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破天荒な父。リーダーシップとチームワーク

僕と父親の、破天荒で少し笑える話です。

■■■ リーダーシップとチームワーク ■■■

ある日、僕の友達が新しいベッドを購入したと言ってきた。シモンズ製の最高級ベッドに買い換えるという。
古くなったベッドを捨てるために僕は友達の家で手伝いをすることになった。

手伝いの当日の朝、僕は久しぶりに父と食卓で会った。

「今日は何するんだ?」
「友達がベッドを捨てるらしいから、その手伝いに行くよ」
「ほう、どんなベッドだ?」
「まだ1年しか使っていないけど、新しいベッドを買ったから捨てるらしいよ」
「もったいないなぁ。父ちゃんは、そういう勿体ないことをするのは、あんまり好きじゃない」
「わかってるけど、でも友達の話だからしょうがないよね。あと1時間後に集合なんだ」
「そうか、頑張れよ(ニヤリ)」

父の最後の笑みは気がかりだった。僕がいない間に何かやらかすような眼をしていた。

「どうせ僕が外にでたら、また家で何か楽しそうなことするんでしょ?」
「まあな(ニヤリ)」

嬉しそうな父を尻目に、僕は身支度を進めて家を出ていった。

友達の家に着くと、さっそくベッドを運び出した。

ベッドは大きくて、とても一人では運べない大きさだった。僕と友人は、「せーの」と息を合わせながら、部屋の狭いドアや玄関を抜けていった。
やっとの思いで何とかエレベーターにたどり着くことができた。

2人は体中が汗だくになりながら、ベッドをエレベーターに押し込み、1階のエントランス前まで運ぶことができた。

「よし、休憩しよう」

友達の提案で僕らは部屋に戻り、少しだけコーヒー休憩をした。

「いやぁ、やっぱチームワークって大事だね」
「お前がいてくれて助かったよ。おかげでベッドが処分できた」
「あとは粗大ごみ置き場まで運ぶだけだね」
「よーし、あと一息がんばろう!」

意気揚々と僕らはエントランス前に戻った。
しかし、さっきまであったはずのベッドが消えていたのだ。

「管理人さんが不正廃棄と勘違いして持って行ったのかな?」
「いや、うちのマンションはそんなに管理が行き届いてるわけじゃない」
「じゃあどこに・・・」

僕らはあたりを見回した。

「あーーーー!」

友達が大きな声を上げた。
その先を見ると、リヤカーを引いた5人のホームレスがベッドを運んでいるではないか!

なんという仕事の速さだろう。
僕らが休憩していたのはたった5分程度だったはずだ。その間に彼らはベッドを見つけ、5人が集まり、一直線に西へ西へとすさまじいスピードで運んでいく。

よく見ると先頭に立っているホームレスがすごいスピードで他の4人に指示を出している。強烈なリーダーシップに、ついつい僕は見とれてしまった。

「す、すごい・・・」
「ああ、俺のベッドがすごいスピードで西へ西へと進んでいくな・・・」
「うん、あの人たちは普通にサラリーマンとして働いたとしても、一流の仕事をすると思うよ」
「そうだな、特にあの先頭のホームレス、すごすぎるな」

遠くから見ても、的確な指示出し、仲間への鼓舞、安全確保のレベルの高さが伝わってくる。
何より、彼を見ているだけでパワーが伝わってくるし、不思議と心が温まった。

「あんなに重いベッドを小走りのスピードで、スイスイと人混みをぬって行く。本当に見事だね」
「ははは、もういいや。粗大ごみ置き場まで運ぶ手間も省けたし」

友達は清々しい笑顔を見せていた。僕も心が和んで笑顔になっていた。

手伝いが終わったので友達のおごりで夕食を食べ、僕は家に帰った。

家に着くと、父が待っていた。

「今日は何してたの?ずっと家にいたんだよね?」
「いやあ、今日は父ちゃんの情報網にホットなタレコミが入ってきたから忙しかったんだ」
「えっ?タレコミって何?」
「使って間もないベッドが隣町に捨てられるという情報があったんで、リユースしに行ったんだよ。いやあエコだ。うん、まさしくエコだ」
(夕日を見るような遠い目をしながら)

「さっきの犯人あんたかい!」

父はつぶやくようにこう続けた。
「それにしてもあの4人も頑張って運んでくれたなぁ・・・」

「先頭のホームレス、あんたかい!」

父は、僕を尾行していたらしい。そしてホームレスと一緒に、僕らがベッドから離れるのを待っていたようだ。

父からは強烈なリーダーシップとチームワークの偉大さを学んだ。

続く

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