さくらんぼ
自宅警備員の一日は長い。中身は無い。
自宅警備員の歴も長い。二年になる。
「彼女ほしい」
ポツリと口に出た。誰もいない部屋で今、無意識に、彼女ほしいと言った。空虚。圧倒的空虚。
若い頃はピアノを弾く男というステータスだけでモテた。なのに拗らせた自分は「色恋に現を抜かす暇はない」なんて馬鹿なことを宣っていた。内心ストイックな俺、格好良いと。
今は切に思う。彼女ほしい。
大塚愛の『さくらんぼ』を恥ずかしがりながら歌ってくれるような彼女がほしい。歌ったあと「や〜恥ずかしい〜」なんて顔を真っ赤にするような彼女がほしい。弟、どう思う?
「キモいね。拗らせ過ぎな。あと髪切れよ。今キアヌリーブスしか似合わない髪型してっぞ。まずは毎日鏡を見るところからだな」
何で俺はダメ出しされてるんだ…。そういう弟はどんな彼女がほしいのか?
「iPodclassicで、イヤホンは有線派。仕事終わりにほろ酔い片手にピロウズ聴いて思わず歌詞を口ずさんじゃうような女の子」
らしい。拗らせ過ぎな。
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