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初夏の湖に寝そべりて(エッセイ)

ひんやり冷感のボックスシーツは水色。
初夏のベッドにはもはやふかふかのシルエットがなく、ベッドとは思えないくらいまっ平。天井と水平。

まるで湖のようにひんやりでシャリシャリ。
シャリ?銀シャリ?
シャリってあれ語源、仏舎利(ぶっしゃり)ですからね。
さらさらの白い粉にうずまりますよ。

”ひんやりれいかん”って、ともすればヒンヤリ霊感ぽいけど…
お化け屋敷とかで霊感スプレーとか汗拭き霊感シートとかジョーク商品を売ったら少しは売れそう。
ぞくぞくっと寒気がするのが霊感なのだとしたらどちらも同じようなものか。

このシーツは気持ちが良い。
天井とベッドでサンドされた涼やかな夏の生菓子の飾りにでもなったかのような心地よさ。
なるべく肌をシーツに触れさせようと思うと、非常口のひとみたいな形になっている。
眼を閉じて、ぺしゃんこになったり、寝返りを打ったり、だ。

この湖でうだうだと泳ぎ回る私は怠惰な紫のカバである。
無論、これは幼少期に気に入っていた抱き枕への自己投影。
おしりに大きい黄色い星のパッチがついているにくいヤツ。

怠惰というと大罪みがあるけれど レイジーというと急に原宿表参道のアパレルショップ併設のアメリカンダイナー感がある。
我が身ことレイジーヒポポタマスは都会の日陰を通る風を思う。

窓からそよぐ初夏の吐息、それをかきまわす山善リビング扇風機。
ひんやり冷感ボックスシーツが寒色であることは、運命であり宿命なのだ。
申し訳ないけれど、桃色のプリンセスルームに眠るりぼん大好きむすめにシャリっと冷感を授けることは、優しい良品の騎士にも許され得ぬのだ。

シルバーのスプーンをアイスにつけたときのようなこの熱の移動は寒色のカバたちにのみ味わうことができることである。
眼を閉じると薄い電子の板から漂う素人パーソナリティの音声放送が遠のいていく。

次に世界に触れるときには常世を切り裂く警告音との白熱スヌーズ合戦が待っているから、もう行かなくては。


(カラー展開が、変わっていました…)

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