水面華

デカダンの作品が多いですが、孤独や苦しみの中にいる人たちを一人にしたくないと思い、作品…

水面華

デカダンの作品が多いですが、孤独や苦しみの中にいる人たちを一人にしたくないと思い、作品を作っています。 更新が遅くなっていますが、誠意執筆中です。

最近の記事

優先順位

「ねえ、あんた。」 「あんたよ。聞こえているんでしょ?この間からずっと、そこに立っているけど、誰なのよ。」 郊外にある総合病院。その緩和ケア病棟の一室。 病室の片隅で、まっすぐに背筋を伸ばして立っているスーツ姿の男に、女は話しかけた。 「あ、見えていらっしゃたんですね。」 「初めまして。私、あなたの担当になりました死神でございます。どうぞ最期のその時まで宜しくお願い致します。」 「死神なの?なんかイメージしてたのと違うわね。てっきりこの世に未練を残した幽霊かと思っていたわよ

    • 親業免許制度

      こんばんは。NEWSステーション22の時間です。 本日のトップニュースはこちらです。 ~「親業免許制度」来年4月から施行~ 清明党の竹内首相が、本日16時から開かれた記者会見で、親業免許制度に関する法律を、来月5月1日付で公布、来年4月1日から施行することを発表しました。 従来から、国会で賛否の分かれる議論が繰り広げられてきた今回の法改正について、専門家の皆さんをお招きして、議論していきたいと思います。 まず、今回の法改正によって来年度から施行されることが決定した、親業免許

      • 排他的心象風景

        「さようなら。君がいつか幸せになることを願っているよ。 君のことは今までと同じように愛しているけれど…。 でも、君を幸せにできるのは僕じゃないみたいだから。」 「私だって、まったく同じことを思っているわ。 私たちは世界中の誰よりも似た者同士だったと思う。 けれど、それじゃダメだったみたいね。 お互い幸せになりましょう…。」 「「さようなら。」」  珍しく都内に雪が降った年末、煌びやかなネオンの中を、孤独な二人は同じ方向を向いて歩いていた。 「それにしても、長谷川の今年

        • 入浴

          かつて時間を共にした鬱憂は、いつ何時も私の背後にぴったりと張り付いている。 ニーチェははっきりと間違っていた。 私が覗き込まずとも、深淵は虎視眈々とこちらを覗いているのだ。 憂愁漂う渓谷から抜け出し、人里へと降りてきたはずである。 渓谷で私が溺れた真っ黒な水は、 碧空の下を進もうとも、決して乾くことはなかった。 村時雨に晒されようとも、決して洗い流されることはなかった。 藍より青く、黒より暗い。 私を呑み込まんと息をひそめるメランコリアを、私はいかにして振り払えばよい

        優先順位

          ある嘘つきの反省

          「はい、間違いありません。私がやりました。はじめは金目のものだけ盗むつもりだったのですが、気付かれてしまったので、パニックになって刺しました。父親の声で家族の人も起きてきたので、しょうがなく殺していったって感じですね。申し訳ないと思っています。」 薄暗い取調室の中、青年は明瞭な声で自らの罪を告白した。 お茶の間を騒がせた「一家殺人強盗事件」。予想外の捜査の難航に警察への非難の声も大きくなってきた頃、四か月にわたる捜査の末、事件に幕が降ろされた。 男には少年の頃から、窃盗癖

          ある嘘つきの反省

          生まれたこの場所で

          約10年にわたり勤め上げてきた証券会社を辞めた。 いわゆる進学校から名門大学、有名企業へと進み、成功を収めてきた私は、社会のレールから外れることとなった。 しかし、そこに後悔はなかった。 優秀だが平凡な人間が歩むレールを外れようと、自分自身の力で新たな道を開拓していく自信があったのだ。 新しく始めるベンチャー企業の事業計画書に、ある程度目途を付けた私は、人生二度目の夏休みと称して、発展途上国へのボランティア活動のパッケージに申し込んだ。 ところで、なぜ人生の夏休みに、欧州各

          生まれたこの場所で

          さようなら。最愛の自分

          大切な他者の存在に気付いた時、私は同時に気付く。最も近くにいた人間の喪失に。 幸せをつかむということは、苦悩の日々と決別であり、つまりそれは、苦悩の中を生き抜いてきた自分自身との別れを意味する。 そしてその喪失の認識は、清福の中で突然やって来る。 知覚を強制することはなく、しかし意識の外で、はっきりと薄れていくのだ。 日々の葛藤の記憶も。 孤独の中でひたすら繰り返された思考も。 自身の存在を定義する、周囲との違和感の認識も。 現在へと繋がる細く険しい道のりを、たった一人

