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【恋愛小説】私のために綴る物語(40)

第七章 初めての秘密の痛み(5)

「目を閉じろ」
 手ぬぐいを手に持つと、多香子に口を開けさせて、猿轡の手ぬぐいをつけていた。次に抱き上げて、壁にあった金具に腕の縄をかけて足のつく高さに調整していた。また着物の合わせを直して、肌の露出を最小限にした。
「さぁ、目を開けるんだ。大丈夫。割り竹とは全然違っていたくないから。これが僕の今の愛情表現なんだ」
 鞭を何種類か持ってきて、見せつけていた。
「どれが良いかな、好きなのを選ばせてあげるよ」

 多香子はただ目を丸くして驚いていた。選べと言われても、痛くないものというのはどういうものだったか。考えたが、好きな数字で選ぶしかないと思った。そこで、房になっている柔らかそうな3番目のものでうなずいた。晴久は残念そうな顔だったので、当りかと思った。

「多香子は本当に思い切りの良い女性だ。僕が一番当てたかったものを選ぶとは」
 晴久は笑いながら近づいてきて、手ぬぐいを外すと、多香子の両頬を手ではさみ何度も息が続く限りの口づけを交わした。何度目かで声が漏れると、そこでやめた。そして、手ぬぐいを戻していた。

「やっぱり、多香子にはお仕置きが必要だ」
 振り上げられたものがうち当てられたが、多少の衝撃はあったものの、痛みは殆ど感じなかった。何度か打ってみて、反応の薄いことに飽きたようで、その鞭で体を撫で始めた。あまりのくすぐったさに耐えきれなくなって、喘ぎだしていた。

「この使い方のほうが正しかったようだね。どうだ、多香子が僕にした仕打ちを認めて、謝ったら止めてやる」
 多香子は首を横に振っていた。
「全く君は強情だな」
 今度は裾をたくり上げ、肩を露わにして、胸が見えるようにしていた。敏感になっていたところを、もてあそぶように微妙な距離で触れさせると、喘ぎ声がすすり泣く声になっていた。それでも首を横に振る多香子に向けて言った。
「そうか、感じてるから止めてほしくないんだな。それじゃ、止めてやる。どうだ」
 猿轡にしていた手ぬぐいを外して、キスをした。今度は多香子は拒否をしていた。口をしっかりと閉じて入れさせなかった。
「あんまり意地悪をしないで。もう嫌」
「何時かも言ったけど、君の嫌はOKなんだ。それじゃ続けて撫でてあげよう」
「ううん、嫌、止めて。あぁ気持ちいい。もうどっちでも良いから、もっと優しくして」
「わかった。こうしてあげるよ」

 胸の膨らみに口づけをして、アマガミをした。身体が跳ねて吐息が漏れた。そして茂みに手を当てると十分にいけることを確認した。吊り下げている所から降ろし、ベッドに横たえた。手を縛っていた縄もほどいて、胸に渡された縄だけになった。

「僕は君に気持ちを打ち明けた。多香子の気持ちを知りたい」
 大きく息を吸って、多香子は話しだした。

 そういえばこの男は精神科医だったと思い出した。ずっと晴久のことを思っていたはずなのに、いざ気持ちを言葉にしようとすると、史之のことが頭から離れなくなった。

「愛してるって言葉にするの簡単だけど、愛がなんだかわからない。でも、こうしていると幸せを感じるの。ずっとこうしていたい。あなたとの行為じゃないと、自分の中の女が喜んでいない気がするの。どこまでも、女を押し付けてくるのに。それは以前には嫌っていたことだった。それに寂しん坊の傍にいたい気持ちもある。これが愛なら、私は、あなたも、愛してしまったのかもしれない。だからもう、試すことはしないで」

 多香子の目からは涙がこぼれ落ちていた。心から泣いているきれいな涙だった。複数の人と恋愛をする人のことを『ポリアモリー』というのを晴久は知識として持っていた。
 多香子は自分ともう一人の男を愛しているのは間違いないと思った。浮気とか気の迷いといったものとは違うと言った確信もあった。晴久は多香子の涙を信じることにした。

「僕は、君のその彼の存在を認めるよ。だから無理をしなくて良い」
「うれしい。その言葉に甘えていいの」
「あぁ、大丈夫だ。多香子は複数の人と恋愛をするタイプなんだろう。僕はそう理解するしかないな」
「複数の人と恋愛をするタイプ?」
「そうだ。ポリアモリーという。ポリだから複数。単独ならモノ。1対1の恋愛ならモノガミーっていうんだ」
 多香子はこういう恋愛も、表す言葉があることに安心していた。
「今度、私を試したら、許さないからね」
「多香子がポリアモリーとしてやっていくなら、条件がある。他に好きな人ができたら正直に言ってくれ。それは相手にも言うんだ」
「教えてくれてありがとう。晴久に隠し事はしません。だいじょうぶ」
 多香子は晴久の目をまっすぐに見て、笑っていた。その笑顔を見て晴久は、多香子との関係が強くなったと確信していた。

 多香子はこうして抱かれることで、女であることを楽しんでいられるのは、この男の熱さのせいだと思っていた。もっと激しくして欲しい。そうして自由になれることもある。そして時々見せる寂しい表情を癒せるのも、私だけだとうれしいのだけれど。
 この感情を、晴久に対する愛情と認めて良いとわかると、楽になったのがわかった。このまま、この気持ちのまま、我慢しなくていい。


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