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【恋愛小説部門応募中】私のために綴る物語(1)

あらすじ

澤田多香子は28歳、サッカー観戦を通じて知り合った夏川史之32歳と付き合い恋人となっていた。結婚も頭をよぎる様になっていたが、多香子はあまり前向きには考えられていなかった。お互いの感情がすれ違う予感もはらむ様になっていた。
 そんな時に多香子は同窓会で高校時代は微妙な関係の塚嶺正弘と再会する。その再会は史之との関係を揺り動かすが、多香子にとってはかけがえのない人であることには違いなかった。そんな多香子は好奇心から新たな出会いを出会いを求めた。その出会いは多香子を変えていく。


第一章 10年ぶり(1)

 
一通の往復はがきが多香子のもとに届いた。
「高校を卒業して10年経ちました。アラサーになったところで、皆さん再会しませんか。3年5組のクラス会です……」
 往復はがきね。まぁメールを登録しているわけじゃないから、仕方ないよね。
 そうだ、ラインの友達の様子を見てみよう。
「ねぇみんなはがき来た?」
 亜由菜がもう書き込んでいた。
 あぁとっくに上がっていた。よかった気がついて。
「来たよ。みんな行くよね」
 自分も書き込んだ。
「うちにも来たよ。大丈夫行けそうだから」
 真里から返事が来た。他にも夕梨花や澄子からも「出席するよ」と言う書き込みがあって、このグループの全員の参加がわかって楽しみが膨らんでいた。
「それにしても、ドレスコード付きとは。結婚式会場を使ってやるなんて、幹事のこの晴之とかっておかしいよね」
「そうそう、孝正が結婚式場で働いているって。だからじゃない」
「真純、くわしいね」
 夕梨花がつっこんでいる。多香子は「この前のいとこの結婚式で着たドレスがあるから良かったよ」と書き込んでいた。そうして、クラス会の前に集まれる人でお茶をしていこうとまとまった。楽しみが増えていった。

 クラス会には、正装したアラサーとなった元高校生が集まった。多香子は亜由菜や真里、澄子、夕梨花達と揃って会場に向かった。みんな結婚式で着たドレスを再び着るいい機会にと張り切っていた。
「同窓会だって、男子を漁ろうだなんて思っていないからね」
 多香子はふっと思ったことをいい出した。
「まぁ、出会いがないからと言ってね」
 警察官になっていた真里も続けた。
「そう、結婚しているのに引っかかるのだけはごめんだもの」
 夕梨花も元気な声で言った。

 そんな風に色々いいながら会場につくと、タキシード姿の幹事の森島晴之が迎えていた。
「どうぞ、入って、入り口にある席順表と名札を持ってね」
 もう一人の幹事の春木孝正からセットで受け取ると席順を確認した。
「結構バラバラに座るんだ」
 澄子が残念そうに言った。
「仕方ないよね。こっちはまた女子会やろうよ」
 多香子はそこにいたグループのメンバーに声をかけた。
「そうだね。多香子がやっとラインに入ってくれたんだし」
「はいはい、確かにメールじゃご迷惑をおかけしました」
「そうだ、冬海もラインに入ってよ」

 真里が冬海に声をかけた。彼女も修学旅行の時のメンバーだった。うちの高校は修学旅行が高校生活のメインイベントだった。1年の時から行く先を決め、2年になるとクラスごとに旅程を組んで、班ごとに行動をする。だから、修学旅行の思い出は同じ班でないと、少しずつ違う。
 みんな立派なスーツやパーティドレスを着て、華やかな会になっていた。

 皆が席についたのを確認すると幹事の森島が立った。
「皆さん、グラスを持ちましたか、卒業10周年おめでとうございます! 先生を呼べなかったけど楽しくやりましょう! では、かんぱーい!!」
「乾杯!」
 そうして、場が盛り上がってくると、席を移して思い出話に花を咲かせていた。

 多香子はなんとなく動くこともなく、適当な飲み物をもらっていた。隣に冬海や澄子がきて近況を話していると、いつの間にか前に塚嶺が座り、二席空けた所に時田が座った。
「塚嶺くん、私さ、本当に好きだったんだよ」
 時田が絡みだした。
「だから、修学旅行に行く前に、女子が皆いるところで、私は塚嶺くんが好きだから協力してって言ったくらいなのに」
「えっ……」
 塚嶺はものすごく困った顔で、上目遣いで眼の前の多香子を見た。

 塚嶺の方を見ていた多香子は、高校時代の事を思い出していた。もしかして彼は……。そして、助けてあげられなくてごめんねと思っていた。それくらい真剣な目をしていた。

 でも、話に入るわけにもいかないので、塚嶺と時田のことはほっておいて、多香子は隣の冬海や澄子との話に花を咲かせていた。
「全く良い出会いがないんだよね」
 冬海がぼやいていた。
「出会いなんてさ、自分で作るしかないよ」
 多香子は遠くを見る目をしていた。
「結構価値観というか、似た環境で育った人がいいと思うんだよね」
「それわかる。趣味って大事」
 澄子がちょっと声を高くしていった。
「まぁね。でも、彼も同じ趣味だと誰も止める人がいないから」
 多香子が考えてみたようだった。少し気が抜けていたようだった。
「多香子は旅行だらけだもの」
 冬海が続けて言った。
「彼と今度はどこに行くの」
「うん、明日は日帰りで福岡」
「本当に多香子と話をすると地理感覚がおかしくなるよね」
 三人で笑い合っていた。その様子をなんとなく見ている人物がいたことに、気が付かなかった。
 そうして幹事の春木がこの会の終了を告げた。


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