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OMOI-KOMI 我流の作法 -読書の覚え-

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私の読書の覚えとして、読後感や引用を書き留めたものです。
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2022年8月の記事一覧

随筆 上方落語の四天王 ― 松鶴・米朝・文枝・春団治 (戸田 学)

随筆 上方落語の四天王 ― 松鶴・米朝・文枝・春団治 (戸田 学)

 私は落語が好きです。
 特に上方落語は大好きです。一番の贔屓はなんと言っても二代目桂枝雀師匠ですが、本書で紹介されている「四天王」、彼らが現役バリバリの頃の高座は(テレビではありますが)よく見ていました。四者四様、それぞれの個性が光る流石の話芸でしたね。

 本書では、落語にも造詣の深い作家戸田学さんが、その名人たちの芸の特徴や魅力を、それぞれの得意演目を材料に詳細に紹介していきます。

 まず

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新・堕落論 ― 我欲と天罰 (石原 慎太郎)

新・堕落論 ― 我欲と天罰 (石原 慎太郎)

(注:本稿は2011年に初投稿したものの再録です)

 この前、エンゲルスの「空想より科学へ―社会主義の発展」を読んだかと思うと、今度は石原慎太郎。いかに私の読書が濫読かということを端的に表していますね。我ながら節操のなさにあきれます。

 石原慎太郎氏は、私情では共感できるところの少ない政治家ですが、とはいえ氏の著作は真っ向から読んだことがありませんでした。本書も “食わず嫌いを無くす” との心

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空想より科学へ ― 社会主義の発展 (フリードリッヒ・エンゲルス)

空想より科学へ ― 社会主義の発展 (フリードリッヒ・エンゲルス)

空想的社会主義 先に読んだ「人間と国家」という本の中で、著者の坂本義和氏が影響を受けた本として紹介されていたので興味をもって読んでみました。
 社会主義関係の本はまず手にとったことはありません。もちろんエンゲルスの著作も初めてです。

 さて、本書ですが、エンゲルスが、マルクス理論を批判するデューリングへの反論として著した論文「反デューリング論」のエッセンスを労働者向けのパンフレットに取りまとめた

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「時間」の作法 (林 望)

「時間」の作法 (林 望)

 タイトルがちょっと気になったので手に取った本です。

 林望さんの著作は「日本語は死にかかっている」「薩摩スチューデント、西へ」等エッセイや小説など何冊か読んでいますが、今回のものは、文学的な風情を感じる余韻が少ないですね。正直な言い方が許されるならば、こういった趣きのエッセイなら、あえて林望さんのものを選ぶこともなかったように思います。

 今回の著作で私としてはちょっと意外に感じたのが、林望

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ウルトラマンになった男 (古谷 敏)

ウルトラマンになった男 (古谷 敏)

 いつも行っている図書館の返却棚にあった本です。

 私は、まさに「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で育った世代なので、タイトルを見た瞬間に手を出していました。

 著者は、初代ウルトラマンを演じた古谷敏さんです。
 私にとってのTV番組のルーツでもある「ウルトラマン」の製作にまつわるエピソードがそれこそ山のように紹介されています。

 古谷さんは、最初、東宝ニューフェースに合格した

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とんでもなく役に立つ数学 (西成 活裕)

とんでもなく役に立つ数学 (西成 活裕)

 著者の西成活裕氏は数理物理学者。「渋滞学」で有名になり、最近はマスコミへの登場の機会も増えていますね。

 西成氏の著作は以前「クルマの渋滞 アリの行列」という本を読んだことがあります。そこでは、「自己駆動粒子」というコンセプトを用いて渋滞発生のメカニズムを紹介していました。

 本書は、その西成氏が現役高校生を相手に、身近な課題を解決するための「数学的思考方法」を解説したものです。
 登場する

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方丈記 (鴨 長明)

方丈記 (鴨 長明)

 食わず嫌いという点では、日本の古典もあまり読んでいないジャンルです。

 今回は鎌倉期の随筆、鴨長明の「方丈記」。
 岩波文庫で薄かったので手にとってみました。現代語訳はついていないのですが、和漢混淆文である上に注釈も適切だったので、私レベルでも何とか(最低限の)意味はとれたかなという感じです。しかしながら、この歳になって、これほど有名な作品も通読したことがないというのは恥ずかしい限りです・・・

