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ショートショート集

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自作のショートショートのマガジンです。
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記事一覧

ぞうのゆめ。

ぞうのゆめ。

大きな象の夢をみた。
ゆっくりゆっくり
大地に刻印を押すように
四本の脚を繰り出して歩いてゆく。
よくみると体のあちらこちらから
ほろりほろり花をほころばせている。
風がその花たちを遠くへ運んでゆく。
花びらが舞う。
硬い皮膚に刻まれた皺の隙間に、
風に運ばれた植物の種が潜り込んで、
温められて、
象の汗を吸い、
芽を出していた。
象は自分の体から花が咲いていることに
気づいていないらしかった。

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花、送れ。【2000字のホラー】

花、送れ。【2000字のホラー】

いい?合言葉を決めておくわね。
何かあった時のために。

高齢者施設での虐待のニュースを観ていた母が、
突然そんなことを言い出した。

「本当のことを口に出してはいけない状況だけれど、助けてほしい時とか。
ほら、映画とかであるじゃない、
犯人に脅されて家族に無理矢理
電話させられる場面。
『ハァイ、こちらは元気でやってるわよ。
ちょっとお金が必要だから持ってきてくれない?』とか気丈に言ったりして。

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文学トリマー?【毎週ショートショートnote】

文学トリマー?【毎週ショートショートnote】

「田中の奴、文学トリマーを使いやがったな」
道の向こう側を悠々と歩く田中に、
清水は舌打ちした。
田中が胸に抱えていたのは、
先週書き終えたばかりの原稿ちゃんだ。
田中の原稿ちゃんは
流行りのサマーカットを施されて、
すこぶるご機嫌だった。
原稿ちゃんの短めのセンテンスの隙間を、
風が通り抜けてゆく。
青空のように爽やかな言葉が映える。
田中の筆致を信頼し切った原稿ちゃんは、
腕の中でウトウトし始

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星さらい。#シロクマ文芸部

星さらい。#シロクマ文芸部

銀河売りが屋台を引いて僕らの街にやってくるのは、夏の夜と決まっていた。
夕立が引いた後のぬかるみが固まって
少しでこぼこする道を、
屋台はぎしぎしと進んでくる。
屋台の庇に吊るされた銀河入りの袋が
揺れるたびに、
中の星々がこすれ合って
ほろろほろろと音を立てる。
母さんは、
ああもうそんな季節なんだねえ、
と呟きながら、
団扇で風を作っては耳を澄ましていた。
「草市。銀河をひと袋買ってきておくれ

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海砂糖をおひとつどうぞ#シロクマ文芸部

海砂糖をおひとつどうぞ#シロクマ文芸部

「海砂糖をどうぞ」
年に一度必ず訪れる海辺に、
小さなカフェがオープンしていた。
珈琲とともに店員が差し出したのは、
青く透明な砂糖の盛り合わせだった。
「お好きなものをひとつ選んでくださいね」
海砂糖は小さな石のような形をしていて、
淡い水色からコバルトブルーまで
たくさんの青色があった。
僕は紫色に近い青の海砂糖を選び、
手にとって明るい窓の方へ翳してみた。
深海から見上げた空みたいに、
青い

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ヒトハトどもの夢の跡。【ショートショート】

ヒトハトどもの夢の跡。【ショートショート】

金のドレスやスパンコールのタキシード。
伝書鳩パーティーに参加する人達の服装が眩い。
三百人はいるだろうか。
だが人々のざわめきは無い。
なぜなら皆、
唇を絹糸で縫いつけているからだ。
会話を楽しむには
肩に止まる伝書鳩に手紙を託す。
メモ紙にさっと書き込み、
それを鳩の脚に結わえて相手に飛ばすのだ。
皆ひっきりなしに鳩を飛ばすものだから、
部屋の中は羽音で喧しい。
手元のワイングラスに羽根が浮か

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彼女は胸に鳩を飼う。【ショートショート】

彼女は胸に鳩を飼う。【ショートショート】

彼女はブラウスの中に二羽の鳩を飼っていた。
ベージュ色の柔らかいブラウス越しの
ふたつの膨らみ。
上から二番目のボタンまで外している胸元が
少しはだけて、
鳩の白い羽根の先が窺いていた。
彼女の体温に抱かれ、
鳩は体を丸めて眠っているようだ。
時折喉の奥で
ぽるるぅ、とくぐもった声で鳴いている。

