文学トリマー?【毎週ショートショートnote】
「田中の奴、文学トリマーを使いやがったな」
道の向こう側を悠々と歩く田中に、
清水は舌打ちした。
田中が胸に抱えていたのは、
先週書き終えたばかりの原稿ちゃんだ。
田中の原稿ちゃんは
流行りのサマーカットを施されて、
すこぶるご機嫌だった。
原稿ちゃんの短めのセンテンスの隙間を、
風が通り抜けてゆく。
青空のように爽やかな言葉が映える。
田中の筆致を信頼し切った原稿ちゃんは、
腕の中でウトウトし始めた。
「いいよなあ、作者にあんなに懐くなんて」
「俺も文学トリマーに梳いてもらおうかな」
「推敲代行《文学トリマー》かぁ」
文学トリマーの手にかかれば、
文章を削ったり巻いたり
イメチェンはお手のものだ。
数日後、商店街で清水を見かけた。
清水が手にしたリードの先に原稿くんがいた。
華奢な体の3倍に膨らんだボンバーヘッドの
原稿くんは、
惣菜屋のショーケースを引っ掻いて、
店の親父に嫌な顔をされていた。
清水が叱ると、原稿くんが逃げ出した。
狂ったように筆を走らせる原稿くんと清水が、
僕の横を駆け抜けてゆく。
清水の雄叫びが商店街に響く。
「やっぱり自分でやるとするか...」
たっぷり寝かせてやれば、きっといい文になる。
僕は静かな足取りで、
原稿お姉さんが待つ部屋へ帰ることにした。
******
久しぶりに田原にかさんの企画に
参加させていただきました。
ありがとうございます。
久しぶりなのに文字数オーバーです。
ごめんなさい。
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。