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随感録 (A. ショーペンハウアー)

随感録 (A. ショーペンハウアー)

 ショウペンハウエルの著作は、以前、「読書について」「知性について」あたりを読んだことがあるのですが、本書はショウペンハウエルのいくつもの随筆を採録したのものです。

 まずは、初章「判断、批評、喝采ならびに名声について」から、いかにもショウペンハウエルらしい語り口の一節です。

 ショウペンハウエルに言わせると、カントは偉人・哲人であり、ヘーゲルは似非哲学者となります。
 優れた先人の後に登場す

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人間と国家―ある政治学徒の回想(上・下) (坂本 義和)

人間と国家―ある政治学徒の回想(上・下) (坂本 義和)

(注:本稿は2011年に初投稿したものの再録です)

原点 大学4年のとき、本書の著者坂本義和先生の国際政治のゼミをとっていました。もう30年ほど前、ちょうど第二回国連軍縮特別総会(SSDⅡ)が開催された頃です。

 本書は、坂本先生の少年時代から現在にいたるまでの回顧録。大変興味深いエピソードが多数綴られています。

 そのなかから、まず先生が東大助教授のころのアメリカ留学時の記述です。
 シカ

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夜叉ヶ池・天守物語 (泉 鏡花)

夜叉ヶ池・天守物語 (泉 鏡花)

 教科書にも出てくる作家の作品を実はあまり読んだことがない・・・、その反省から先般も島崎藤村の「夜明け前」を読んでみたのですが、本書はその流れです。

 今回は「泉鏡花」の短編戯曲。
 妖怪と人間との絡み合い、鏡花の描く世界の中では人間界の方が不可解、魔界の方が純粋なようです。

 ストーリーものなので、過度な引用は避けますが、「天守物語」より1カ所、そういった人間界のしがらみや思いあがりに触れた

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天災と日本人 寺田寅彦随筆選 (寺田 寅彦)

天災と日本人 寺田寅彦随筆選 (寺田 寅彦)

(注:本稿は2011年に初投稿したものの再録です)

 今般の東日本大震災を機に、改めて災害に対する備えとそもそも災害も含めた自然観を振り返る意味で手にとった本です。

 著者は物理学者であり随筆の達人寺田寅彦氏。
 日本列島の地勢の特殊性を踏まえ、自然科学を礎としつつも日本人論にも踏み込んだそれぞれの作品は、今読んでもなお大変示唆に富むものです。

 本書の最初に掲げられた随筆「天災と国防」には

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ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体 (菅原 出)

ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体 (菅原 出)

(注:本稿は2011年初投稿したものの再録です)

 ウィキリークスにより夥しい量の機密外交文書がオープンにされて約1年。本書は、「ウィキリークス」とその創設者「ジュリアン・アサンジ」をテーマにしたノンフィクションです。

 従前の軍事・外交における「常識」を根底から覆し世界に激震を走らせたウィキリークスですが、その特異な行動の目的について、アサンジはこう語っています。

 ウィキリークスで公開さ

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夜明け前 (島崎 藤村)

夜明け前 (島崎 藤村)

第一部から 木曾山中の苦悶 教科書にも載っているような有名な作家の代表作品は数多くありますが、正直なところあまり読んでいません。それではまずいということで、機会をつくって少しでも手にとってみようと思っています。
 さて、今回は島崎藤村の「夜明け前」。
 恥ずかしながら、この歳になって初めて読みます。

 書き出しはとても有名です。

 幕末から明治初期を舞台にした本作品の主人公は半蔵。
 半蔵は馬

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サンデル教授の対話術 (マイケル・サンデル)

サンデル教授の対話術 (マイケル・サンデル)

 「ハーバード白熱教室」で大いに話題になったM.サンデル氏の教授法について、氏自らが語ります。
 本書の後半は、サンデル氏と交流の深い千葉大学小林正弥教授によるサンデル氏の講義術の解説となっています。

 さて、最も気になる、サンデル氏の「ソクラテス方式」と呼ばれる対話中心の授業スタイルの誕生の背景についてですが、本書の前半のインタビューの中でこう語っています。

 さらに、この教授法の目指すとこ

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