「ねえ、あんた。」 「あんたよ。聞こえているんでしょ?この間からずっと、そこに立っているけど、誰なのよ。」 郊外にある総合病院。その緩和ケア病棟の一室。 病室の片…
こんばんは。NEWSステーション22の時間です。 本日のトップニュースはこちらです。 ~「親業免許制度」来年4月から施行~ 清明党の竹内首相が、本日16時から開か…
「さようなら。君がいつか幸せになることを願っているよ。 君のことは今までと同じように愛しているけれど…。 でも、君を幸せにできるのは僕じゃないみたいだから。」 「…
かつて時間を共にした鬱憂は、いつ何時も私の背後にぴったりと張り付いている。 ニーチェははっきりと間違っていた。 私が覗き込まずとも、深淵は虎視眈々とこちらを覗いて…
「はい、間違いありません。私がやりました。はじめは金目のものだけ盗むつもりだったのですが、気付かれてしまったので、パニックになって刺しました。父親の声で家族の人…
約10年にわたり勤め上げてきた証券会社を辞めた。 いわゆる進学校から名門大学、有名企業へと進み、成功を収めてきた私は、社会のレールから外れることとなった。 しかし、…
大切な他者の存在に気付いた時、私は同時に気付く。最も近くにいた人間の喪失に。 幸せをつかむということは、苦悩の日々と決別であり、つまりそれは、苦悩の中を生き抜い…
2017年12月某日 シャワーを浴び、一張羅を着る。 歯磨きを済ませ、頭と髭を整える。 周囲への感謝と、世界の幸福への祈りを簡潔につづり、封をする。 部屋を片付け、ドアノ…
新年を迎え、初詣に行く。 友人の死を弔うため、葬儀に参列する。 キリストの生誕を祝わずとも、クリスマスを祝う。 「神様、仏様」と周りと足並みを揃え、口にする。 特…
「子どもっていうのは、神様から授かるものだから、子どもを作るなんて言い方をしたらだめよ。私たちは素晴らしいプレゼントを授かっているのよ。」 スラム街に住む子ども…
あなたを想う優しさと 自分を守る冷たさを 木の葉と一緒にひらひらり いのちに対するいとしさと 因果に対する憎しみを 炎のようにゆらゆらり 記憶が与えるさみしさと 未…
【昨夜未明、俳優の○○さんが自室で首を吊って亡くなっているのが発見されました。】 【なんとこちらの砂浜に、地震の予兆ともいわれている深海魚のリュウグウノツカイが…
記憶のにおいが私の頭を通り抜けるのは、いつだって孤独な時だ ある匂いが、懐かしい記憶を呼び起こすこととは似て非なる 記憶そのものが匂いを持っているのだ それは動物…
すべての人間が過去を経て現在に至る 私の世界の中でのあなたは、どうあがいても自然の一部でしかないが あなたの世界では、天文学的な数の因果があなたに渦巻き吸い込まれ…
水面華
2023年7月22日 12:38
「ねえ、あんた。」「あんたよ。聞こえているんでしょ?この間からずっと、そこに立っているけど、誰なのよ。」郊外にある総合病院。その緩和ケア病棟の一室。病室の片隅で、まっすぐに背筋を伸ばして立っているスーツ姿の男に、女は話しかけた。「あ、見えていらっしゃたんですね。」「初めまして。私、あなたの担当になりました死神でございます。どうぞ最期のその時まで宜しくお願い致します。」「死神なの?なん
2023年7月7日 21:32
こんばんは。NEWSステーション22の時間です。本日のトップニュースはこちらです。~「親業免許制度」来年4月から施行~清明党の竹内首相が、本日16時から開かれた記者会見で、親業免許制度に関する法律を、来月5月1日付で公布、来年4月1日から施行することを発表しました。従来から、国会で賛否の分かれる議論が繰り広げられてきた今回の法改正について、専門家の皆さんをお招きして、議論していきたいと思い
2023年6月28日 21:01
「さようなら。君がいつか幸せになることを願っているよ。君のことは今までと同じように愛しているけれど…。でも、君を幸せにできるのは僕じゃないみたいだから。」「私だって、まったく同じことを思っているわ。私たちは世界中の誰よりも似た者同士だったと思う。けれど、それじゃダメだったみたいね。お互い幸せになりましょう…。」「「さようなら。」」 珍しく都内に雪が降った年末、煌びやかなネオン
2023年6月24日 14:26
かつて時間を共にした鬱憂は、いつ何時も私の背後にぴったりと張り付いている。ニーチェははっきりと間違っていた。私が覗き込まずとも、深淵は虎視眈々とこちらを覗いているのだ。 憂愁漂う渓谷から抜け出し、人里へと降りてきたはずである。渓谷で私が溺れた真っ黒な水は、碧空の下を進もうとも、決して乾くことはなかった。村時雨に晒されようとも、決して洗い流されることはなかった。 藍より青く、黒より
2023年6月11日 18:42
