随筆 上方落語の四天王 ― 松鶴・米朝・文枝・春団治 (戸田 学)
私は落語が好きです。
特に上方落語は大好きです。一番の贔屓はなんと言っても二代目桂枝雀師匠ですが、本書で紹介されている「四天王」、彼らが現役バリバリの頃の高座は(テレビではありますが)よく見ていました。四者四様、それぞれの個性が光る流石の話芸でしたね。
本書では、落語にも造詣の深い作家戸田学さんが、その名人たちの芸の特徴や魅力を、それぞれの得意演目を材料に詳細に紹介していきます。
まずは、「第1章 米朝落語の考察」。
三代目桂米朝師匠は、端整な語り口で人気を博した上方落語界初の重要無形文化財保持者(人間国宝)です。滅びつつあった噺の発掘に尽力した研究熱心さでも有名な方です。
私も米朝師匠の落語は大好きで、CD「桂米朝 上方落語大全集」も持っています。
やはり、絶品は「百年目」ですね。終盤の番頭を諭す大旦那の何ともいえない話しぶりは米朝師匠ならではです。「たちぎれ線香」も素晴らしいのですが、こちらはとても悲しい話でよほどのことがない限り聞き直しません。
続いて第二章で登場するのは、六代目笑福亭松鶴師匠。
だみ声とやんちゃそうな立ち居振る舞いで強烈な印象を残した名人です。
この米朝師匠の言葉にも頷かされます。垢抜けないくちゃくちゃな表情が懐かしいです。
三番手は五代目桂文枝師匠。
私の記憶にあるのは、小文枝当時の姿ですね。
大人びたこましゃくれた物言いの反面、ちょっとしたところで子どもらしさを露呈するようなあどけない姿の描写は、あの甲高い声と相俟って確かに絶品でした。
そして、トリは三代目桂春團治師匠。
「春團治」の名の印象とは異なり上品な語り口の名人です。
本書では巻末に、上方の四天王に加えて、古今亭志ん朝師匠を主人公にした小文が載せられています。
東京の落語家にしては珍しく、志ん朝師匠は大阪のお客さんにも受け入れられていました。それは、志ん朝師匠が心底大阪を愛していたからでした。その故のひとつが、六代目笑福亭松鶴師匠の存在だったそうです。
東京の落語家で近年の名人上手といえば、やはりこの三代目古今亭志ん朝師匠は外せません。志ん朝師匠のこざっぱりとした粋な芸、特にこの人の演じる「若旦那」は見事ですね。
最後に本書の印象ですが、とても丁寧にそれぞれの名人上手の芸を分析・説明してくれています。
著者は本当に「四天王」が大好きだったのだろうと思います。その私淑の想いが十分に感じられる内容でした。
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