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方丈記 (鴨 長明)

 食わず嫌いという点では、日本の古典もあまり読んでいないジャンルです。

 今回は鎌倉期の随筆、鴨長明の「方丈記」
 岩波文庫で薄かったので手にとってみました。現代語訳はついていないのですが、和漢混淆文である上に注釈も適切だったので、私レベルでも何とか(最低限の)意味はとれたかなという感じです。しかしながら、この歳になって、これほど有名な作品も通読したことがないというのは恥ずかしい限りです・・・。

 冒頭はもちろんこの有名なくだりから。

(p9より引用) ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世中にある人と栖と、又かくのごとし。

 本書は言うまでもなく「無常」をテーマにした自伝的随筆ですが、その半ばは、鎌倉期の都にて、長明が実体験した大火・竜巻等々の天変地異についての記述が続きます。
 その度重なる災厄の中での人の情をとらまえた視点、治承5年(養和元年・1181年)、都が大飢饉に襲われた際の記述です。

(p20より引用) さりがたき妻、をとこもちたるものは、その思ひまさりて深きもの、必ず先立ちて死ぬ。その故は、わが身は次にして、人をいたはしく思ふあひだに、まれまれ得たる食物をも、かれに譲るによりてなり。されば、親子のあるものは、定まれる事にて、親ぞ先立ちける。

 このころ都は大地震にも見舞われました。元暦2年(1185年)7月のことです。

(p22より引用) そのさま、世の常ならず。山は崩れて河を埋み、海は傾きて陸地をひたせり。土さけて水わきいで、巌われて谷にまろびいる。渚漕ぐ船は波にただよひ、道ゆく馬は足の立ちどをまどはす。・・・地の動き、家の破るる音、雷にことならず。家の内にをれば、忽ちにひしげなんとす。走り出づれば、地われさく。・・・おおかたそのなごり、三月ばかりや侍りけむ。

 「海は傾きて陸地をひたせり。」、文治地震は畿内中心に大きな被害をもたらしたとのことですが、大津波も発生したのですね。簡潔な表現ではありますが、風景が浮かびます。まさに今回の東日本大震災を思い起こす描写ですね。

 方丈記での長明の筆は、こういった当時の災厄の述懐のあと、自分自身の隠遁生活での思いの吐露に移っていきます。
 長明54歳のころ、本書のタイトルでもある「方丈」の庵を結びました。

(p34より引用)おほかた、この所に住みはじめし時は、あからさまと思ひしかども、いますでに五年を経たり。・・・たびたび炎上にほろびたる家、又いくそばくぞ。ただ仮の庵のみ、のどけくして恐れなし。程狭しといへども、夜臥す床あり、昼居る座あり。一身を宿すに不足なし。

 さて、この方丈記、本文だけだと文庫本で30ページほどの小品です。解説や注釈によると、その中に古今の古典・漢詩・和歌等に由来する表現が数多く散りばめられているとのこと。
 ただこのあたり、当然のことながら私のような薄学では思いも至らず、作品の理解という点では全く不十分、その楽しみも半減以下という体たらく。
 何ともはや情けなく、また残念でもあります。



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