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やあ、深海魚さん。きみはどこからやってきたの?

【昨夜未明、俳優の○○さんが自室で首を吊って亡くなっているのが発見されました。】
【なんとこちらの砂浜に、地震の予兆ともいわれている深海魚のリュウグウノツカイが打ち上げられていたようです。】
芸能界に激震 ○○○○死去  関係者の話によると、自室で亡くなっているところをご家族が発見されたということ…]
異常現象? ~海岸に続々と打ちあがる謎の深海魚~]

地上ではどうやら、そんなニュースで持ち切りらしい。
普段は僕らに見向きもしてくれないくせに、こんな時だけ大騒ぎとは暢気なことだね…
おっと、そんなことを言っているとまた一匹。
「やあ、深海魚さん。きみもいよいよ上がっていくのかい?」
「一足お先になんて、そんなシケたこと言うんじゃないよ。それでこそやっと日の目をみるってもんだろ。」
「それにしても、ずいぶんと深いところから上がってきたようだね?きみはどこからやってきたの?」
「…それは随分なところまで潜っていたんだね。」
「好きで潜った訳じゃないって? …そりゃそうだよな。潜ったんじゃなくて、勝手に沈んでいくしかないんだもんな、僕たちは。」
「それはそうと、そんなにも深い所で、さぞかし大変なことだっただろうに。ご苦労様だね。って、僕には想像なんかできやしないけれどね。」
「きみたちがずっと深くから、僕らのことを見ていようとも、僕からはきみのことなんてこれっぽっちも見えやしない。それに、気づけばより深くにいるきみたちのことなんか忘れちまうのさ。」
「悪いとは思っているぜ?でも僕だって、この深さで生きていくので精一杯なのさ。」
「きみだってそうだろ?僕らはいつだって、より太陽に近い彼らのほうしか見ていられないのさ。」

「ところで、きみはもうすでに楽になったんだろ?少しでいいから、僕の話を聞いて行っておくれよ。」
「きみからしたらまだまだ楽なほうだって言われるかもしれないが、最近は息の仕方もわからねえ。酸素もこんなに薄くなってしまって、呼吸するのでも一苦労だ。水圧だってこんなに大きくなって、毎日押しつぶされそうだよ。」
「…て悪いねえ。僕はきみのことなんか、露ほども理解してあげられないのに。まあでも、その代わりと言っちゃなんだけど、僕より浅瀬にいるやつらの苦しさに寄り添っていこうと思うよ。きみが僕にしてくれたようにね。」
「やっと楽になれたのに、長々とつき合わせちゃって悪いね。」

「心配ないさ。きみも海岸に打ち上げられれば、地上のやつらも、ようやく気付くさ。きみの存在に。きみの苦しさに。」

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