鈴懸ねいろ

綴リスト*エッセイ.小説.空写真。日本左利き協会ホームページにてショートストーリー連載…

鈴懸ねいろ

綴リスト*エッセイ.小説.空写真。日本左利き協会ホームページにてショートストーリー連載中*AJINOMOTO PARK×noteコンテスト『おいしいはたのしい』審査員特別賞。秋の読書感想文コンテスト佳作。ショートショートnote杯佳作。

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トートバッグいっぱいの呪いを。1. 【ホラー小説】

【あらすじ】 自分が既に死んでいることに気づかないまま学校へ通っていた少年カイ。日々の小さな棘にじわじわと損なわれてゆくカイを守るかのように、誰かが「プチ呪い」…

鈴懸ねいろ
3週間前
67

藤井風さんの新曲Feelingood
『嵐は』と『私は』
『と化す』と『溶かす』等
歌詞にも遊び心が炸裂している。
米のレコード会社との正式な契約発表後
最初の楽曲は全編日本語詞。
英語が堪能な藤井風さんだが
だからこそのこだわりも感じられる。
ポップで軽やか。誰も傷つけない歌。

鈴懸ねいろ
13時間前
19

貝殻雲の寄せる海辺で。

39

秘密のおとなプール。

そのプールは 大人による大人だけのプールだ。 大人しか入場できない。 申し訳ないけれど、連れの子供もNGだ。 大人しく家でお留守番をしていてほしい。 プールにもっとも…

42

トマトの先にあるもの。

真夏の太陽がギラギラ照りつけるなか、 父は家庭菜園で野菜の収穫をしていた。 茄子、胡瓜、枝豆。 色も種類も多彩な野菜たちだ。 「なんで今? 何もこんなに暑い時間に …

58

『うらはぐさ風土記』(中島京子)読了。

日常。それは決して永遠じゃない。
人も街も物事もすべては変わっていかざるを得ない。
でも悲観することもない。
光の当て方を模索することで
新しい希望が見えてくるのだから。

ゆるやかな暖かい繋がりが
疲れた心にじんわり効いた。

30

本日の掃除当番。

鈴懸ねいろ
10日前
36

なぜに?

ホラーは苦手だ。 怖い話はあとを引く。 夜の寝つきが悪くなるし、 入浴中も背後が気になってしかたがない。 だから映画も本も ホラーはまず目を通さなかった。 それなの…

鈴懸ねいろ
13日前
42

逢いに行き、愛に生く。

鈴懸ねいろ
2週間前
45

ぐるりとまわって見た世界。

鉄棒の上に腰掛けたまま、 後ろにぐるっと回るのが怖くてたまらなかった。 いわゆる『後ろまわり』というものだ。 小学生の頃の放課後の遊びは 鉄棒がブームとなっていた…

鈴懸ねいろ
2週間前
37

広くてせまい。

同じ時間に見た空を 送り合うことができるなんて、 奇跡みたいだと思った。 あなたの知らない青い海辺で、 わたしの知らない遠い街で、 偶然同時に空を見上げていたことに…

鈴懸ねいろ
3週間前
56

はねる。わらう。はしゃぐ。

鈴懸ねいろ
3週間前
51

ページをめくると海の香りがした。

ページをめくると海の香りがした。 季節は夏。 波の音が聞こえた気がして、 振り向くとそこはビルの群れ。 海はここにはない。 海は本のなかにある。 海を見に行きたい。…

鈴懸ねいろ
3週間前
53

半夏生。

半夏生という言葉が好きだ。 夏の半ばに生まれる、と書く。 字面がとても美しい。 半夏生は歳時記の中のひとつで、 今年は七月一日とのこと。 半夏生という名の植物もある…

鈴懸ねいろ
3週間前
44

トートバッグいっぱいの呪いを。13.

♢ 《半井さんの独白》  久しぶりに塚田くんの家の前にやってきた。  この家が『空き家』となってからしばらく経つ。  母子は死に、父親は行方不明。  ということに…

鈴懸ねいろ
3週間前
39

トートバッグいっぱいの呪いを。12.

♢  思わず口笛を吹きたくなるようないい朝だ。窓から見える空はきっぱりと晴れていて、鳥たちの声が街中に響いている。それだけで何かいいことが起こりそうな気がしてく…

鈴懸ねいろ
3週間前
38
トートバッグいっぱいの呪いを。1. 【ホラー小説】

トートバッグいっぱいの呪いを。1. 【ホラー小説】

【あらすじ】
自分が既に死んでいることに気づかないまま学校へ通っていた少年カイ。日々の小さな棘にじわじわと損なわれてゆくカイを守るかのように、誰かが「プチ呪い」の書かれた折り鶴を級友達の元にばら撒いていた。笑いを含んだプチ呪いは現実化し、カイの仇を討つ復讐が始まる。次第にエスカレートする呪い。一体誰の仕業なのか。
死者が見える半井さんとの交流をきっかけに、次々と身近な人の真実や別の顔が明らかになっ

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藤井風さんの新曲Feelingood
『嵐は』と『私は』
『と化す』と『溶かす』等
歌詞にも遊び心が炸裂している。
米のレコード会社との正式な契約発表後
最初の楽曲は全編日本語詞。
英語が堪能な藤井風さんだが
だからこそのこだわりも感じられる。
ポップで軽やか。誰も傷つけない歌。

