言葉の螺鈿細工による奇跡の匣
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言葉の螺鈿細工による奇跡の匣

書評:竹本健治『涙香迷宮』(講談社)

「面白い」などというありふれた言葉の対象とはならない、脅威の一書。

小説は「面白くなければならない」というのは、俗説である。
実際、人が何を面白いと思うかは千差万別であり、面白さとは実質的に内容規定など出来ず、せいぜい「知的に快感を惹起する特性」というくらいのことしか言えない。したがって、昨今流行の「通俗的娯楽性」だけが面白さではない。人によってはピカソも面白いし、別の人にとってはホーキングが面白い。

そうした意味でなら本書も「面白い」のだが、その面白さは「超人的に圧倒的なもの」として、「面白い」という言葉を超えてしまっているところがある。
ここに差し出されたものは、名匠の超絶技巧によって造られた精妙巧緻・至微至妙な、七色に変幻する言葉の螺鈿細工、つまり「いろは歌」暗号による驚異の匣である。

読者は、本書を手にとって、ただただ圧倒されるといい。
「こんなものを書ける人が存在したのか」と、目眩をともなう溜息を禁じ得ないであろう。

本書は間違いなく、日本の本格ミステリ史に残る、暗号ミステリの歴史的傑作である。

初出:2016年3月19日「Amazonレビュー」











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ありがとうございます。お返しもできない不器用な奴ですみません。
その名のとおり、読書が趣味で、守備範囲はかなり広範ですが、主に「文学(全般)」「宗教」「社会問題」に関連するところ。昔から論争家で、書く文章は、いまどき流行らない、忌憚のない批評文が多い。要は、本音主義でおべんちゃらが大嫌い。ただし論理的です。だからタチが悪いとも言われる。