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【恋愛小説】私のために綴る物語(58)

第十章 責め絵の女(7)

 先に行った二人が4人がけの半個室の席にいたので、史之と多香子も合流した。

 一緒に和定食のハーフバイキングといったものを頼んで、話をしながら食べた。史之はおもむろに、槇村に向かって言っていた。
「あのー、槇村さんにお願いが。僕を弟子にしてくれませんか」
 多香子は呆れていた。
「それって、大丈夫かな。多香子さんすごく不機嫌だけど」
「不機嫌になるようなことをしてしまったんです。これからのためにも、僕は知っておいた方が良いと思ったんです」
「君の中の加虐性愛か」
「そんなところです。それにあなたは、女子の妄想を具現化しているって、多香子は言うんです。それにも興味があって」
「緊縛ですよ。たぶん」
「えっ」
「今度、皆で見に行きましょう。ご招待します」
「なんか楽しみが増えた感じ、ねぇ文華さん」
「本当に、こういう事も起きるんだなぁって」
「で、史之。縛りを覚えるつもりなの」
「そうしようかなぁ」
「良いと思いますよ。きちんと覚えれば心のコントロールも含めて、安全にできるはずです」
「はぁ、そういうものですか」
 史之は間の抜けた声で言った。それを聞いて皆で笑っていた。
「ねぇ、多香子さんどうせなら、私達はM嬢に弟子入するってどう」
「いいかも、そのお話興味はあるかな」
「多香子さんにはM嬢は無理だと思いますが」
「文華にも無理ですよ。この二人は珍獣に猛獣」

 史之は大笑いをしていた。史之を睨みつけていた、多香子と文華は不満たっぷりだった。

「ふーちゃん、珍獣と猛獣って、どういうこと」
「あぁ、多香子が珍獣で、文華が猛獣。ぴったりだろう。まぁどっちも気が強いから、大人しくなる方法を見つける意味で、M嬢に弟子入するのは良いかもしれないな」
「史之なんていつもこんな調子なんです。槇村さんをやめて、晴久さんで良いですか。やっぱり話しづらくって」
「僕も仲間入りできるの嬉しいですね。史之くんでいいかな」
「僕も嬉しいです。これで、もう友達だと思いますよ。文華の彼氏になってくれると、もっと嬉しいですけど」
「そのことは成り行きに任せます」
「私はもっと知り合いたいですけど」
「それじゃ、ジュースですけど、乾杯しますか」
 史之が皆に声をかけていた。すると、多香子はグラスをもって景気よく声を上げた。
「新しいつながりに乾杯!」

 4人のグラスが持ち上げられた。新しい関係の一歩がこうして作られようとしていた。

「晴久さん、史之の加虐性ってどういうことなんですか。サディストということですか、支配をしたい人ってことですか」
「多香子さん、随分畳み込むね」
 晴久は苦笑いをしていた。多香子は確かに焦っていたと、落ち着こうと思った。
「程度の差があるけど、いじめたいとか抑え込みたいという感情は、多少とはいえ強いかもしれないと、言ったことがあるんだ。君のような気の強い女性に対してはね」
「多香子が勝手なことを言ったり、自由気ままに振る舞うさまを見て、力ずくで押し込む事があるだろう。そんな時、僕は多少なりとも欲情をして満足もする。それが度を越さないように、すべきじゃないかと、思うようになったんだよ。同意と合意が必要だとね。その延長線上に緊縛を教わる。別に多香子を支配しようと思っているわけじゃない。逆だ」
「わかった。縛ってもらいたいって妄想実際あるんだし。それが好きな人、信頼できる人だったらうれしいよね」
 多香子は文華に笑いかけていた。
「そうだよね。実は私もするよ、妄想」
 文華は晴久に向けて微笑んでいた。それを見て史之は安心していた。

 モーニングを食べ終わると4人で部屋に戻り、晴久からの招待を楽しみにしていると言って、多香子と史之は二人と別れて車に乗った。

「一緒に行ってほしいところがあるんだ」
「どこ、この近くなの」
「結構近くだね。あ、もうすぐだ。ここで降りて、歩いていこう」
「へぇ、静かなところだね。ここだけ」
「ここだ。入ろう」
「凄いお屋敷な美術館」
「東京都庭園美術館だ。すごいだろう。多香子は来たことなかったのか」
「うん。話は聞いたことあるけど、見たのは初めて」
「ここが僕の原点なんだ。ルネ・ラリックを埋め込んだ扉とか、窓、手すりまですべてが芸術品だ。庭を含めてここに来ると、背筋が伸びる気がする。100年後も感動する建物を作りたい。そう思ったんだ」
「それで、近代建築の保存と研究ね」
「僕は今やれるだけやりたい。多香子が側にいてくれたらできる気がする」
「わかった。一緒に。ずっとね」

 照れたように笑った多香子が、僕のそばにいてくれれば、こんなに心強いものはない。史之の中にちょっとした強さのようなものが、沸き起こっていた。

「多香子、帰ろう。そうすれば僕らだけの時間が来る」
「史之、沼の入口だよ。抜け出すのは不可能だからね。覚悟してよ」
「大丈夫、多香子とでなければ、落ちていけない」

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