          さようなら。最愛の自分

          二つの必要条件

          2017年12月某日 シャワーを浴び、一張羅を着る。 歯磨きを済ませ、頭と髭を整える。 周囲への感謝と、世界の幸福への祈りを簡潔につづり、封をする。 部屋を片付け、ドアノブには幾度となく強度の確認を済ませたビニール紐を括り付ける。 照明を落とし、ジャスミンが香るキャンドルを焚く。 スピーカーからは、チェスター・ベニントンの遺作One More Lightが流れる。 大量のウイスキーを流し込み、思考に厚い雲をかける。 そして、携帯の電源を落とす。 三年間の月日を経て、必須条件を

          二つの必要条件

          巨大なハムスターとおまえさん

          新年を迎え、初詣に行く。 友人の死を弔うため、葬儀に参列する。 キリストの生誕を祝わずとも、クリスマスを祝う。 「神様、仏様」と周りと足並みを揃え、口にする。 特に、最愛の息子を授かってからというもの、日本におけるカオティックな文化的側面を体感することが多くなった。 別に私は、日本文化における宗教の複雑性に物申したいわけではないのだ。ただ、その文化的行事における信仰対象が、私にとってはハムスターよりも遥かに小さいという事実を無視できないのである。 幼少期、私は毎日、いや毎

          巨大なハムスターとおまえさん

          セックスは何を隠した

          「子どもっていうのは、神様から授かるものだから、子どもを作るなんて言い方をしたらだめよ。私たちは素晴らしいプレゼントを授かっているのよ。」 スラム街に住む子どもたちに配給をして回る道中、シスターは私の目をまっすぐに見て、そう言った。 一年中日差しの降り注ぐ、日本よりもはるかに発展の遅れたこの地に移り住んで、はや一年が経った。肌の色も違えば、身長だって周囲より頭一つ分はゆうに高い。チップの文化だって知らなければ、そもそも言葉だって十分に理解できたと思えたことはない。 それ

          セックスは何を隠した

          私だけのオノマトペ

          あなたを想う優しさと 自分を守る冷たさを 木の葉と一緒にひらひらり いのちに対するいとしさと 因果に対する憎しみを 炎のようにゆらゆらり 記憶が与えるさみしさと 未来がくれる願望を 車輪と一緒にぐるぐるり 上下左右、斜めにだって、私もただただ行ったり来たり 私にだってちょうだいよ 私だけのオノマトペ たった一つのオノマトペ

          私だけのオノマトペ

          やあ、深海魚さん。きみはどこからやってきたの?

          【昨夜未明、俳優の○○さんが自室で首を吊って亡くなっているのが発見されました。】 【なんとこちらの砂浜に、地震の予兆ともいわれている深海魚のリュウグウノツカイが打ち上げられていたようです。】 [芸能界に激震 ○○○○死去  関係者の話によると、自室で亡くなっているところをご家族が発見されたということ…] [異常現象? ~海岸に続々と打ちあがる謎の深海魚~] 地上ではどうやら、そんなニュースで持ち切りらしい。 普段は僕らに見向きもしてくれないくせに、こんな時だけ大騒ぎとは暢気

          やあ、深海魚さん。きみはどこからやってきたの?

          追憶[ ]希死念慮

          記憶のにおいが私の頭を通り抜けるのは、いつだって孤独な時だ ある匂いが、懐かしい記憶を呼び起こすこととは似て非なる 記憶そのものが匂いを持っているのだ それは動物が放っているフェロモンと同じように 彼もまた孤独の中からそれを放ち、私の感覚器も孤独とともにのみ作用する そうやって私は、ある条件下においてのみ、過去の自分と、それを取り巻く環境と一体となるのだ そうして不随意にやってきた記憶は、かつての私自身は、皆もれなく手土産をもっている 希死念慮 それは過去から現在に向かっ

          追憶[ ]希死念慮

          あなたの好きなものを教えて

          すべての人間が過去を経て現在に至る 私の世界の中でのあなたは、どうあがいても自然の一部でしかないが あなたの世界では、天文学的な数の因果があなたに渦巻き吸い込まれてゆく あなたも、彼も、彼女も、あの人も… 私の環世界の、一つの入力信号にしかなりえない全ての人間に ねっとりとへばりついた因果が、山のように積み重なった過去が身を潜めている 我々80億の人類の、無数に存在し得る生物の、 すべての環世界を内包する小さな青い惑星は どれほどの因果を詰め込まれているのだろうか 満腹に

          あなたの好きなものを教えて