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⭐︎創作集。

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ショートストーリー、ショートショート、短編小説などの創作作品を集めました。
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記事一覧

ココアと神様の王国

神様はベッドの中。 遠い洞穴から吹いてくる風みたいな、 深い寝息を立てている。 今、夢のど…

60

大掃除の日。【詩あるいは短編小説】

窓拭きをした カーテンを洗った 冷蔵庫を磨いた 食器棚を拭いた 下駄箱を整理した 洗面台と鏡…

鈴懸ねいろ
4か月前
100

旅。【短編小説】

 旅を一頭飼っている。  部屋から出られない私のために、母親が用意したものだった。  旅は…

鈴懸ねいろ
4か月前
90

永遠チョコレート #シロクマ文芸部

チョコレート、食べたでしょう。 さっきまで唇を重ねていた真白が 笑いながら囁いた。 わたし…

鈴懸ねいろ
2か月前
83

雪の華 #シロクマ文芸部

雪化粧をする初めての冬になった。 「華もいよいよ 雪化粧をする歳になったんだねえ」 鏡に…

鈴懸ねいろ
3か月前
117

訃報。#小牧幸助文学賞

母シンダ桜ノ木ニ散骨ス春ニハ帰レ父ヨリ。 *** 小牧幸助さんの企画に 参加させていただ…

鈴懸ねいろ
6か月前
72

夜中の黒糖ぷりん。

ただいま。 玄関の外で大きなため息をついてから、 なんとか取り繕ってドアを開ける。 おかえり。 リビングへ入ると、 夕食の支度をする母の声と テレビの音がした。 私の双子の弟が ソファに寝転がって漫画を読んでいる。 温かくて明るいシーリングライトが、 泣いた目に眩しかった。 何食わぬ顔で手を洗い、 ひとりテーブルにつく。 頬杖をつきながら、 頭の中を素通りするテレビのニュースをただ、 ぼんやりと眺めていた。 いつもなら 母の夕食作りの手伝いをするのだが、 その日はひどく疲

カンテラ掲げていちご狩り【短編小説】

足元がとても暗いので気をつけてくださいね。 そう言われて咄嗟にわたしのつま先は身構える。 …

99

紅葉鳥。#シロクマ文芸部

紅葉鳥を捕まえる季節になった。 山に踏み込む狩人たちの、 落ち葉を踏みしめる足音がする。 …

鈴懸ねいろ
6か月前
79

最後の願い。【ショートショート】

この心臓はもうすぐ動きを止めるだろう。 吸って吐いて。 吸って吐いて。 呼吸をするたびに肺…

91

朝からドーナツ屋の列に並んではいけません。【ショートショート】

朝からドーナツ屋の屋台の列に並んでいた。 明らかに出勤前とわかるスーツ姿の人たちが、 何人…

80

湯上がり奇譚 【ショートショート】

他人の家の風呂に入るのはどうにも落ち着かない。 見知らぬ脱衣所の空間で、 服を脱いで裸にな…

92

お盆と蜻蛉。【短編小説】

「とんぼ。貴大の背中にとんぼがとまってる」 仕事から帰宅した弟の背中を指さして 母が言った…

鈴懸ねいろ
8か月前
84

星さらい。#シロクマ文芸部

銀河売りが屋台を引いて僕らの街にやってくるのは、夏の夜と決まっていた。 夕立が引いた後のぬかるみが固まって 少しでこぼこする道を、 屋台はぎしぎしと進んでくる。 屋台の庇に吊るされた銀河入りの袋が 揺れるたびに、 中の星々がこすれ合って ほろろほろろと音を立てる。 母さんは、 ああもうそんな季節なんだねえ、 と呟きながら、 団扇で風を作っては耳を澄ましていた。 「草市。銀河をひと袋買ってきておくれよ」 母さんは浴衣の帯に捩じ込んであった財布を取り出すと、僕の手に小銭を握らせた