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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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2023年1月の記事一覧

こどもには見えない豆腐くださいな

こどもには見えない豆腐くださいな

シリーズ・現代川柳と短文 012
(写真でラジオポトフ川柳100)

 豆腐が「豆富」と書かれているのを見ると追い出された「腐」に想いを馳せてしまう。似たような例にサンマルクカフェの「チョコクロ」がある。もとそこにあったはずの「ワッサン」はどこに行ってしまったのか。そういえば「レート」もなくなっている。使われなかったワッサンとレートは海浜の埋め立て地のゴミ捨て場に山と積まれており、それを知る者たち

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プディングの代わりに今夜、地動説

プディングの代わりに今夜、地動説

シリーズ・現代川柳と短文 011
(写真でラジオポトフ川柳099)

 きれいな発音で英語を話す人を見ると尊敬してしまう。「この人は英語が話せるんだなあ」という素朴な尊敬だが、その裏には英語を話せない自分への劣等感がある。言語学習が苦手だと気づいたのは大学留年が決まったあとだった。必修科目の英語の単位は取れたが、選択科目の第二外国語がてんでだめだった。ギリシャ語、ラテン語、朝鮮語、サンスクリット語

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この世から消えた道路を進むんだ

この世から消えた道路を進むんだ

シリーズ・現代川柳と短文 010
(写真でラジオポトフ川柳098)

 高校は自転車通学だった。イオンの広大な駐車場を通り抜けるのが近道だった。観たいテレビ番組の放送に間に合うよう友人2人とフルスピードで自転車をこいで帰宅するのが習慣化しており、部活をやっていなかったわたしたちにとってそれが部活のようなものだった。「帰宅部」という言い方は一種の揶揄だと思うが、じっさい部活ばりの運動量だったと思う。

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星座では川の向こうに渡れない

星座では川の向こうに渡れない

シリーズ・現代川柳と短文 009
(写真でラジオポトフ川柳097)

 朝、テレビで星占いを見ている。小学生の頃からなんとなくずっと見ている。自分は蟹座なのでなんとなく蟹座の順位を見ているが、興味関心があるわけではないので、テレビから目を離すともう順位もラッキーアイテムも忘れている。「自分は蟹座である」というアイデンティティがない。「自分は蟹座なのに甲殻類アレルギーだな〜」と思うことはたまにある。

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きみこそがレモンの人にふさわしい

きみこそがレモンの人にふさわしい

シリーズ・現代川柳と短文 008
(写真でラジオポトフ川柳096)

 生のフルーツが苦手だ。味が、ではない。自分でもうまく言い表すことができないが、しいて言うなら「フレッシュすぎて苦手」という言い方がまずまずしっくりくる。みずみずしさに押し負けてしまうような感覚。たとえばこれがドライフルーツならむしろ好きですらある。しかしバナナはむりだ。わたしはジョナサンのクラシック・ショコラ・パフェを愛好して

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金網で自分らしさが出なかった

金網で自分らしさが出なかった

シリーズ・現代川柳と短文 007
(写真でラジオポトフ川柳095)

 覆水盆に返らず、ということわざもさすがに賞味期限が切れるころだ。もっと現代に寄せたわかりやすい表現にしよう。焼肉屋の網から落ちたネギタン塩のネギはもとに戻らない、はどうか。盆からこぼれた水が地面に染み込むと取り戻せないように、網をすり抜けその下の熱源に落下したネギは燃え尽きて二度と返っては来ない。取り返しがつかない。そもそもあ

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ていねいな執事が上に乗ってくる

ていねいな執事が上に乗ってくる

シリーズ・現代川柳と短文 006
(写真でラジオポトフ川柳094)

 昔観た映画に18世紀くらいのヨーロッパの貴族階級の人々を描いたものががあった。3時間を超える大作で登場人物も多い。貴族たちだけでなく、執事や召使いといった労働者階級の人々も大量に出てくる。上下構造は上階と下階に視覚化され、映画は二層のドラマが重なり合う超巨大群像会話劇の味わいを増していくが進んでいく。作り手もキャラクターひとり

