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【恋愛小説】私のために綴る物語(2)

第一章 10年ぶり(2)

 クラス会が終わって、2次会に行く人帰る人のそれぞれに分かれていた。そんな中、多香子はこれで帰ろうとしていた。
 多香子は、皆と別れて駅に向かった。帰るのは自分を含めて5。6人かと思った。最寄り駅にはJRと私鉄と地下鉄があって、帰るのは一人になりそうだった。
 私鉄の駅につくと、「ちょっと待てよ」と声がして、思わず振り向いた。さっきの話題の主の塚嶺正弘がそこにいた。

 多香子はさっさと終わらせて、帰りたかった。なのに、どうしてとそればかり考えていた。
「さっきの話、澤田はどうだったんだ。聞かせてくれよ。それくらいいいだろう」

 多香子は、はぁ~とため息をついていた。こんな人がいるところでやり取りをしているのも迷惑だし、恥ずかしい。さっさと終わらせるには、塚嶺の言う通りにしたほうが、早く帰れそうだと思った。

「わかった。後1時間で帰る。それでよかったら付き合う」
「だったらこっちに。たまに行く店があるんだ」
 そう言って、連れてこられたのが、少しレトロで落ち着けるバーだった。

「僕はウィスキーの水割り。澤田は何」
「テキーラ・サンライズをください」
 オレンジジュースのグラデーションがきれいで、テキーラは強い酒だが、なんとなく好きだった。
 二人の注文したお酒はすぐに運ばれてきた。一緒につまみとして、スティックサラダと鉄板に載せられたソーセージを頼んでいた。
「なんかいい感じのお店。たまにって彼女と?」
「一人で来る」
「ふーんそうなんだ。それで、話って、時田さんのこと? 修学旅行の時にみんなで応援するって話」
「あんなに絡まれると思っていなかったから。でも、助けてほしいと澤田を見たら、澤田も俺を見てた」
「あれは、塚嶺くんが、大変だなぁって思っただけで、特に」

 いや、少し違うあれは、自分に好意があると感じられる目をしていた。でも、時田さんの手前で気が付かないふりをしていた。

「だって、時田さんあんなに可愛いのに。もったいないなって思ってたから」
「俺は澤田と同じ班でうれしかった」
「こっちはすっごく気を使って大変だった。男子と別行動のときぐらいだった。普通にできたの」
 多香子はひたすら、どうしてこんな風になった。そればかり考えていた。
「それってもしかして」
「そう、なんとなく気がついていた。だって、新幹線の椅子を蹴ったりして、こっちを向かそうとしてたでしょ。けど、時田さんの応援があるから距離を取ると決めていたの」
「……」
「いい。私は塚嶺くんとは何にもないのに。気を使う理不尽に耐えてたの」
「……」
「わかった? じゃあ帰るね。さようなら」
 そう言って多香子は2000円を置いて席を立とうとした。

「そんな気を使わなくても」
「奢られる言われはないし、そもそも親しくない人に奢られたくない」
「はぁ、俺は10年かかって振られるとは」

 大げさに塚嶺はため息をついてみせた。多香子はわざとらしいとしか思えなかった。
「メッセージのIDを教えてくれないか」
「えーっ。メッセージは友達限定だし」
 塚嶺は本当に、興味を持たれていなかったのかと、気持ちが落ちていった。
「俺は友達以下なのか」
「高校のただのクラスメイトでしょ」
「俺にとっては、10年片思いの相手。もう少し懐かしんで欲しいな」
「だから何って感じ。クラス会での懐かしさから、誰かをものにしたい人だったんだ。だったら、なおさら、これでさようなら」
 多香子の素っ気ない言い方に、流石に弱気になっていた。
「メールでいいよ。スマホのメールなら」
「スマホのメールは家族にしか教えていない、残念ながら」
「もう、PCのメールでいいよ」

 多香子はカバンから手帳を出すと、名前とメアドだけ書かれた名刺をだして、塚嶺に渡した。

「それじゃ、帰るね」
「待てよ、駅まで送る」
 塚嶺は少し慌てて、店の会計を済ました。そして、500円を多香子に渡した。
「おつり、もらいすぎる理由がない」
 多香子は素直に受け取った。500円でも貴重なお金に違いない、これでコーヒー屋さんに行けるのだし。
「ありがとう」

 笑った多香子に、塚嶺は体が熱くなるのを感じていた。
 10年前の思い出が浮かび出てくる。
 人通りの少ない道で駅まで行こうと、ふと思った。

「こっちを行こう。近道だし」
 歩いていくとちょっとした公園があって、ベンチが置かれていた。塚嶺は腰かけると多香子を引っ張って座らせた。
「どうしたの、まさか、デートDVしようってこと。送り狼ってやつ」
 多香子は明らかに不満を持っていた。強い言葉が続く。
「相変わらず減らず口叩くな。ああ言えばこう言う」
「それがどうしたの。彼氏もいるって言ったはず」
「君が言ったわけじゃないだろう。匂わせただけだ」
「じゃあここで言う。明日は彼とデートなの」
「彼氏がいるからどうだって、言っていいだろう、俺は」
「わかった。後はメールで」

 多香子は少し怒りをおばえていたが、冷静になろうと心がけた。
 塚峯は残念そうだったが、多香子の表情が緩んだのを見て、抱き寄せていた。
「これくらいいだろう」

 多香子はなぜか嫌だとは言えなかった。少し塚嶺の真剣さが伝わってきた気がした。でも抱き合うのは違うと思って、手を回すことはしなかった。

「じゃぁ、これで。もういい。彼女さんか奥さんに悪いよ」
 そう言うと、多香子は立ち上がり、駅へと歩きだしていた。塚嶺はもう追いかけるのをやめていた。
「彼女もいないし、結婚もしてない」
 その声が聞こえたのか、多香子は振り向いていた。でも、少し見合ったところで、また歩きだした。


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