彼女が長い脚を組みかえながら
そうよねえ、と相槌を打つ時。
つるつるしたカフェテーブルの上の
アイス

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クリスマス⭐︎カラス【ショートショート】

クリスマス⭐︎カラス【ショートショート】

カラスは13番目の月の使者なのでした。
12月から13月へと受け継がれる儀式は真夜中に行われたので、漆黒のカラスは誰にも見えなかったのです。そんなわけで神様は使者はいないものと思い、世界から13月を消してしまいました。

目抜き通りの大きなクリスマスツリーを眺めるカラスの瞳に、イルミネーションの光がぺかぺか映ります。その時カラスは、この光があれば真夜中でも自分の姿が見えることに気づきました。
カラ

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ペンギン図鑑 【ショートショート】

ペンギン図鑑 【ショートショート】

私はまったくのうわの空だった。
目の前にいる上司の言葉は、
右から左へ通り抜けていく風と同じだった。
私はただ、
上司のシャツに散らばるペンギンを数えていた。
上を向いたり下を向いたり、
斜めに傾いたりするペンギンの絵柄を
目で捕まえては、
私の架空の籠の中に
ひょいひょい放り込んでいく。
十六羽目、捕獲。
ああもう少し腕を上げてくれれば、
次の一羽を捕まえられるのに。

「ねえきみ、僕の話、聞い

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最後の願い。【ショートショート】

最後の願い。【ショートショート】

この心臓はもうすぐ動きを止めるだろう。
吸って吐いて。
吸って吐いて。
呼吸をするたびに肺の吹子は悲鳴を上げて、
心臓を鞭打つ。
もっと。もっと。

これ以上何を頑張ればいいの。
体に繋がれた管の中を
命が行ったり来たり綱渡りする。

薄く目を開けると、
目の前に神様の両手が見えた。
わたしを迎えに来たらしい。
神様は光に包まれた手を差し伸べて
こう言った。

「あなたの最後の願いは、なあに」

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耳物語 2.【ショートショート】

耳物語 2.【ショートショート】

生まれたての朝の光が
ベッドの上に差し込む頃、
僕は彼女の耳の形を指でそっとなぞっていた。
立ち上がる外側のふちのカーブは、
夜明けの静かな湾。
耳たぶにあるぷつりとしたピアスホールは、
僕をこの場所にとどめる錨だった。



美しい彫刻のような彼女の耳に見入っていると、
唐突に耳の穴の中から
するすると小さな梯子が伸びてきた。
1センチくらい突き出たところで止まると、
小人が梯子を昇ってきたの

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耳物語 1. 【ショートショート】

耳物語 1. 【ショートショート】

生まれたての朝の光が
ベッドの上に差し込む頃、
僕は彼女の耳の形を指でそっとなぞっていた。
立ち上がる外側のふちのカーブは、
夜明けの静かな湾。
耳たぶにあるぷつりとしたピアスホールは、
僕をこの場所にとどめる錨だった。



神の彫刻みたいな耳の
透明なうぶ毛の連なりを無心で撫でていると、
彼女の暗い耳の穴の中で
何かがざわざわと波打っているのが見えた。
何だろう。
もっとよく見てみてみようと

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my little demon.【ショートショート】

my little demon.【ショートショート】

内緒の話だけれど、僕は小鬼を飼っている。
雨の午後、
欅の木の下で泣いている小鬼を見つけたのだ。
膝を抱えた鬼の一本ツノはびしょ濡れで
震えていた。
まだ子供らしい。
仕方なく僕はタオルで鬼をくるんで
家に連れ帰った。

鬼を飼うのは初めてだったので、
何を食べさせるか悩んだ。
少しずつ試してわかったのは、
好物は胡桃。
胡桃をあげると、
茹でたてのたけのこみたいなツノを
ふるふる振って喜んだ。

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初めての鬼になった日。【ショートショート】

初めての鬼になった日。【ショートショート】

「ママが病院に運ばれたよ。
おじさんが病院まで連れて行ってあげるから
一緒に行こう」

「ママが?ケガしたの?」

「そうだよ。キミに会いたがってる」

「ママは朝ご飯食べる時は元気だったのに」

「そういうことって急なんだよ」

「おじさんは誰」

「ママの友だちだよ」

「わたし、おじさんのこと知らない」

「そうだろうね。
キミが幼稚園に行っている間だけ、
ママとおじさんはお食事をしたり

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