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追憶[ ]希死念慮

記憶のにおいが私の頭を通り抜けるのは、いつだって孤独な時だ
ある匂いが、懐かしい記憶を呼び起こすこととは似て非なる
記憶そのものが匂いを持っているのだ
それは動物が放っているフェロモンと同じように
彼もまた孤独の中からそれを放ち、私の感覚器も孤独とともにのみ作用する
そうやって私は、ある条件下においてのみ、過去の自分と、それを取り巻く環境と一体となるのだ
そうして不随意にやってきた記憶は、かつての私自身は、皆もれなく手土産をもっている

希死念慮

それは過去から現在に向かってのみ作用する
過去を思うときには発生しない
未来を想像するときには現れない
過去の私が、現在の私に会いに来るときにだけ、はっきりとした死が付随しているのだ

私が追憶にふけるとき
もう二度と取り戻せない過去を思い、そしていまを嘆き、死を思うのだろうか
いいえ、追憶と希死念慮の間隙を無視することなど決してできない
過去の私は、どんな気持ちで、どんな方法で、それを手にするのだろうか
今に取り残されていく私もまた、孤独の中から手土産を持って、未来の私のもとを訪れるのだろうか

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