秘密のおとなプール。

秘密のおとなプール。

そのプールは
大人による大人だけのプールだ。
大人しか入場できない。
申し訳ないけれど、連れの子供もNGだ。
大人しく家でお留守番をしていてほしい。
プールにもっとも歓迎されるであろう
ティーンエイジャーたちも、
ここには入れない。
どうか数多ある他のプールでお楽しみください。

大人しか入れないプールだけれど、
ここではスクールのような
格式ばった泳ぎはしなくていい。
コースロープに沿って順番に

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トマトの先にあるもの。

トマトの先にあるもの。

真夏の太陽がギラギラ照りつけるなか、
父は家庭菜園で野菜の収穫をしていた。
茄子、胡瓜、枝豆。
色も種類も多彩な野菜たちだ。

「なんで今?
何もこんなに暑い時間に
やらなくてもいいでしょう」

父の答えは、ひまだったから。
まめで綺麗好き。
趣味は整備整頓。
と、みずから言い放つ父は、
こちらの心配もどこ吹く風である。
茄子のヘタの少し上の茎を
鋏でパチンと切っては、
手もとの青いザルに入れてゆ

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『うらはぐさ風土記』(中島京子)読了。

日常。それは決して永遠じゃない。
人も街も物事もすべては変わっていかざるを得ない。
でも悲観することもない。
光の当て方を模索することで
新しい希望が見えてくるのだから。

ゆるやかな暖かい繋がりが
疲れた心にじんわり効いた。

なぜに?

なぜに?

ホラーは苦手だ。
怖い話はあとを引く。
夜の寝つきが悪くなるし、
入浴中も背後が気になってしかたがない。
だから映画も本も
ホラーはまず目を通さなかった。

それなのにホラー小説を書いた。
ホラーと呼んでいいのかどうかは
正直わからない。
これがホラー?と首を傾げたくもなる。
だが人の心の闇を書いたのだから、
そういう意味ではホラーだと思う。



半年ほど前、ある編集者の方に、
短編小説を読ん

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ぐるりとまわって見た世界。

ぐるりとまわって見た世界。

鉄棒の上に腰掛けたまま、
後ろにぐるっと回るのが怖くてたまらなかった。

いわゆる『後ろまわり』というものだ。
小学生の頃の放課後の遊びは
鉄棒がブームとなっていた。
のどかな田舎の、のどかな時代である。

足掛けまわりも
連続前まわりもできるのだけれど、
見えない後ろ側に体を倒してまわるという、
未知の動きが私には恐ろしかった。
なかなか勇気が出せなくて、
私は鉄棒に座ったり降りたりを
繰り返し

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広くてせまい。

広くてせまい。

同じ時間に見た空を
送り合うことができるなんて、
奇跡みたいだと思った。

あなたの知らない青い海辺で、
わたしの知らない遠い街で、
偶然同時に空を見上げていたことに
ハピネスを感じる。
今見ている空はひとつで、
その端の方を
あなたとわたしは一緒に掴んでいたのだ。

見せたい空を
瞬間的に時空を超えて送れることを、
子ども時代の自分が知ったら
ものすごく驚くだろう。
そして、
うらやんだりジェラ

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ページをめくると海の香りがした。

ページをめくると海の香りがした。

ページをめくると海の香りがした。

季節は夏。
波の音が聞こえた気がして、
振り向くとそこはビルの群れ。
海はここにはない。
海は本のなかにある。

海を見に行きたい。
波打ち際で海水に足を浸したい。
波が引く時に足裏の砂が削れる感覚を、
ひゃあひゃあ言いながら味わいたい。

そんな衝動に駆られたのは、
このZINEのせいだ。

私がnoteで文章を書き始めた初期の頃から
ずっとデザインを見続けて

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半夏生。

半夏生。

半夏生という言葉が好きだ。
夏の半ばに生まれる、と書く。
字面がとても美しい。
半夏生は歳時記の中のひとつで、
今年は七月一日とのこと。
半夏生という名の植物もある。

半夏生は
夏至から数えて11日目にあたる日で、
太陽が天球上の黄経100度通過する日。
とのことだが、これは正直ぴんとこない。

農作業の節目として、
田植えは夏至から半夏生に入るまでに
やるのが良いという目安になっている
(大雨

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トートバッグいっぱいの呪いを。13.

トートバッグいっぱいの呪いを。13.



《半井さんの独白》

 久しぶりに塚田くんの家の前にやってきた。
 この家が『空き家』となってからしばらく経つ。
 母子は死に、父親は行方不明。
 ということになっている。
 あたしはパパの居場所を知っているけれど、世間の人たちは根拠のない噂話でしかこの家族の事情を知らない。
 あたしがこの家の鍵をぜんぶ川に捨てたから、誰も入ることはできない。花蓮さんもあたしもだ。
 日に日に大きくなってゆ

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トートバッグいっぱいの呪いを。12.

トートバッグいっぱいの呪いを。12.



 思わず口笛を吹きたくなるようないい朝だ。窓から見える空はきっぱりと晴れていて、鳥たちの声が街中に響いている。それだけで何かいいことが起こりそうな気がしてくる。
 そしてその予感は当たっていた。

 本当に久しぶりに、パパが僕の部屋に来てくれたのだ。
 僕とママが死んでしまってから、パパは僕の部屋にまったく足を踏み入れなかった。
 部屋に満ちるたくさんの思い出が洪水のように押し寄せてきた時、

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