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記事一覧

小説 ホワイト・トラベリング

小説 ホワイト・トラベリング

 新幹線から見える街の夜景には雪が降っていた。私は小説を読む合間にその景色を時々眺める。
 今は東京には戻りたくなかった、あらゆる場所が失った恋を連想させてしまうから。
とは言ってもいきなり海外旅行はお金も勇気も無い。それならばと、この小説の行き先にもなった、佐賀県の嬉野温泉に行こうと思ったのだ。
 
通路側の席に、黒いハットにスーツ姿の男性が座った。肩まで伸びている彼の黒髪が揺れる。どこかクラシ

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小説 向日葵と観覧車

小説 向日葵と観覧車

なんだか夜更かしをした朝の様に、頭がぼうっとする。
「あれ? 私……どうして駅に?」
徐々に意識がはっきりとしてくると、本田夢亜は駅前に立ち尽くしていた。この大きな駅はよく知っている。いつも中学校に向かう為によく通る、見慣れた場所だった。
 自分の姿を見てみると、学校の制服を着ていた。少し前に夏服に変わったばかりの白シャツとスカート。クラスメート達はようやく半袖になれると喜んでいた気がする。

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小説 一億円のハートを撃ち抜け。

小説 一億円のハートを撃ち抜け。

 銃口が重なった瞬間、引き金を引く。
「……しんじゃえ」
 マシンガンは轟音と共に、敵の女を一瞬で蜂の巣にした。
……気持ちがいい。口元が緩んでいるのが自分でも分かる。相手はさぞ悔しい事だろう。今撃ち抜いた相手が立派な人だったらもっといいなと思う。だって、ゲームでは現実の偉さなんて関係ないのだから。『クイーンズ・ガン』は平等の世界だからこそ、楽しいのだ。
 しかしYOU WINの文字が映し出された

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小説家志望向き。僕が公募で頂いた選評から小説を面白くする方法を解説します。

小説家志望向き。僕が公募で頂いた選評から小説を面白くする方法を解説します。

こんにちは、椎名幸夢です。

二回目の記事は、僕と同じ物書きで、プロを目指したいという方向けに、僕が初めて公募に応募した小説、「あのとき、僕は魔女の弟子になった。」で頂いた選評を元に、受賞する為のポイント、ストーリーを面白くするポイントを伝えられたらなと思います。

プロを目指している小説家志望さんだけでは無く、今制作しているストーリーを面白くしたい方。漫画、アニメ、映画などを作っている方々のお役

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小説 笑わないゴーストと泣けないスイセン

小説 笑わないゴーストと泣けないスイセン

 煙草の煙を深く吸い込み、吐き出す。白い煙はもくもくと新潟の寒空に登っていく。
 俺はその様子をぼうっと眺めていた。――いや、何も考えない様にしていたと言った方が正しいか。
「長時間運転お疲れ様。スイセン」コンビニの入り口から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。俺は笑って見せる。

「なぁに、これから歌うナナカさんに比べれば、楽勝っすよ」
 ナナカ、伊勢七叶は凍った様に表情を変えず、俺の隣に立つ。俺はコー

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小説 漠理ねむは覚めている。

小説 漠理ねむは覚めている。

 また、漠理ねむは夢を見ていた。
気がつくと夕暮れに照らされた、積み木で出来た町の上を浮遊していた。自分の背中には天使のような白く小さな翼が生えていて、ぱたぱたと忙しく羽ばたき続けている。
「今回もおもちゃの街かぁ」
 今回も意識はハッキリとしている。この類いの夢は明晰夢と呼ぶらしい。明晰夢とは自分が夢を見ていると自覚出来る現象をそう呼ぶらしい。両親はまるで夢を見ろと言わんばかりにねむという名前を

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短編小説 エンドロールはロマネ・コンティと一緒に。

短編小説 エンドロールはロマネ・コンティと一緒に。

 気が付くと僕は、映画館の席に座っていた。僕はちょうど真ん中の席で、観客は僕以外に誰一人いなかった。
「どうして僕は映画館に……?」
 思い出そうとするが僕がここまで来た記憶が全く無い。酒を飲み過ぎた翌日には良くある事なのだが、それにしては二日酔い特有の頭痛が無い。
「当劇場へようこそ」
 声が隣から聞こえた。
 
 隣を見るといつの間にか、女性が席に座っており、こちらに微笑を向けていた。
 その

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小説 ミッドナイト・ルーティーン・ラブ

小説 ミッドナイト・ルーティーン・ラブ

 深夜2時。店内から見えるマンションは、灯りがぽつぽつとついていて、まだ、僕以外に起きている人がいるんだなと、当たり前の事をぼんやりと思ったりする。深夜のコンビニは不自然なくらいに明るく、ここで働いていると、僕だけ他とは違う時間にいる様な気分になる。店の自動ドアが開き、陽気な音楽が流れた。
「お疲れさまでーす」
「どうも、お疲れさまです」
 そう声を掛けた納品業者の人が被っていた帽子を下げ、荷物を

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短編小説 トワの選択

短編小説 トワの選択

「麻里。久しぶりだね」男性に声を掛けられて、麻里と呼ばれたトワは振り返った。
「あの……どちら様ですか?」
 彼、山崎拓真は一瞬虚を突かれた表情をした。すぐにトワは微笑む。
「なんちゃって。でも遅刻ですよ。彼氏失格です」
 そう返すとタクマはほっとしたように笑い、「ごめんごめん。今日はなんでもおごるからさ」と笑った。背中にはギターケースが担がれていた。
 ……このイケメンも気づかないのねー。まぁ、

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小説 ドリーム・シンドローム

小説 ドリーム・シンドローム

りむるは現在、沈没してしまうくらい泣き続けていた。本日、動画共有サイトで雑談を放送したところ、コメントで、「二十六歳でアイドルになりたいなんて、頭がお花畑もいいところ。現実みなよ、おばさん」と誹謗中傷を受けた事が始まりだった。
 結果、彼女は配信で怒り狂い、動画が炎上。動画チャンネルを削除する結果になった。
「……りむる、おばさんじゃないもん」
 どうしてみんなそんな事を言うのだろう。
「あー! 

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