この説明文の通りなのだけど、一文に詰まった情報量の多さよ!
英国史に馴染みが薄いとなおさら

もっとみる
まつげの砂糖 (短編小説)

まつげの砂糖 (短編小説)

気がついたのは、彼が1歳の頃だったように思う。
連日の夜泣きに疲れ果てて、ぼんやりと眠る彼の顔を眺めていた時だった。
つい先ほどまで大粒の涙を流していた瞼に、白く光る小さな粒を見つけた。
目脂かしらと思って拭った予想とは裏腹に、それは指の先でさりさりと音を立てた。
ほのかに香る甘さに、無意識のうち口に入れたわたしは、それが粉砂糖であることを悟ったのだった。

それから二本足で立てるようになり、自我

もっとみる
ほんじつ うみのひ さかなのひ (短編童話)

ほんじつ うみのひ さかなのひ (短編童話)

あるばん マキ が 目をさますと、
ドアを ぺち ぺち ぺち と ノックする音がきこえた。
きいたことのない ノックの音だ と マキは おもった。

こういうときは、 目で見て たしかめるにかぎる。

おかあさん おとうさん いぬのおもち をおこさないように、
ぬきあし さしあし しのびあし……。

ドアのまえには だれも いなかった。
そのかわり……

さかなが ぽつん うかんでいた!

「こん

もっとみる
星座をつなぐ観劇日記(エッセイ)

星座をつなぐ観劇日記(エッセイ)

手を伸ばせばいつでも届く本や映画と違い、ライブパフォーマンスはその時にしか見ることができない。
そんな贅沢なエンタメの享受をさらに特別なものにするのは、自分のカレンダーに浮かび上がる観劇作品からできた星座をなぞることだと思う。

***

あなたは読んだ漫画や聞いた音楽をテーマで結びつけて関連性を見出したことがあるだろうか。
世の中のエンタメは時としてキュレーションされることがあり、夏になれば怪談

もっとみる
意識の管理職(日記)

意識の管理職(日記)

このところ、運動習慣を取り戻そうと足掻いている。

現代日本で人並みに働く一般人が、どの段階から「運動習慣があります」と胸を張ることができるようになるのかは分からない。でも、私にとっては運動習慣、その中でも習慣の2文字は、これまでに何度も掴みかけては指の間から溶けて流れていったものだ。覚えている気がするだけの夢のような儚さを纏っている。
なんだか楽しかった気がする夢の詳細を、一つでも思い出したい。

もっとみる
2月のいくつかの記録(日記)

2月のいくつかの記録(日記)

🐙日々かなり忙しめな日々なので、今月は覚えておきたい記憶のツイートスクラップとします。

📕読書(特に印象的だったもの)1.『哀れなるものたち』アラスター・グレイ

映画がとてもとても好きだった(2024マイベストムービーがもう出てしまった感じがあります)ので、原作も、と読んだ。
映画も相当へんてこ映画でしたが、小説はそこからさらに三回転するようなひねり具合でびっくり。訳者のあとがきですら、へ

もっとみる
ふいうち(短編小説)

ふいうち(短編小説)

 これまでソファだと思っていたものが、どうやら生きているらしいということに気がついたのは、七日前のことでした。

 その夜、サリはいつものように、ソファで寝転びながら台所で夕飯を作るお父さんをぼんやりと眺めていました。すると突然、サリの頬の下でソファが大きなあくびをしたのです。冬眠から覚めた熊のように、低く、深く、厳かなあくびを一つして、そして再び沈黙しました。
サリは体を起こし、あっけにとられ

もっとみる