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死にぞこないの趣味の世界

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#映画感想文

アヌーク・エーメさん、死去

アヌーク・エーメさん、死去

6月18日、フランスの女優アヌーク・エーメさん(92歳)、逝かれる。
彼女は、僕のスマホの壁紙。
文字通り、目の保養だった。
ただ美しいだけでなく、エレガントで、チャーミングだった。

いまごろ極右はよろこんでいるだろう。
なにせ彼女はユダヤ系だった。

彼女を国際的有名人にしたのが、映画『男と女』(1966年)だった。
フランシス・レイの音楽、〈ダバダダバダ〉で有名な例のやつ。

初めて観たとき

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映画『あぶない刑事』シリーズを観て -うすっぺらい横浜

映画『あぶない刑事』シリーズを観て -うすっぺらい横浜

新作公開にあわせて、最近テレビで『あぶない刑事』シリーズを放映している。
素晴らしい俳優陣にもかかわらず、いつもつまらないし、いつもダサい。

理由は簡単だ。
舞台となる横浜の描きかたが、うすっぺらいからだ。
ヒローたちはせっかく、ときに二枚目、ときに三枚目と、がんばっているのに。
横浜はただの壁の花だ。
ただただウドの大木のように突っ立っているだけだ。
おくぶかさがない。
その結果、映画が、観光

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映画『落下の解剖学』を観て-必然としての曖昧さと必要としての決断

映画『落下の解剖学』を観て-必然としての曖昧さと必要としての決断

トニ-と映画館でフランス映画『落下の解剖学』を観た。
トニ-はこれまでの人生の悲喜交々をすべて糧として成長した、明るく健康的で包容力のある大人の女性だ。だから僕は彼女のそばにいるとそれだけで楽しい。

ひとつの事件、ひとりの人物の曖昧さ映画『落下の解剖学』のテーマは曖昧な現実だ。

歴史学研究者として僕は、曖昧さは必然でなければならないと信じている。つまりできるかぎり緻密に徹底的に分析して、物事を

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映画『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』を観て

映画『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』を観て


フィリップ・ラショー春なので心身ともに、だるい。
昨日はつらくて、家から外に出ることすらできなかった。
今日はアツアツのパスタを作って食べようとしたら、口にやけどした。
もう生きていても、愉快なことなんて何もありはしないと思う。
思えば、諦めばかりの人生だった。

憂さ晴らしと思い、軽くワインを飲んで、フィリップ・ラショー(1980年生まれ)のコメディ映画をアマゾンプライムで観た。
『アリバイ・

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映画『ヴィーガンズ・ハム』を観て

映画『ヴィーガンズ・ハム』を観て


アマゾンプライムがオススメしていたので観た。
軽妙なブラック・コメディー。

映画を鑑賞したあとの行動で、そのひとの政治的性向までわかるだろう。
①血の滴るステーキを食べたくなったひと
=右翼
②イラン豚をインターネットで検索したひと
=無党派
③ヴィーガンに転向したひと
=左翼

肉を愛する主人公はフランスのマジメな肉屋さん。小さな街の小さな肉屋さんだ。
こよなく肉を愛している。
だから成長ホ

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映画『誰かの幸せ』(2020年)を観て

映画『誰かの幸せ』(2020年)を観て

アマゾンプライムで観た。
中高年のためのフランス映画。40歳未満には分からないと思う。
ぜったいオススメというわけではないが、不思議と心に残った。

二組のカップルがいる。
ヴァカンスでは、一緒にお金をだしあって別荘を借りるほどの仲良しだ。
四人のうちのひとり、婦人服販売店の店員レアが小説を出版する。ベストセラーになる。テレビにも出演する有名人になって、大金持ちになる。
そのことが他の三人に嫉妬心

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記録:エールフランスで観た映画

記録:エールフランスで観た映画

この夏、東京=パリ往復のエールフランスで観た映画について簡単に記しておく。

・『ジョンウィック・コンセクエンス』

監督がどれほどサクレクール寺院の階段が嫌いなのかがよく分かる映画だった。
それにしてもジョンウィックも4部作目。
さすがに疲れましたね。

・『私がやりました』

フランス映画界の優等生フランソワ・オゾン監督のフェミニズム讃歌。
イザベル・ユペール、ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブ

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映画『ヴィクトリア』を観て -悪意なき自己中心主義者

映画『ヴィクトリア』を観て -悪意なき自己中心主義者

ジュスティーヌ・トリエという女性監督の『ヴィクトリア』(2016年)をアマゾンプライムで観た。
「フランス映画は大人が見る夢だ」という言葉を思い出した。
自己中心的な女主人公が、ある男の愛に気づく夢物語なのだが、
現実には主人公のような女性が愛されることはない。

登場人物はすべて、非常にリアルであった。
パリで暮らしたことのある人なら、「いるいる」と思うのではなかろうか。高圧的な女主人公も、自分

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映画『土を喰らう十二ヶ月』を観て -好きな人と一緒の御飯がいちばんおいしい

映画『土を喰らう十二ヶ月』を観て -好きな人と一緒の御飯がいちばんおいしい

プロデューサーの手腕のうまさ
キャスト:沢田研二、檀ふみ、火野正平、尾身としのり
テーマ:食、老い、年の差恋愛
スタッフ:土井善晴先生

人参をこれだけぶらさげられたら、昭和生まれは馬のように走って観に行きたくなって当然でしょう。私も、松たか子に口元が似ている女友だちを誘って、さっそく行きました。

ビーガンとエコロジーとうまさと健康の悩ましい関係
映画は長野で野菜を作って一人で暮らす老作家の生活

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映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

中高年の恋愛サスペンス映画。
50代以上、必見かな。
若いひとで、これを観て「おもしろい」と言えるひとは、よっぽどの文学好きでしょうね。

映画の冒頭、中高年男女の夜の寝室が赤裸々に、しかし美しく撮られている。
こういうシーンを撮れるのがフランス映画なのだ。

なりすましというテーマ主人公は比較文学を専攻する50代の女性大学教授(ジュリエット・ビノシュ)。結婚・出産・離婚と、人生フルコースを経験。

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映画『PLAN75』を観て -ずるい

映画『PLAN75』を観て -ずるい

一見、自己主張を控えて大人しそうな顔をしながら、実は偏った見方を滑りこませている、しかもそれが極めて美しくて緊張感のある映像と一緒に流されるものだから、ふつうの観客なら騙されてしまう、そんな映画だった。
一言で評すれば「ずるい」。

偏りまずはこの映画の偏狭さから指摘していこう。
この映画は、75歳以上の人間ならば自らの意思で死ねる制度ができた近未来の日本を描いている。
国家がこの制度を設けた背景

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アルジェリア戦争×映画

アルジェリア戦争×映画

『アルジェの戦い』は傑作だったけどアルジェリア戦争(1954年-62年)を主題とした映画に関して言えば、『アルジェの戦い』(1966年)より右に出るものが無いように思われる。
『アルジェの戦い』が傑作だったのは、ドキュメンタリー風の手法を用いて客観性の格好をとった点が、功を奏したからだろう。
例えば裕福な白人による貧しいアルジェリア人への差別を映像にした。差別は日常的だけれども、ふつうならば(=本

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初心者のための批評入門

初心者のための批評入門

ネットでは多くのひとが映画批評、音楽批評、ラーメン批評など、批評文を書いている。でもそれがそれだけで独立した〈作品〉になっていることは稀だ。批評文はそれを書くことで、自分を見つめなおすと同時に、また読者にも有益な何かを提供できたほうがよい。そこで二点ほど、私自身が映画感想文を書くときに注意していることをあげておきたい。


ないものねだりをしない豆腐屋に行ってトンカツを注文することがナンセンスな

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シロウトとは ―映画『スペシャル・フォース』を観て

シロウトとは ―映画『スペシャル・フォース』を観て

ホンモノのパワー
先月、パリの軍事史博物館アンヴァリッドを訪れたさい、特別展『特殊任務班』を見学した。
導入部では、特殊任務班は聖書の時代から存在しました、また欧米だけでなく世界各地に存在しました、例えば日本のニンジャはその一例ですなどの説明があった。メインの展示は1990年代以降のフランスの特殊任務班の組織・装備・活動についてであった。
ほぼほぼリアルだとされる、特殊任務班を扱った映画のハイライ

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