「はい、間違いありません。私がやりました。はじめは金目のものだけ盗むつもりだったのですが、気付かれてしまったので、パニックになって刺しました。父親の声で家族の人も起きてきたので、しょうがなく殺していったって感じですね。申し訳ないと思っています。」薄暗い取調室の中、青年は明瞭な声で自らの罪を告白した。お茶の間を騒がせた「一家殺人強盗事件」。予想外の捜査の難航に警察への非難の声も大きくなってきた
2023年6月7日 19:39
約10年にわたり勤め上げてきた証券会社を辞めた。いわゆる進学校から名門大学、有名企業へと進み、成功を収めてきた私は、社会のレールから外れることとなった。しかし、そこに後悔はなかった。優秀だが平凡な人間が歩むレールを外れようと、自分自身の力で新たな道を開拓していく自信があったのだ。新しく始めるベンチャー企業の事業計画書に、ある程度目途を付けた私は、人生二度目の夏休みと称して、発展途上国へのボ
2023年6月6日 18:27
大切な他者の存在に気付いた時、私は同時に気付く。最も近くにいた人間の喪失に。幸せをつかむということは、苦悩の日々と決別であり、つまりそれは、苦悩の中を生き抜いてきた自分自身との別れを意味する。そしてその喪失の認識は、清福の中で突然やって来る。知覚を強制することはなく、しかし意識の外で、はっきりと薄れていくのだ。日々の葛藤の記憶も。孤独の中でひたすら繰り返された思考も。自身の存在を定
2023年6月5日 17:19
2017年12月某日シャワーを浴び、一張羅を着る。歯磨きを済ませ、頭と髭を整える。周囲への感謝と、世界の幸福への祈りを簡潔につづり、封をする。部屋を片付け、ドアノブには幾度となく強度の確認を済ませたビニール紐を括り付ける。照明を落とし、ジャスミンが香るキャンドルを焚く。スピーカーからは、チェスター・ベニントンの遺作One More Lightが流れる。大量のウイスキーを流し込み、思考
2023年6月3日 17:13
新年を迎え、初詣に行く。友人の死を弔うため、葬儀に参列する。キリストの生誕を祝わずとも、クリスマスを祝う。「神様、仏様」と周りと足並みを揃え、口にする。特に、最愛の息子を授かってからというもの、日本におけるカオティックな文化的側面を体感することが多くなった。別に私は、日本文化における宗教の複雑性に物申したいわけではないのだ。ただ、その文化的行事における信仰対象が、私にとってはハムスター
2023年6月2日 16:56
「子どもっていうのは、神様から授かるものだから、子どもを作るなんて言い方をしたらだめよ。私たちは素晴らしいプレゼントを授かっているのよ。」スラム街に住む子どもたちに配給をして回る道中、シスターは私の目をまっすぐに見て、そう言った。一年中日差しの降り注ぐ、日本よりもはるかに発展の遅れたこの地に移り住んで、はや一年が経った。肌の色も違えば、身長だって周囲より頭一つ分はゆうに高い。チップの文化だ
2023年6月1日 22:16
あなたを想う優しさと自分を守る冷たさを木の葉と一緒にひらひらりいのちに対するいとしさと因果に対する憎しみを炎のようにゆらゆらり記憶が与えるさみしさと未来がくれる願望を車輪と一緒にぐるぐるり上下左右、斜めにだって、私もただただ行ったり来たり私にだってちょうだいよ私だけのオノマトペたった一つのオノマトペ
2023年5月31日 22:06
【昨夜未明、俳優の○○さんが自室で首を吊って亡くなっているのが発見されました。】【なんとこちらの砂浜に、地震の予兆ともいわれている深海魚のリュウグウノツカイが打ち上げられていたようです。】[芸能界に激震 ○○○○死去 関係者の話によると、自室で亡くなっているところをご家族が発見されたということ…][異常現象? ~海岸に続々と打ちあがる謎の深海魚~]地上ではどうやら、そんなニュースで持ち
2023年5月31日 14:20
記憶のにおいが私の頭を通り抜けるのは、いつだって孤独な時だある匂いが、懐かしい記憶を呼び起こすこととは似て非なる記憶そのものが匂いを持っているのだそれは動物が放っているフェロモンと同じように彼もまた孤独の中からそれを放ち、私の感覚器も孤独とともにのみ作用するそうやって私は、ある条件下においてのみ、過去の自分と、それを取り巻く環境と一体となるのだそうして不随意にやってきた記憶は、かつての
2023年5月31日 14:11
すべての人間が過去を経て現在に至る私の世界の中でのあなたは、どうあがいても自然の一部でしかないがあなたの世界では、天文学的な数の因果があなたに渦巻き吸い込まれてゆくあなたも、彼も、彼女も、あの人も…私の環世界の、一つの入力信号にしかなりえない全ての人間にねっとりとへばりついた因果が、山のように積み重なった過去が身を潜めている我々80億の人類の、無数に存在し得る生物の、すべての環世