天災と日本人 寺田寅彦随筆選 (寺田 寅彦)
(注:本稿は2011年に初投稿したものの再録です)
今般の東日本大震災を機に、改めて災害に対する備えとそもそも災害も含めた自然観を振り返る意味で手にとった本です。
著者は物理学者であり随筆の達人寺田寅彦氏。
日本列島の地勢の特殊性を踏まえ、自然科学を礎としつつも日本人論にも踏み込んだそれぞれの作品は、今読んでもなお大変示唆に富むものです。
本書の最初に掲げられた随筆「天災と国防」には、寺田氏によるまさに耳に痛い指摘が開陳されています。
また、同様のコメントは、過去二度にわたる三陸地方を襲った津波を題材にした「津波と人間」においても「科学の方則」として言及されています。
寺田氏は、科学者として「科学の有用性」を訴えながら、それを謙虚に行動に活かすことができない「人間」「社会」に警鐘を鳴らし続けました。
その背景には、文明と災害との関係性の思想があります。
未開の頃は災害があってもその範囲は限定的であり、その被害からの再生も容易でした。しかしながら、文明が進歩し都市が構造化され、それを支える社会インフラも複雑化している今日では、災害が社会生活に与えるダメージは過去と比較にならないくらい甚大なものになっているという指摘です。
まさに、今回の東日本大震災とそれに伴う福島原子力発電所事故は、寺田氏の危惧がそのまま現実化されたものだといえるでしょう。
この「災難雑考」の章で述べられている寺田氏の主張は、まさに東日本大震災の被害を目の当たりにしている今、なおさらに活きる至玉の箴言だと思います。
さて、本随筆集の終章は「日本人の自然観」というタイトルの小文です。
その中から、いかにも寺田氏といった感性と筆致が現れているくだりを最後にひとつご紹介します。
この多種多様な、寺田氏流の表現では「慈母」と「厳父」の性格を併せ持った日本の自然風土が母体となり、大陸の辺境に位置する日本人独特の日常生活・精神生活が生起したとの説です。
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