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王政がめくれあがって見えた王

王政がめくれあがって見えた王

シリーズ・現代川柳と短文 005
(写真でラジオポトフ川柳093)

 道端に立っているなんの変哲もない人物を王様にするにはどうすればいいだろう。答えは「王冠をかぶらせる」一択だ。なぜなら、王冠をかぶるのは王様だけだからだ。王様のいるところ王冠あり。王冠のあるところ王様あり。すさまじく固有性の高いアイテムである。ファミレスで空いている席に案内され、そこに王冠が置かれていたらどうだろう。「王様の忘れ

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メリットはデメリットだしヒグマだし

メリットはデメリットだしヒグマだし

シリーズ・現代川柳と短文 004
(写真でラジオポトフ川柳092)

 パンダとクマのちがいが思い出せない。見た目は似ているがぜんぜん別物。そう聞いたことがある気がする。シマウマとウマもそうだし、ホッキョクグマとクマもそんな感じだった………気がするが、やはり思い出せない。正直なところ、前段の《見た目は似ているが》という部分も怪しい。写真で見るとけっこうちがうな、と思ったことがある気もするのだが、い

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ここからは本気でパンを司る

ここからは本気でパンを司る

シリーズ・現代川柳と短文 001
(写真でラジオポトフ川柳089)

 すこし前のことを思い出した。かつて、勤め先が入っていた某オフィスビルの1階に高いパン屋があり、そこで昼食のサンドイッチを買うのが日課だった時期のことだ。来る日も来る日もサンドイッチを食べながら、「ん? こんな経験、前にもしたことあるな〜」とよく思い出すことがあった。《こんな経験》とは、つまり来る日も来る日もサンドイッチを食べて

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雨降りはお試しコース含まれず

雨降りはお試しコース含まれず

 現代川柳と400字雑文 その100

 ラクロスの試合で知りあった安堂さんはどちらかといえば物持ちのいいほうで、ちょうどその時期使っていた傘も、3年ほど前に駅の売店で数百円で買った白いビニール傘をずっと使い続けているのだと言っていた。柄(え)に目印の赤いビニールテープが巻かれていたのをよく覚えている。ところがある日、その傘がコンビニの傘立てから盗まれてしまう事件が起きた。「事件だなんて、そんな大

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その名札かっこいいうえうどんだね

その名札かっこいいうえうどんだね

シリーズ・現代川柳と短文 003
(写真でラジオポトフ川柳091)

 業種はさまざまだが、ごくたまに、そこで働いている店員の名札に、その店のおすすめ商品が載っていることがある。たいていは「わたしのイチオシです!」的な文言とともに。かつて、あるコンビニチェーンの店員の名札にケーキの名前が書いてあったのを覚えている。ちょうどクリスマスの時期で、たとえば《ブッシュ・ド・ノエル》、たとえば《いちごのショ

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100円のかっこいいねこのスカート

100円のかっこいいねこのスカート

シリーズ・現代川柳と短文 002
(写真でラジオポトフ川柳090)

 100円ショップで思い出すのはシティボーイズの2001年のコントだ。電柱にきたろうといとうせいこうが登っている。きたろう演じるデザイナーは、自分がデザインした皿が100円ショップで売られていたことを悲哀たっぷりに語る。コントはその「悲哀」という漠然とした概念を、言葉を使わずに浮き彫りにして、静かに終わっていく。傑作だが説明がむ

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ゼラチンであろうが容赦しませんよ

ゼラチンであろうが容赦しませんよ

 現代川柳と400字雑文 その99

 予備校講師の関さんは暑い時期になるとよくゼリーを食べる。お気に入りの銘柄があり、ぶどう味とみかん味がとくに好きで、ひとり暮らしの冷蔵庫につねに常備しているという。十年ほど前、その銘柄のゼリーに製造段階で異物が混入したというニュースがあった。ごく小さい金属片らしかった。気になった関さんが冷蔵庫のそれらを確認すると、果たしてみかん味のひとつになにか黒い粒のような

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