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いわゆる読書感想文(一般書)

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#読書感想

「過去と現在を結ぶ手紙は彼女を救えるか?~『大正浪漫』~」

「過去と現在を結ぶ手紙は彼女を救えるか?~『大正浪漫』~」

『大正浪漫』 NATSUMI  著 ( 双葉社)       2021.11読了

ご存じ、小説の世界を音楽にする人気アーティストユニット・YOASOBIの曲とともに発表された原作小説。
この世界観が映像化もされていて、動画サイトYouTubeでも公開されています。

私は原作の方を先に読んで動画を観たのですが、とても美しい映像で表紙絵の主人公ふたりがそのまま画面に出てきて物語の中に引き込まれ

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「物語の最後が恐怖で縮み上がりそうになる~『出版禁止』~」

「物語の最後が恐怖で縮み上がりそうになる~『出版禁止』~」

『出版禁止』長江俊和 著 (新潮社) 2015.1読了

本書はミステリーホラーです。
あまり好きなジャンルではありませんが、意を決して読んでみました。

あるルポライターが、以前おこった心中事件で生き残った女性にインタビューし、その真相をふたたび取材するという企画で、雑誌に記事として載せることになった。
これまでなかなかイン

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「物語で知る幸福への道~『Good Luck グッド・ラック』~」

「物語で知る幸福への道~『Good Luck グッド・ラック』~」

『Good Luck グッド・ラック』
アレックス・ロビラ&フェルナンド・トリアス・デ・ベス 作 
田内 志文 訳  (ポプラ社)       2006.7読了

54年ぶりに公園のベンチに隣り合わせたマックスとジム。
久しぶりの再会に喜ぶ二人は、お互いのこれまでの人生を語って聞かせます。

貧乏な家柄のマックスは次第に成功をおさめ、金持ちのジムはだんだんと落ちぶれていきました。
マックスはなぜ

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「誰の身にもいずれ来る問題に善と悪をからませる~『ロスト・ケア』~」

「誰の身にもいずれ来る問題に善と悪をからませる~『ロスト・ケア』~」

『ロスト・ケア』 葉真中顕 著 (光文社)  2013.5読了

前記事ががん予防に貢献する物語となって話題になりましたが、今回取り上げる作品は現代の社会問題である、介護問題に焦点を当てています。
介護する人と介護される人、介護を助けてくれる人、その中で生じた問題が転じて犯罪になったときそれを取り締まる人、裁く人、介護を金儲けにする人。

善と悪が入り乱れての複雑な社会構図が人間の尊厳とは何か

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「タイトルに騙されないで純粋に読んだら心をふるわせた~『君の膵臓をたべたい』~」

「タイトルに騙されないで純粋に読んだら心をふるわせた~『君の膵臓をたべたい』~」

『君の膵臓をたべたい』住野よる 著 (双葉社)2015.7読了

今ではすっかり泣ける恋愛小説のド定番として有名になった本作。
最初の印象は、タイトルがちょっとキワモノ過ぎて一旦手が出ませんでした。
しかしタイトルのインパクトとは裏腹に表紙絵はとてもやわらかなので、これはいったい…?と思わせるところがミソ。

周囲(当時の職場)が「まずあなたが読んでみて!おもしろかったら次に読むわ」と、なかば押し

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「摩訶不思議!謎と魔法に満ちた世界への冒険~『カラヴァル』~」

「摩訶不思議!謎と魔法に満ちた世界への冒険~『カラヴァル』~」

『カラヴァル』 ステファニー・ガーバー 著  西本かおる 訳  
                (キノブックス) 2018.4読了

2018年の本屋大賞・翻訳小説部門で第1位をとった本ということで読んでみた。

海外の小説は、文化や思考などに通じる感性が日本人のそれとは違うので、毎回読む時はやや身構えてしまう。
この物語はファンタジーというか、作者本人の完全なる想像の産物でもあるので、理解

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「中2的青さ・痛みが懐かしい~『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』~」

「中2的青さ・痛みが懐かしい~『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』~」

『別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや』 黒瀬 陽 著 (早川書房) 2018.9読了

舞台は1996年の広島。アムロやエヴァが青春を席巻していた多感な中2のころ。
クラスのどのグループに入ったらいいか悩んでいた僕。

友達で優等生だけど地味な祐介は、太っていても自分を小室哲哉ばりにTKと名乗る変な奴や、タイ人のクルン、いつも指を鼻に突っ込んで鼻くそをいじっているジョー(サッカーの城彰

