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シロウトとは ―映画『スペシャル・フォース』を観て
ホンモノのパワー
先月、パリの軍事史博物館アンヴァリッドを訪れたさい、特別展『特殊任務班』を見学した。
導入部では、特殊任務班は聖書の時代から存在しました、また欧米だけでなく世界各地に存在しました、例えば日本のニンジャはその一例ですなどの説明があった。メインの展示は1990年代以降のフランスの特殊任務班の組織・装備・活動についてであった。
ほぼほぼリアルだとされる、特殊任務班を扱った映画のハイライトシーンがスクリーンに映しだされていた。アメリカ映画では『ゼロ・ダーク・サーティ』、フランス映画では『スペシャル・フォース』などである。
その『スペシャル・フォース』をアマゾンプライムで観た。目を見はったのは軍用機やヘリコプターのシーンだ。ありきたりの戦争映画とは違った。私は所謂ミリオタではない。けれどもシロウト眼に見て、この映画は何か違うのだ。重厚感を伴った圧倒的な迫力とでも言おうか。そんなものを感じた。
ウィキペディアで調べたら、映画の撮影にはフランスの空軍と国防省が協力したのだそうだ。さすがホンモノ。だからこそ、戦闘機が垂直に飛んでいくシーン、複数のヘリコプターがジグザグ飛行するシーンは、シロウトの私のことさえも魅了したのだろう。
シロウトができないこと、できること
特殊任務班と比べても詮無いことではあるが、シロウトはたいしたことができない。けれどなんにもできないわけではない。
例えばシロウトは寿司を握れない。けれどあちらの寿司屋よりもこちらの寿司屋のほうが旨いと、ジャッジはできる。
もしかしたらシロウトにもホンモノを見分ける力があるのかもしれない。
もしかしたらシロウトに違いを分からせることができなければ、ホンモノとは言えないのかもしれない。
言い換えれば、シロウトがホンモノとニセモノの違いが分からないで、ニセモノで満足しているなら、それはそれで仕方がないのかもしれない。
シロウトを忘れないこと、あなどらないこと
私が専門とする歴史学研究では、近年、細分化が進み、シロウトには難解すぎる、と言うか、シロウト眼になんでそんな研究をやっているのか意味がまったく分からない、そんな論文や報告が目立つようになってきた。パブリックという名のシロウト群に向き合うことを忘れてよいのだろうか。
いや、大学の研究だけじゃあない。
例えば年の暮れと言えば紅白歌合戦だけども、いまどきの流行歌ってパブリックとか社会とかを忘却しているでしょ。メロディもサビも、覚えやすさを敢えて拒絶している気がする。鼻歌で歌われることを拒絶しているような。もちろんその拒絶に意味があるのならばよいのだけれども、たいした意味などなさそうだ。
いまどきの流行歌は「社会」や「時代」を考慮に入れていないようだ。
昔は違う。女性歌手は「馬鹿にしないでよ、そっちのせいよ」とか、「くたばっちまえ、アーメン」とかの歌詞で強い女を表現し、フェミニズムに貢献した。また尾崎紀世彦の『また逢う日まで』は当時、未だ社会的に認知されていなかった未婚の同棲カップルへの応援歌だった。他方さだまさしは個人主義によって解体されていく家族というものを、歌を通じて復興しようとした。そして尾崎豊はバブル期の拝金主義と戦った。さらに批評性はJポップそのものにも向けられた。ブルーハーツは「分かりにくい」英語まじりの歌ばかりのJポップ界に真っ直ぐな日本語で対抗した。畢竟、広義での批評や批判が大事だった。
今年の紅白への提言
なぜウクライナでの惨劇に心痛めた一年だったのに、例年と同じような紅白歌合戦でよいのかしら。誤解しないでほしい。お説教をしたいんじゃあないんだ。私は道徳が嫌いだ。
ただ紅白の視聴者のなかにはウクライナから日本に亡命してきたひともいるかもしれないでしょ。でね、ほら、さびしいときってさ、周囲がにぎやかだと、余計さびしくなっちゃうでしょ。だからさ、こう、なにかもっと工夫できないかなあ、と。
例えば、歌詞が血なまぐさいことで有名なフランス国歌『ラ・マルセイエーズ』は、実は作られた当初はごくごくスローなテンポで、戦没兵を弔うために演奏されたそうだ。つまり勇ましい軍歌も、アレンジ次第では葬送曲になるというわけ。
だから例えばどうだろう。
紅白のステージ。どなたか、「ウクライナに思いをはせて」とひとことアナウンスをして、黒いスーツで、照明はスポットライトだけ、そしてアカペラでしんみりと歌うの。
それだけで、実に個人的な、誰かさんのラブソングが、人類愛の歌、平和の讃歌になるような気がするんだけど。
所詮、シロウトのつぶやきです。お気に召しませんでしたら御放念くださいませ。
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