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深読みライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。

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2021年8月の記事一覧

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑦

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑦

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋

読み終わったか?

うん。

どうだった?

改めて読んでみると、考えてたイメージと全然違ったな…

たとえば?

一番驚いたのは「マドンナ」が全然マドンナじゃないことだ…

てっきり、寅さんシリーズのマドンナみたいなものだと思い込んでた…

その通り。「マドンナ」が登場する場面は一瞬で、セリフすらない。

名前は何度も出て来るけど、その姿

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑧

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑧

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋

何をブツブツ言ってるんだ?

さあ『坊っちゃん』に戻るぞ。

すまんすまん。

「栗泥棒の勘太郎退治」の次の武勇伝だな…

漱石はこう続けている…

この外いたずらは大分やった。

そこは「おおいた」じゃなくて「だいぶ」と読むんだ。

「おおいたやった」じゃ関西弁だよ。

失敬失敬。日本語は難しいな。

坊っちゃんは、大工の兼公(かねこう)

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑨

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑨

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋

次に語られるのは、清(キヨ)さんの度を過ぎた「坊っちゃんへの妄信的な愛」についてだな。

まずは、清が坊っちゃんだけに色々と物を買ってくれる件。

散々非人道的な行為を繰り返しているくせに自分を正義感の強い人間だと思い込んでいる坊っちゃんは、清が兄には何も買ってあげていないことを指摘し、自分だけが得をするのは公平ではないと清に訴える。

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑩

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑩

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

漱石は、いったい何の意図があって、あんなふうに書いたんだろうね?

わからん…

しかしどこかにヒントがあるはずだ…

第一章の深読みを続けよう…

母親の死後五年間は、変わらない日々が続く。

毎日のように父にしかられ、兄とケンカし、乳母のような清(キヨ)さんだけから優しくされて褒められる日々だ。

だけど同時に清さんは、口

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シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑪

シン・日曜美術館『夏目漱石の坊っちゃん』⑪

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

次に語られるのは、母親の死後6年目の出来事だ。

まず正月に父親が卒中で急死する。

母親が亡くなった時と同様に、漱石は坊っちゃんに父親の死を追悼するようなことを一切させなかった。

「おやじが卒中で亡くなった」の一言で終わりだ。

4月に坊っちゃんは私立の中学を卒業し、6月には兄が商業学校を卒業する。

おそらく官立の東京商

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑫

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑫

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

それでは、いよいよ第一章のラスト、坊っちゃんと清の別れのシーンだ…

出発の三日前、坊っちゃんは清が居候している甥の家を訪れた。

いきなり清は坊っちゃんに「いつ家をお持ちなさいます?」と聞く。

清の前のめり過ぎる質問に呆れた坊っちゃんは「おれは単簡に当分うちは持たない。田舎へ行くんだ」と答える。

清が露骨なまでに落ち込ん

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑬

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑬

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

~♬

ゴキゲンだな、クリス君。

そうさ。僕は気づいてしまった。

気付いたって、何を?

君が「うなずいていた」と言っていた、あのマドンナの目だよ。

えっ?あの掛け軸のマドンナの目のカラクリに気付いたってこと?

あれは、僕たちを見ているんだ。

それじゃあ、やっぱり『ルパン三世 カリオストロの城』みたいに…

誰かが向

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑭

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑭

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

坊っちゃんの乗った船は小さな港の沖合に停泊し、「赤ふん船頭」が操る艀(はしけ)が横付けされる。

坊っちゃん曰く「大森くらい」の小さな漁村だから、大きな船は岸まで入ることが出来ないんだね。

赤ふんの艀に坊っちゃんは勢いよく一番に飛び乗った。

陸(おか)へ上がった坊っちゃんは、磯に突っ立っていた鼻たれ小僧を捕まえて「中学校は

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑮

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑮

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

坊っちゃんが宿屋の下女に渡した「五円札」の謎は解けたけど…

坊っちゃんが下女の清さんから受け取った「壱円札」はどうなんだろう…

あっちにも何かが隠されているような気がする…

そうだな。壱円札の方も見てみよう。

えーと…

坊っちゃんが清から壱円札3枚を受け取った時の年齢は、旧制中学に通っていた頃、つまり12歳から16歳

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑯

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑯

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

それでは第二章の続きを見ていこう。

いよいよ坊っちゃんの初出勤の日だ。

逗留先の山城屋を出た坊っちゃんは、前日に人力車が通った道を辿りながら中学校へ向かった。

「四つ角を二三度曲がったらすぐ門の前へ出た」と漱石は書いている。

漱石はやけに数字にこだわるよな。

「四つ角を二三度曲がったら」とか、そんな情報は別になくても

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑰

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑰

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

まず最初に登場するのは校長。

その風貌から坊っちゃんは「狸(たぬき)」と名付けた。

「狸」は坊っちゃんに教師の任命書である辞令を渡すが、この小説が書かれている「現在」の坊っちゃんは、帰りの船でそれを海の中に捨てたと語る。

辞令って、すごく大切なものだよな?

たぶん文部大臣とか県知事のサインがあって、その人が教師であるこ

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑱「余談 風立ちぬ」

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑱「余談 風立ちぬ」

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

「別れはひとつの旅立ち」と「SAYONARA」といえば…

この歌ぞな、もし…

なるほど。松田聖子の『風立ちぬ』か。これは盲点だった。

松田聖子の本名は蒲池法子ぞな、もし。

福岡の久留米でマドンナになることを夢見ていた少女蒲池法子がアイドルになって松田聖子になり、そののち神田法子になったぞな、もし。

そんなこと言われな

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑲「余談 風立ちぬ partⅡ」

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑲「余談 風立ちぬ partⅡ」

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

『坊っちゃん』を読み解く鍵は『風立ちぬ』にある…

どうやら、おせいさんの虚言妄言というわけではなさそうだな…

うん。僕もそう思う。

木又先生から習った『深読みアート論 堀辰雄の風立ちぬ』を、もう一度よく思い出してみよう。

何か手掛かりがあるかもしれない。

堀辰雄
1904年(明治37)- 1953年(昭和28)

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シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑳「余談 風立ちぬ partⅢ」

シン・日曜美術館『深読み 夏目漱石の坊っちゃん』⑳「余談 風立ちぬ partⅢ」

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1989年5月某日(日曜)午後
藪蔦屋 りうていの間

堀辰雄の小説『風立ちぬ』の序章「序曲」は、フランスの詩人ポール・ヴァレリーの引用から始まる。

Le vent se lève, il faut tenter de vivre.
PAUL VALÉRY

「序曲」は、その言葉の後にこう続く。

「私」が「お前」と呼ぶ人物の仕事は「絵描き」であり、「私」は日中の間ずっと「お前

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