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「映像化はないのかな~『幽麗塔』~」

「映像化はないのかな~『幽麗塔』~」

『幽霊塔』 江戸川乱歩 著 宮崎駿 カラー口絵 (岩波書店) 
                      (2015.7読了)

宮崎駿監督が表紙を手掛けていて、つい手に取ってみました。
これが私の、“初”江戸川乱歩となったわけですが、別に古典ミステリーが嫌いなわけではありません。
学生時分には、アガサ・クリスティの「名探偵ポアロ」シリーズも何作か読んでいますし、シャーロック・ホームズも岩波少

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「主人公に入り込めないけどミステリーとして純粋に楽しむ~『危険なビーナス』~」

「主人公に入り込めないけどミステリーとして純粋に楽しむ~『危険なビーナス』~」

『危険なビーナス』 東野 圭吾 著 (講談社)

主人公・伯朗がまだ子供のころ、画家である父が死んだ後、母が再婚した相手は資産家だった。
その家はどこか落ち着かない。
叔父・叔母・いとことも全くなじめそうにない。
そしてその後生まれた弟は成長するにつれて天才的な能力を持つようになる。

また、母は伯朗が大学生の時、不審な死に方で亡くなってしまった。
様々なこれらの要因が重なり資産家である家にも

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「人々の叡智を集結して赤字解消だ!~『ローカル線で行こう!』~」

「人々の叡智を集結して赤字解消だ!~『ローカル線で行こう!』~」

『ローカル線で行こう!』 真保裕一 著 (講談社)

すう~っと胸のすくようなお話でした。
全国どこにでもありそうな、赤字路線をかかえる自治体。
この物語を読めばどこかしら参考にできそうな部分もあり、まだまだがんばれることがあるんじゃないか?と勇気をくれる1冊です。

まあ物語ですから、こんなに上手くいくはずない!と言われればそれまでなんだけど…。
それでもこの本にあるように、地域やその鉄道を

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「数学が苦手な人の背中をそっと押してくれる~『博士の愛した数式』~」

「数学が苦手な人の背中をそっと押してくれる~『博士の愛した数式』~」

『博士の愛した数式』 小川洋子 作  (新潮社)

この読書感想を別ブログに書いたのが2006年ごろ。
当時はヤングアダルト(10代向けの本)やファンタジー本を中心に読んでいました。でも話題の本はやはり抑えておきたいと、この本を手に取ったわけです。


今回珍しく大人の本を読みました。映画化もされるし、以前から気になっていた本ではあったのです。
数学をどのように小説に組み入れるんだろうと。

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「昭和のオシャレ最前線を語りつくす~『オリーブの罠』~」

「昭和のオシャレ最前線を語りつくす~『オリーブの罠』~」

『オリーブの罠』 酒井順子 著 (講談社現代新書)

かつて…’80年代に少女だった女子たちがファッションやライフスタイルのお手本とした、いわゆる女の子のためのバイブルと言われた雑誌『オリーブ』の中で、ちょっとしたコラムを書いていた酒井順子さんの本です。

少女からは思いっきり卒業したはずの年齢だった私は、この『オリーブ』という少女向け雑誌の前に、すでに『アンアン』『ノンノ』『クロワッサン』な

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「美術に疎くても楽しめるエンタメ~『楽園のカンヴァス』~」

『楽園のカンヴァス』 原田マハ 著 (新潮社)

私は美術館が好きである。
あの静かな空間にいるだけで、心が落ち着く。
美術館の建物を取り巻く環境も、私にとっては大事だ。
公園や林の中にあれば最高!
外の風景が見える館内のカフェでお茶でも飲めれば尚良し。

若い時から好みの展示会が来るとさっそく観に行き、一点一点を解説文とともにじっくり眺めるので二時間ほどはかかってしまい、家族で観に行こうものな

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「駅と人は線路でつながり奇跡を生むのね~『阪急電車』~」

「駅と人は線路でつながり奇跡を生むのね~『阪急電車』~」

『阪急電車』 有川浩 著  (幻冬舎文庫)

あ~…この作者はつくづくロマンティックな話が好きなんだなぁと、そしてこの小説を読んでほんわかした読後感に浸っている自分も、つくづくこういう話が好きなんだなあって思いました。

阪急沿線の各駅で繰り広げられる様々な乗客のエピソードが、往路復路と語られていきます。

図書館でいつも読みたい本がある男性。棚からその本を取ろうとしたすんでのところで、よく

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