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八百比丘尼の窟を訪ねる-常春に倦みし君の-
今は昔、ある若者が、
隣村で賭け事をして酒を飲んだ帰りに喉が渇き、
林の陰にある名水の泉を飲むべく回り道をした。
十六夜の月影が梢より漏れ、
夜来の風が松籟を鳴らす他には何の音もない。
泉にたどり着いた男は、玉のような肌をした女の裸が、月明かりに浮かぶのを見た。
それは、世間にあればさぞ浮名を流したであろう、美しい尼僧が水浴びする姿だった。
口元に、何か閃くものがある。
尼僧はそれを手に取る
吹割の滝を訪ねる-昭和の精霊-
吹割の滝の帰り道、みやげ物屋が並ぶ坂道の途中に囲炉裏を見つけた。
岩魚や山女が焼かれ、炉の周りには男根を模した木偶や大黒天の木像が、
酒壺と共に無造作に置かれている。
自在鉤や横木の魚、天井からぶら下げられた白熱灯のコードには、
煤と脂がびっしりこびりついていた。
興味本位で覗いたところ妙に居心地がよかったので、
休憩がてら腰を下ろし、ところてんを頼んだ。
店の奥の掘りごたつにギターが二本、裏
吹割の滝を訪ねる―龍宮の面影-
孔雀石を溶いたような緑青の淵。
花崗岩と凝灰岩の川床が、
陽光を受けて金銀のまだらに光る。
流れの真中に亀のように横たわる浮島。
巌から伸びる赤松の梢。
木陰に佇む観音堂。
絡みつ解れつ水面を滑る銀の綾が、
ついに縒り合わさって千条の糸となり、
轟轟としぶきを上げる滝つぼへと、
まっさかさまに落ちていく。
かつて吹割の滝つぼは龍宮に通ずると言われていた。
近隣の村民は、祝儀などの振舞ごとがある