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感情のエッセイ

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気持ちを込めて書いた文章
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ベンチで眠るおじさんの幸福

ベンチで眠るおじさんの幸福

涼しくなってきた。まだ日中は暑いし、クーラーをつけることも多いけれど。
でも、少なくとも出勤退勤のドライブ時は、窓をあけるだけでとても気持ちがいい。

特に仕事が終わって、夕暮れのなかで冷えた風を感じると、それはもう幸せだ。生活や仕事のなにが辛かろうが、とにかくその瞬間は幸せなのだ。だから秋はいい。

なにせ、暑がりだ。涼しいのが好きだ。夜、風呂上りに涼みに出れることのなんと気持ちのいいことか。さ

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お別れの日

お別れの日

4年間住んだアパートの退居がおわった。ガランとなった部屋は、内見で一目惚れした時とおなじように輝いている。同じ部屋なのに、それはどこか遠くの光のようで、あぁここはもう僕の家じゃなくなるんだなと、感じる。

11時半に掃除がすんで、嫁さんとふたりで管理会社の人がくるのをまった。退去立ち会いの予定はあと30分後。そのあとは玄関をあけることができない。それが、なんだか不思議だった。



「結婚しては

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あなたを見つめた3日間

あなたを見つめた3日間

その電話がかかってきた時、僕は本当にどうしようもない奴だという事実が、避けようもなくやってきた。二日酔いで鉛のように重い体をなんとか動かし、スーパーへ入ろうとした頃のことだったと思う。いつも通り気の抜けた声で電話に応じると、母さんが震えた声で言った。

「陽ちゃん、お父さんがね、倒れたの。心肺停止なの。」



電話の向こうで母さんは救急隊員に呼ばれ、通話がきれた。その後も何度か電話がかかってき

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愛しい火種

愛しい火種

ルーティンに支配されているなぁとおもう。
それを生活とくくったとして、虫眼鏡をあてれば色々なものが見える。

いやなんだこの書きはじめ。正直に言えよ。
つまり自慰のことだ。過去に性癖のことについて書いたけど、本当はもっと突っ込んでいきたかった。だから、潜るぜ。



いつから妄想でしなくなったのだろう。
高校の頃はまだそういった場面もよくあったけど、成人してからはからっきしだ。

いわゆる「お

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曖昧の足音

曖昧の足音

年があけた。もうすぐ誕生日がやってくる。

その日になれば20代が終わってしまう。
なにも変わらないかもしれないけど、曖昧な不安がある。なにかのタイムリミットが切れてしまうんじゃないかって。

高校生の頃ははやく大人になりたいって思っていた。子供にみられるのは年齢というフィルターが強すぎるからだと、足踏みしていた。

僕をみろ!こんなに冷静だ!賢人の卵だぞ!

心のなかで叫んでプライドを暖める。そ

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滲む酒

滲む酒

友達に会いに新潟に行った。初めての土地で、初めてのお酒を交わしに。



その日は夜勤明けだった。急いで家に帰ってシャワーを浴びる。
綺麗な自分を見てほしい。それなのに、男の体というのは髭も生えれば汗も臭う。
洗いたての自分に満足するけれど、到着する頃には汚くなっちゃってるんだろうなって、すこし陰る。

最初こそ運転したものの、ほとんど嫁さんの運転でホテルに着いた。はじめは一人電車で行くと言って

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眠った街のあなたを探して

眠った街のあなたを探して

ずっとSNSに入り浸っていたけれど、昔から考えても一番依存しているのはTwitterだとおもう。
ほんとに四六時中ツイッタランドをうろうろしている。仕事中だろうがトイレ中だろうが、何事もTwitterを妨げられない。

そこにはいつも誰かがいる。なにがいいって、体温が感じられるんだ。僕は一人が好きなうえに寂しがり屋だから、とてもちょうどいい。一人なのに一人じゃない。

向こうでちゃんと生きてるから

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どうしようもない夜

どうしようもない夜

ケアマネ試験合格発表の日。酔いつぶれて朝を迎え、肝臓の苦しそうな声を遠くに聞きながら夜となった。祝勝会を求め、夫婦でちょっといい居酒屋にいった。

いつもなら最初の一杯はビールなのだけど、なんだか気分じゃなくてのっけから日本酒を頼んだ。日高見という、宮城のお酒だった。
お通しはポテトサラダ。水分多めのしっとりとした仕上がりのなかに、熱の通しすぎない玉ねぎの程よい食感。わけあって肝臓以上に悲鳴をあげ

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みんなすごくていいじゃんね

もっとみんな自信をもったらいいのにとおもう。本当はみんながすごいはずなのに、まるで等級ずけでもされたように、身を縮めている姿がめにつく。

「当たり前」のことを「当たり前」として扱うから、なんだか息苦しくなっちゃうんじゃないか。僕なんかいまだに源泉徴収の意味もわかってないし、会社から「記入してね」と渡された用紙は毎年わけわかめだぞ。いつも嫁さんに聞きながら恐る恐る書いている。

それをダメな奴とお

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愛しいよ、こっぺ。

嫁さんをなんで好きになったのかと言われると、なんだか説明しづらい。
いい匂いがするとか、柔らかな雰囲気とか、勤勉さとか。きっかけとなる要素はいくつかあるけど、どれも決定的じゃない。
ふわっとした「好き」を考えるうちに焦点が定まって、すっかり好きになった。そんな感じだ。ただなんというか、この人なんだろうなというフィーリングがあった。

好きが大好きになって。結婚して、4年たった。
色々なことがあった

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ねぇドラえもん

ねぇドラえもん

自分の伸びしろを見失った。

書いているうちに、これがどういう風に盛り上げられて、どういう風に落とされるかがうっすらみえる。
べつに悪い記事じゃない。自分ではいい記事だとおもって書いている。
でも、出来上がってみればいつも通りの僕の文章でしかない。

その未来が書いてる途中から見えてる。そして現実としてそれが目の前にくると、すこしガッカリする。あぁ、またいつもの自分だなぁって。

よくよくこういう

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ぴぴぷるになりたい。

「ぴぴぷる」とは、僕であって僕じゃない。

ここに書いているものは間違いなく自分が書いているものだし、そこに嘘はないけれど。
でも、実際の僕はもっと性格が悪いし汚い言葉もたくさん使う。正直、友達といる時の僕をnoteの人たちに見られたら軽蔑する人が少なくないのではと怖い。

「ぴぴぷる」というキャラクターはどこか可愛い。
なにも言わなければこのたぬきが181センチもある若ハゲとはおもわないだろう。

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自分の顔が好きですか?

自分の顔が好きですか?

自分の顔が好きだ。
僕が可愛くなりたいとか言ってられるのは自分のベースを気に入ってるからに違いない。ただ、そのぶん嫌なところが気になってしまう。

いまの僕はイケメンとは呼べないし、まったくもって可愛くない。
汚いおっさんの卵だ。それが産声をあげないように躍起になって抵抗している。ユニセックスという理想に振りきるのが遅すぎた。

整形を繰り返す人の気持ちがすこしわかる。彼等の多くは自分の顔が好きな

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土足で入ってこいよ

土足で入ってこいよ

コミュニケーションに飢えている。
それが偽物であっても、自分に向けられる好意(のようなもの)に安心感を覚えてしかたがない。

むかしからそうだった。不良のパシりに使われる時、そこに仮初めの暖かさがあるだけで惨めさと同じくらいの嬉しさがあった。自販機の前で財布をわすれて困ってるやつに奢ったことすらある。たった120円で友達のような気になれるのだから、安いもんだった。

「ナメられる」というのは僕にと

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